灰色の第四王女

神谷モロ

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第5話 呪いのドラゴンロード②

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 私たちは海岸線を意識しつつ再び森の中を進む。

 砂浜は移動に制限がかかるし、突然の断崖絶壁に遭遇することもある。
 それに森という隠れ蓑がない。
 王国にバシュミル大森林の沿岸を監視する船がないとは限らない。
 団員たちも同意見だ。

 ここ数日の間に魔獣の襲撃が数回あった。いずれも大したことはなかった。
 だが、連戦による疲労がたまったため。今日は早めに天幕を広げた。

 私も長旅のせいか、今日は疲れた。
 食糧事情の改善はいいが移動時間が増えるとそれはそれで疲労がたまるのだ。 

「姫様、今日は魔獣の肉が大量ですね。そういえば、私の故郷の年寄りがこんなこと言ってました。
 魔獣は取れたての生肉が旨い、そして疲労回復に最適だって」

 マーサは元気に私に言った。彼女も疲れているのは分かってる。
 だから、無理に元気づけようとおかしな話をしてくるのだろう。
「マーサ。魔獣以前に獣の肉は生では食べてはだめよ。そのご老人には悪いけど。たぶん嘘よ、出なきゃ食中毒で死んじゃうわ」

 マーサは、私の返事に上機嫌で答える。
 そういえばずっと強行軍でマーサとこうやって話すのは久しぶりだ。

「いえいえ姫様、実はその老人は私の故郷の生まれじゃなくて。移民してきた方なんですけど。今から二十年くらい前でしょうか。
 私が姫様くらいの年齢の時に。故郷にふらっと訪れて住み着いたのです」

 マーサが言うにはその老人は、白髪交じりの黒髪だったが。目つきは鋭く。歴戦の強者のようだった。
 住民たちは家に住むように勧めたが、それを断り、野宿をして生活していた。
 かといって決して不潔ではなかった。毎日、村の外にある滝に行って水浴びをしているそうだ。

 彼は水浴びの最中には両手を合わせて数時間動かないこともあったという。
 何を食べてるのか気になったが、普段は魚をとっているようだった。

 マーサは好奇心から、彼をしばらく観察していたそうだ。
 そしてついに魔獣の生肉を食べている彼を目撃したそうだ。

 マーサは慌てて彼に駆け寄り。生肉はだめです。と注意したのがきっかけで生肉のレシピを聞いたらしい。

「へえ、ちょっと興味深い話だけど、それでも生肉はだめよ」
「ただの、生肉ではないのです。その老人は肉の表面を強火で数秒間焼いた後に何やら不思議な香草をまぶして食べてましたね。料理名はサシミーというそうです。姫様もどうですか?」

「どうですかって、さすがにそれはやめておくわ。でも表面をこんがり焼くというのはちょっとおいしそうね。知らない異国の料理というやつかしら。そのご老人はどこの出身なのかしら?」
「はて、そういえばモガミの里とか言ってました。姫様はご存じですか?」

「うーん、知らないわね。今度調べてみましょう。ちなみに私は生肉は遠慮します」
「はい、私も食べてもらおうとは思ってませんので。でも面白い話でしたでしょ?」

 なんだ、マーサが私を元気づけるために昔みたいにおとぎ話をしてくれたのか。
 実際少し元気になった。マーサは私にとってかけがえのない人だ。
 
 翌日。

 私たちは再び移動を開始した。
 最近魔獣の襲撃が多い。
 安全に配慮して斥候を増やし。本隊を囲うように防御陣を厚くした。

 移動速度は落ちるが致し方ない。

 魔獣討伐には精鋭の50名を先遣隊として前方に配置した。
 この中には最も優秀な斥候であるアランとアレンも加えた。
 進行方向の敵をいち早く発見し機動力に優れる少数精鋭で魔獣を狩る。
 考えられる最善の布陣である。


 日が高く上るころ。
 それは急に起こった。
 
「ドラゴンだ! おい、野郎ども槍だ! ありったけの武器を集めてこい!」

 ドラゴン! 私は耳を疑った。
 ドラゴンとは高い知能を持ちバシュミル大森林よりも北方の山脈の遥か奥にいるというのが通説だった。
 バシュミル大森林に現れたという話は聞いたことがなかった。

「姫様ぁ! はぁ、はぁ、良かったこちらにおられたのですね」

 マーサが息を切らせながら走ってきた。
 私は陣の後方の状況を見ていた。
 遅れた者がいないか。後方は手薄になるし物資の管理などこまめなチェックが必要だったのだ。 

 そこにマーサが慌てて私に駆け寄ってきたのだ。
 ただ事ではない。  
  
「マーサどういう状況なの? ドラゴンって本当なの?」

「はい、戻ってきた斥候の報告によると突然ドラゴンが上空から現れて、先遣隊に襲い掛かり。
 ……その報告を聞いたクロード様がすぐさま現場に向かったそうです」

 …………!

 なんてこと、クロードは知らない。ドラゴンというのが本当なら。
 あれは人類では勝てない。急がないと。

 次の瞬間には私は走っていた。

「姫様! どこに!」 

「クロードを止めないと! マーサ! 貴方は、ここにいて! もし、そうね、私が戻らなかったら。全員逃げて頂戴。無責任かもしれないけど、それ以上の策が思いつかない」

 馬を見つけるが。本能で警戒しているのか誰も騎乗させたがらない。振るえているのだ。
 ならドラゴンは本物だろう。

 私は走った。心臓が張り裂けるかと思うくらいに。

 お願い! 間に合って! クロード! 戦ってはだめよ。ドラゴンを倒した英雄譚なんて全部嘘。勝てるわけないのよ。

 私はおじい様から聞いたのだ。自身よりも大きな魔物には注意すること。間違っても三倍以上の体躯のある魔物とは戦ってはならない。
 それでも魔剣があるならば、あるいは何とかなるだろう。
 しかしそれ以上の個体だったならば?
 ドラゴンはそれよりも大きく、魔力も人間の比ではない。
 前提がちがうのだ。

 唯一の対策は交渉すること。彼らは人語を話すことが出来る。ドラゴンに対抗するには知性しかないのだ。

 遠くにクロードの後ろ姿が見えた。
 それよりも前から巨大なドラゴンの姿は見えていたが。
 関係ない。私はクロードだけを見ていた。

 私は走る。走る。走る。

「ハァハァ……、クロード! 待って! ドラゴンさん! 話を聞いて!」
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