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第八章 ダンスパーティー
第132話 頼れるのは幼馴染
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「よう、ルーシー、話は聞いたぜ!」
「うふふ、ルーシーちゃん。おめでとー。皇子様と舞踏会なんて女の子の夢だわー、うふふふー」
イレーナの屋敷の玄関にて、ニコニコ顔の幼馴染二人が立っていた。
「ジャン君、アンナちゃん!」
宮中パーティーの噂を聞いたのか、ジャンとアンナはイレーナの屋敷にやってきたのだ。
「ルーシーちゃん。ドレスは持ってるの? まさか黒いのじゃないよね、これは人生がかかってるのよ? 自分の趣味ばかりじゃ駄目よー?」
ルーシーはたまにぐいぐい来るアンナに弱い。
彼女は普段おっとり口調であるが、昔から二つ年上のお姉さんとしてルーシーに多大な影響を与えていた。
『地獄の女監獄長』という本をルーシーに与えたのも彼女だ。
「むー、アンナちゃん。残念だが私の持ってるドレスは黒だ。……でも殿下からもらったものだし、それを着ないとだめでしょ?」
ルーシーは正直に話す。ドレスは殿下に買ってもらったものを着ていくつもりだと。
アンナは顎に手をあて少し考えると、すぐに結論が出た。
普通、女の子に服を送るときは黒は選ばない。だがルーシーの好みを知っての行動だったのならば納得である。
少なくともニコラス殿下はルーシーの事をよく調べている。それは好意の証だと評価する。
「あー、そっかー。なら問題ないわー。うふふ。皇子様はルーシーちゃんにお似合いだと思うわー」
ニコラスを無視しながら話すアンナという女性。
ルーシーの幼馴染だとは聞いているが、正直本人の目の前でいろいろ言われるのは恥ずかしい。
そういえば自己紹介がまだだった。アンナやジャンとは初対面だと気づくニコラス。
「こ、こほん。その、アンナ先輩、ジャン先輩。お初にお目にかかります。私がニコラスです」
すっかり影の薄い第七皇子であったが、それでも皇族のオーラはわずかにある。
金髪に整った顔立ち、なにより現皇帝によく似ている容姿は疑いようもない。
アンナはニコラス殿下本人がいるとは思っていなかった。
「あれれー。まさかのご本人様? あ! そっかー。今ダンスの練習中だったねー。ほら、ジャン君も皇子様の前よ、ご挨拶しないとー」
「お、おう。……殿下、俺はジャンと言います。いつもルーシーがお世話になっています。今後ともルーシーをよろしくお願いします」
「なにそれー、ジャン君。ルーシーちゃんのパパみたい」
ジャンとしては目の前の皇子様に緊張しているのだが、それにしても皇族をまえに一切動じないアンナは大物だと思った。
だが、ジャンは同時に思う。ルーシーの親父さんが知ったらどうなるだろうか。
「……アンナ、クロードさんは怖いぞ? 殿下にはこの先試練が待っているとしか思えない……」
「そだねー、確かに。ルーシーちゃんのパパはルーシーちゃんが大好きだからねー。きっと、決闘を申し込むんじゃないかなー」
「おいおい、アンナ。さすがに飛躍しすぎだぞ? クロードさんはグプタの警備隊長だ。さすがに外交問題にはならないって……たぶん」
ルーシーはジャンとアンナの会話を聞いて思い出す。
父クロードは確かニコラスの首を取るとか言っていたような……いやそれは言葉の綾だと信じるルーシー。
そんな事よりも、ジャンとアンナがここに来た理由が知りたい。
「ところで、お父様のことは置いといて、二人は何しに来たの?」
「ああ、そうだった。実はな、お前たちがダンスの練習をするときいてな、これが使えるんじゃないかと思ってな」
ジャンとアンナは一つの魔法機械をルーシー達に披露する。
それは果物を入れる木箱程の大きさであった。
ジャンとアンナはそうっと慎重にその魔法機械を運び、テーブルの上に置く。
「これはな、音を保存する魔法機械。ルカ様が金になるかもしれんから作ってみろって、俺達に教えてくれたんだ。
ルカさんは音楽に興味が無いからって随分と適当だったから完成させるのに大変だったぜ」
ジャンが、魔法機械を起動すると。音楽が聞こえてきた。
ぶつぶつとノイズがあるが、これはワルツだった。
「どうだ、音楽があると練習の効率もあがるだろう? ちなみにこれは試作品でな。俺達の卒業論文はこれでいこうって、アンナと話してたんだよ。ぜひ感想を聞かせてくれよ」
魔法機械から聞こえるワルツ。まるで箱の中にオーケストラがいるようだった。
「むむむ、この魔法機械は演奏ができるのか。中に小人さんの音楽隊がいるのかな?」
ルーシーは箱をあけて中に小人がいないか確かめようとする。
「おいおい、ルーシー。小人さんってお前、そんなメルヘンチックなやつだっけ? あ、でもドラゴンロードなんだし、案外そうかもしれんか。だがルーシーよ。これはれっきとした魔法機械さ」
「そーだよー、ルーシーちゃん。これはねー、音を風の魔法石で増幅してねー、特殊な板に音を刻みつけるんだよー。でも、普通の人には理解できないから、小人さんでもオーケーだよー。そっちのほうが可愛いしー」
ジャンとアンナはルーシーに分かりやすく理論を説明する。
だが分からない。
ルーシーは馬鹿にされたようで、少しだけむくれる。だが魔法機械の凄さを実感した瞬間でもある。
