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第五章 学園編2

第60話 皇室騎士団

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 翌日、ルーシーとソフィアは何事もなく学園に通学した。

 事件は皇室騎士団のそれは見事な手腕により何事も無かったかのように処理された。

「ぐぬぬ、せっかくの制服が一週間も着ずに跡形もなく消滅するとは。予備で一着買っておいてよかったが、これではクリーニングにも出せない……」

 ルーシーは急きょスペアの制服を下ろしたが、箱にしまったままだったので変についたしわを伸ばしながら一人ぼやく。

「うふふ、ルーシーさん。なら、せっかくですので週末に服屋さんにでも行きましょうか?」

「うーん、もちろんそうしたいんだけど……結構いい値段したんだよね。下手なドレスよりも全然高いし……」

 そう、オリビア学園の制服は確かに高い。先代皇帝オリビアの名を冠している学園だ。格式高い学園は制服だって高いのである。

 もっとも、値段相応に上質な生地に確かな裁縫技術によって作られた制服はかなり丈夫であり、一度買ってしまったら卒業まで着続けることが出来るので、流行に左右されるドレスとは違いコスパは遥かに良いだろう。

「それに……今は手持ちのお金は無いし、生活費はすべてアランおじさんに預けて、お小遣い制にしてもらってるし、理由を喋ったら心配かけちゃうだろうなぁ……」

 ルーシーはさすがに新しい制服を買う理由を正直に話せない。
 ニコラス殿下を乗っ取った何者かの魔法によって、制服を破られ全裸にさせられたと言ったら、アランおじさん経由でお父様が魔剣を手にニコラス殿下の首を取りかねないのだ。

「うーん、ルーシーさんの気持ちは分かりますわ。でも先生方には既にバレてると思うわ。でもまあ、アラン先生に話しづらいなら一緒に付き合ってあげますわ。お小遣いも弾んでもらえるように説得しなきゃね!」

 ソフィアの言うとおり、昨日の出来事は学園長と関係者の教員には知らされていた。当然ルーシーの保護者であるアランとイレーナも含まれる。

 ◆◆◆

 昨日の事件の後。

 ニコラス殿下の邸宅は周辺を巻き込んで大混乱となった。さすがに戦闘の音は隠しようがなかったのだ。

 皇室騎士団が騒ぎを聞きつけてニコラスの邸宅に駆けつけたころには、周囲には人混みができていた。

 騎士団長は仮設の天幕を作戦本部にして、今まさに情報収集と今後の作戦をたてていた。

 出頭したニコラスは兄である騎士団長の前に跪き、涙を流しながら兄に謝罪する。

「あ、兄上……。お、俺は。自分の下らないプライドで、大切なクラスメートを殺してしまうところでした。俺を罰してください!」

「ニコラス! 無事だったか。心配したぞ……。今、突撃するかどうか協議していたのだ。いったい何があったのだ?」

 ニコラスは震えながら、唇を噛み締める。
 罪を償う覚悟はあったが、自分を心の底から心配する優しい兄を前に、全てを話すことに臆病になってしまったのだ。
 そして兄の優しい顔が自分を軽蔑する顔に変わるのが怖かった。

「ウィリアム殿下。ニコラス殿下の事で少しお話をよろしいですか? あと、ルーシーさんを少し寝かせてあげたいので簡易ベッドをお貸しくださいませ」

 ニコラスの後ろから、薄いワンピースを着た少女の肩を持ち上げながら歩いてくる、オリビア学園の学生が天幕の前まで歩いてきた。

「む、貴女は! ソフィア・レーヴァテイン嬢。それに、隣の少女は……。いけません、魔力枯渇を起こしている様子。おい! 至急簡易ベッドの準備を。それとマジックポーションに毛布を!」

 ルーシーを簡易ベッドに寝かせると、騎士団に随行していた女性の衛生兵に後を託す。さすがはウィリアム殿下であった。

「さて、ニコラス殿下。今回の事件については私も証言をする必要があります。当然ですね? もちろんニコラス殿下を疑っておりませんが、私の報告も今回の事件には重要かと思いますので」

「……ああ、俺は構わない。というか、そうすべきだろう。……兄上、俺は皇室の顔に泥を塗ってしまいました――」

 全てを自白するニコラス。
 実直に自分の罪を吐き出す彼だが、ソフィアはニコラスが全ての悪ではなく、呪いの魔道具に操られていたという状況の説明を補足していった。

 …………。

 あらかた状況の説明を終える。騎士団長ウィリアム殿下はため息をつきながら言葉を発する。
 
「……そうか、ニコラスが迷惑を掛けてしまった。申し訳ない。この償いはかならず、ウィリアム・カルルクの名においてさせていただきます。ですが今は事態の収拾に尽力したいとおもいます。ソフィア嬢、ご理解を。
 ニコラスもだ! お前の処罰は後回しだ。まずは近隣住民へ謝罪をしないとな。当面は……そうだな、ニコラスが古代の魔法道具の扱いを間違え爆発事故を起こしてしまったとしよう。
 迅速に対応すれば今なら騒音問題で片付く。噂が広まる前に鎮圧するのだ。

 これより皇室騎士団全員へ作戦を通達する! 斥候隊、商店街へ行って高級お菓子の詰め合わせをありったけ買え!
 そして、騎士団全員で手分けして家々を回り、説明と謝罪をせよ。あくまで低姿勢を忘れるなよ?」

 こうして皇室騎士団長ウィリアム殿下の手腕により。事件は大事にならずに収束していったのだった。
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