16 / 92
第二章 逃避行
第16話 逃避行②
しおりを挟む
森を進む。
かなり森の奥深くに来ているのか、木々の茂りは増している。
昼間だというのに周りは薄暗い。
稀に光が差し込んでくる場所があった。
そこで時間と方角を確認しながら、地図を確認し前に進む。
魔獣はマッドフォレストウルフを倒してからは一匹も出現していない。
それに動物すらこの周辺にはいなかった。
どうやらマッドフォレストウルフが徘徊しているエリアには他の魔獣も動物も近づかないようだった。
それがどの範囲に及ぶのかは分からないが。少なくともあれから三日は無事だった。
夜になる。
俺達は野営にもすっかり慣れてしまっていた。
いや、それは野営のプロである冒険者には失礼な話だろうか。
ただただキッチンカーがあって本当に助かった。
これは多機能で、おおよそ野営に必要な機能を持っている。
調理器具はもちろんのこと、寝てる間は周囲に魔法結界を展開してくれるのだ。
だから見張りの必要がない。
シャルロット曰く、この結界は拠点防衛用の設置型結界の一種で、シールド魔法の用に移動しながらの展開は不可能だが防御力は抜群だという。
これを突破できるのは中級魔法のほとんどを修めたマスター級の魔法使いか、それと同等以上の魔獣以外には不可能ということだ。
今日もこのキッチンカーを中心にテントを張った。
テントもこのキッチンカーに常備されている。
ギリギリ5人が寝れる広さのテントだ。俺達は二人だからかなり余裕がある。
好きな場所に寝床を作り寝ることが出来た。
しかし、シャルロットはいいのだろうか、男と一つ屋根の下で寝るのは抵抗があるのでは。
それとなく聞こうとしたが。彼女は俺に対してなんの警戒心もない。
いや、さすがに俺だってどうこうしようって気はないが。
少し無防備すぎではないか。魔法使いは無防備である……。
って、そういう意味ではないだろう。
俺は落ち着くために本を読んでいたが。
魔法使いは無防備という言葉に別の意味を見出してしまったのだろう。
いやいや、煩悩よされ、いくら大人びているとはいえ相手は12歳だ。
俺の横で堂々と着替えている、この無防備な少女から視線を逸らし本に集中する。
衣擦れの音が聞こえる。……本に集中しろ。相手は子供だぞ。集中だ。
本にこう書いてあった。
――魔法使いとは無防備である。
なぜなら魔力切れを起こしたものは、同時に身体能力が劇的に落ちてしまうのだ。
特に戯曲魔法の使用後はそれが顕著である。
ある日、高名な宮廷魔術師がセレモニーで戯曲魔法を披露したことがあった。
観客はその魔法の華やかさに視線は釘付けになったが、私の関心はその術者にあった。
極大魔法を使用した魔法使いは身の丈にあってなかったのだろう。
魔力を完全に失ったようだった。直後にその場に倒れ身動きがとれなかった。
普段なら、周りに威張りちらしていた、栄えある宮廷魔術師の彼女だったが。
その瞬間の弱々しい姿に私の視線は釘付けになった。
私は彼女ほどの才能はなく普段、疎ましく思っていたが。その瞬間に一目ぼれをしてしまったのだ。
その一瞬の表情の変化に、読者の男性諸君は共感してくれるだろうか。
私はその弱々しく無防備な姿に劣情を催してしまったのだ。
それからというもの私は彼女に――馬鹿馬鹿馬鹿、変態変態変態――
……本を閉じる。
ここにも落書があった。ページの途中に突然こういう落書は心臓に悪い。まったく誰の仕業だ。
だが、おかげですっかり煩悩は去った。
いつの間にかシャルロットの寝息が聞こえる。
丁度いい。俺も落ち着いたし。明日は速く行動すれば、昼までに川に到着できるだろう。
早朝。
俺達はほぼ同時に目が覚め。
既にお互いにルーティンワークとなっている、朝食作りを始めていた。
朝食と言っても事前に作っておいた硬いパンを蒸気で蒸かし、コーヒーを入れる程度だが。
しかし流石に貴族ご用達のキッチンカー。コーヒー豆と紅茶のストックは充実していた。
パンしかないとはいえコーヒーがあると全然違う。
俺は嗜好品の価値を見誤っていた。コーヒーの香りだけでこのみすぼらしいパンでも食欲が沸くのだ。
朝食を済ませると、俺はシャルロットに言った。
「よし、今日は順調に進めば川に到達する。そこで少し食料調達でもしようじゃないか。魚は好きかな?」
「嫌いだったけど、きっと今なら好きになれるわ。いいえ食べられるなら何でもいいわ。さあ張り切って行きましょう!」
うむ。元気いっぱいだ。俺も久しぶりに魚が食べられると思うと気分が高揚する。