ただの箱から音楽が聞こえるのだ。それは自分が学んでいる魔法では決して不可能な現象だと理解したからだ。
「うふふ、ルーシーちゃん。おめでとー。皇子様と舞踏会なんて女の子の夢だわー、うふふふー」
イレーナの屋敷の玄関にて、ニコニコ顔の幼馴染二人が立っていた。
「ジャン君、アンナちゃん!」
宮中パーティーの噂を聞いたのか、ジャンとアンナはイレーナの屋敷にやってきたのだ。
「ルーシーちゃん。ドレスは持ってるの? まさか黒いのじゃないよね、これは人生がかかってるのよ? 自分の趣味ばかりじゃ駄目よー?」
ルーシーはたまにぐいぐい来るアンナに弱い。
彼女は普段おっとり口調であるが、昔から二つ年上のお姉さんとしてルーシーに多大な影響を与えていた。
『地獄の女監獄長』という本をルーシーに与えたのも彼女だ。
「むー、アンナちゃん。残念だが私の持ってるドレスは黒だ。……でも殿下からもらったものだし、それを着ないとだめでしょ?」
ルーシーは正直に話す。ドレスは殿下に買ってもらったものを着ていくつもりだと。
アンナは顎に手をあて少し考えると、すぐに結論が出た。
普通、女の子に服を送るときは黒は選ばない。だがルーシーの好みを知っての行動だったのならば納得である。
少なくともニコラス殿下はルーシーの事をよく調べている。それは好意の証だと評価する。
「あー、そっかー。なら問題ないわー。うふふ。皇子様はルーシーちゃんにお似合いだと思うわー」
ニコラスを無視しながら話すアンナという女性。
ルーシーの幼馴染だとは聞いているが、正直本人の目の前でいろいろ言われるのは恥ずかしい。
そういえば自己紹介がまだだった。アンナやジャンとは初対面だと気づくニコラス。
「こ、こほん。その、アンナ先輩、ジャン先輩。お初にお目にかかります。私がニコラスです」
すっかり影の薄い第七皇子であったが、それでも皇族のオーラはわずかにある。
金髪に整った顔立ち、なにより現皇帝によく似ている容姿は疑いようもない。
アンナはニコラス殿下本人がいるとは思っていなかった。
「あれれー。まさかのご本人様? あ! そっかー。今ダンスの練習中だったねー。ほら、ジャン君も皇子様の前よ、ご挨拶しないとー」
「お、おう。……殿下、俺はジャンと言います。いつもルーシーがお世話になっています。今後ともルーシーをよろしくお願いします」
「なにそれー、ジャン君。ルーシーちゃんのパパみたい」
ジャンとしては目の前の皇子様に緊張しているのだが、それにしても皇族をまえに一切動じないアンナは大物だと思った。
だが、ジャンは同時に思う。ルーシーの親父さんが知ったらどうなるだろうか。
「……アンナ、クロードさんは怖いぞ? 殿下にはこの先試練が待っているとしか思えない……」
「そだねー、確かに。ルーシーちゃんのパパはルーシーちゃんが大好きだからねー。きっと、決闘を申し込むんじゃないかなー」
「おいおい、アンナ。さすがに飛躍しすぎだぞ? クロードさんはグプタの警備隊長だ。さすがに外交問題にはならないって……たぶん」
ルーシーはジャンとアンナの会話を聞いて思い出す。
父クロードは確かニコラスの首を取るとか言っていたような……いやそれは言葉の綾だと信じるルーシー。
そんな事よりも、ジャンとアンナがここに来た理由が知りたい。
「ところで、お父様のことは置いといて、二人は何しに来たの?」
「ああ、そうだった。実はな、お前たちがダンスの練習をするときいてな、これが使えるんじゃないかと思ってな」
ジャンとアンナは一つの魔法機械をルーシー達に披露する。
それは果物を入れる木箱程の大きさであった。
ジャンとアンナはそうっと慎重にその魔法機械を運び、テーブルの上に置く。
「これはな、音を保存する魔法機械。ルカ様が金になるかもしれんから作ってみろって、俺達に教えてくれたんだ。
ルカさんは音楽に興味が無いからって随分と適当だったから完成させるのに大変だったぜ」
ジャンが、魔法機械を起動すると。音楽が聞こえてきた。
ぶつぶつとノイズがあるが、これはワルツだった。
「どうだ、音楽があると練習の効率もあがるだろう? ちなみにこれは試作品でな。俺達の卒業論文はこれでいこうって、アンナと話してたんだよ。ぜひ感想を聞かせてくれよ」
魔法機械から聞こえるワルツ。まるで箱の中にオーケストラがいるようだった。
「むむむ、この魔法機械は演奏ができるのか。中に小人さんの音楽隊がいるのかな?」
ルーシーは箱をあけて中に小人がいないか確かめようとする。
「おいおい、ルーシー。小人さんってお前、そんなメルヘンチックなやつだっけ? あ、でもドラゴンロードなんだし、案外そうかもしれんか。だがルーシーよ。これはれっきとした魔法機械さ」
「そーだよー、ルーシーちゃん。これはねー、音を風の魔法石で増幅してねー、特殊な板に音を刻みつけるんだよー。でも、普通の人には理解できないから、小人さんでもオーケーだよー。そっちのほうが可愛いしー」
ジャンとアンナはルーシーに分かりやすく理論を説明する。
だが分からない。
ルーシーは馬鹿にされたようで、少しだけむくれる。だが魔法機械の凄さを実感した瞬間でもある。
ただの箱から音楽が聞こえるのだ。それは自分が学んでいる魔法では決して不可能な現象だと理解したからだ。
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