かなり森の奥深くに来ているのか、木々の茂りは増している。
昼間だというのに周りは薄暗い。
稀に光が差し込んでくる場所があった。
そこで時間と方角を確認しながら、地図を確認し前に進む。
魔獣はマッドフォレストウルフを倒してからは一匹も出現していない。
それに動物すらこの周辺にはいなかった。
どうやらマッドフォレストウルフが徘徊しているエリアには他の魔獣も動物も近づかないようだった。
それがどの範囲に及ぶのかは分からないが。少なくともあれから三日は無事だった。
夜になる。
俺達は野営にもすっかり慣れてしまっていた。
いや、それは野営のプロである冒険者には失礼な話だろうか。
ただただキッチンカーがあって本当に助かった。
これは多機能で、おおよそ野営に必要な機能を持っている。
調理器具はもちろんのこと、寝てる間は周囲に魔法結界を展開してくれるのだ。
だから見張りの必要がない。
シャルロット曰く、この結界は拠点防衛用の設置型結界の一種で、シールド魔法の用に移動しながらの展開は不可能だが防御力は抜群だという。
これを突破できるのは中級魔法のほとんどを修めたマスター級の魔法使いか、それと同等以上の魔獣以外には不可能ということだ。
今日もこのキッチンカーを中心にテントを張った。
テントもこのキッチンカーに常備されている。
ギリギリ5人が寝れる広さのテントだ。俺達は二人だからかなり余裕がある。
好きな場所に寝床を作り寝ることが出来た。
しかし、シャルロットはいいのだろうか、男と一つ屋根の下で寝るのは抵抗があるのでは。
それとなく聞こうとしたが。彼女は俺に対してなんの警戒心もない。
いや、さすがに俺だってどうこうしようって気はないが。
少し無防備すぎではないか。魔法使いは無防備である……。
って、そういう意味ではないだろう。
俺は落ち着くために本を読んでいたが。
魔法使いは無防備という言葉に別の意味を見出してしまったのだろう。
いやいや、煩悩よされ、いくら大人びているとはいえ相手は12歳だ。
俺の横で堂々と着替えている、この無防備な少女から視線を逸らし本に集中する。
衣擦れの音が聞こえる。……本に集中しろ。相手は子供だぞ。集中だ。
本にこう書いてあった。
――魔法使いとは無防備である。
なぜなら魔力切れを起こしたものは、同時に身体能力が劇的に落ちてしまうのだ。
特に戯曲魔法の使用後はそれが顕著である。
ある日、高名な宮廷魔術師がセレモニーで戯曲魔法を披露したことがあった。
観客はその魔法の華やかさに視線は釘付けになったが、私の関心はその術者にあった。
極大魔法を使用した魔法使いは身の丈にあってなかったのだろう。
魔力を完全に失ったようだった。直後にその場に倒れ身動きがとれなかった。
普段なら、周りに威張りちらしていた、栄えある宮廷魔術師の彼女だったが。
その瞬間の弱々しい姿に私の視線は釘付けになった。
私は彼女ほどの才能はなく普段、疎ましく思っていたが。その瞬間に一目ぼれをしてしまったのだ。
その一瞬の表情の変化に、読者の男性諸君は共感してくれるだろうか。
私はその弱々しく無防備な姿に劣情を催してしまったのだ。
それからというもの私は彼女に――馬鹿馬鹿馬鹿、変態変態変態――
……本を閉じる。
ここにも落書があった。ページの途中に突然こういう落書は心臓に悪い。まったく誰の仕業だ。
だが、おかげですっかり煩悩は去った。
いつの間にかシャルロットの寝息が聞こえる。
丁度いい。俺も落ち着いたし。明日は速く行動すれば、昼までに川に到着できるだろう。
早朝。
俺達はほぼ同時に目が覚め。
既にお互いにルーティンワークとなっている、朝食作りを始めていた。
朝食と言っても事前に作っておいた硬いパンを蒸気で蒸かし、コーヒーを入れる程度だが。
しかし流石に貴族ご用達のキッチンカー。コーヒー豆と紅茶のストックは充実していた。
パンしかないとはいえコーヒーがあると全然違う。
俺は嗜好品の価値を見誤っていた。コーヒーの香りだけでこのみすぼらしいパンでも食欲が沸くのだ。
朝食を済ませると、俺はシャルロットに言った。
「よし、今日は順調に進めば川に到達する。そこで少し食料調達でもしようじゃないか。魚は好きかな?」
「嫌いだったけど、きっと今なら好きになれるわ。いいえ食べられるなら何でもいいわ。さあ張り切って行きましょう!」
うむ。元気いっぱいだ。俺も久しぶりに魚が食べられると思うと気分が高揚する。
10
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる