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第二章

第49話 草原の民

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 俺たちは旅の途中で丁度よい休憩場所を見つけたので馬を休ませるために立ち寄る。

 馬は旅の主役である。人間を休憩させる為ではないのだ、とユーギは皆に熱弁する。

 なるほど、確かにそうだ。こいつの新たな一面を知った。決して無慈悲というわけでもないのだろう。

 ユーギは馬の面倒をみている。
「おーよしよし、いい子だ。君達はほんといい子だよ、馬鹿で愚かな人間なんかよりよっぽどいい子だよ」

 最後の一言が余計だが、ユーギは馬の扱いが非常に上手だ。ここは素直に認めよう。馬もユーギになついている。

 美少女が馬を愛でる光景は絵画になるレベルだろう。……やつの正体を知らなければだが。

 ハンス君がユーギに近寄る。

「ユーギさん次は僕も馬に乗ってみようと思う。これでも僕のご先祖さまは草原の民だったんだ」

「おやおや、都会暮らしの元遊牧民はくそ雑魚になりさがるのは歴史の必然なんだが。大丈夫かな?」

 早速あおるユーギ、人間には冷たいんだよな、だからこの先何をしでかすかわからない危うさがある。

「な、なにを! 見てろよ、これでも馬の乗り方はそれなりに自信があるんだ」

「あはは、ごめんごめん、まあ、頑張んなさい」


「あの、ユーギ君、私たちも次は馬に乗ってみようとおもうの」

「お、ローゼちゃんにシルビアちゃん。いいよいいよ大歓迎だよ、僕が手取り足取り教えてあげるよ」

「おい、ユーギさん、僕に対する扱いと随分違うじゃないか!」

「いやー、君が草原の民とか吹いてきたから、からかっただけだよ。気にしない気にしない、それに僕は女の子にはやさしいんだ」
 
 正直なやつだ、女性には優しい、露骨な態度であるが分かりやすい。だがお前も女の子だ、男じゃなくて正解だったな。やつを転生させた神様グッジョブだ。


「アンネちゃんもどうだい? 僕と……、いや、やめておこう。僕は馬が好きだけど、馬に蹴られるまでの癖はない」

 アンネさんはドルフ君に馬の乗り方を教えてもらっていた。さすがの神でもこのラブラブオーラは突破できないようだ。


 ドルフ君も馬には乗れるらしい。さすがは肉体派ナンバー1だ。

 俺も見習わないとな、とは思う。勇者だからといって馬に乗れるわけではない。乗れなくても今までは問題にならなかった。

 ま、今はそれはいいか、馬に乗るメリットがないからな。怖いとかそういう訳ではない。だんじてない。

 それに馬車に乗る人間が必要だ。御者はもちろん俺じゃない。カール氏だ、流石は商人系貴族の御曹司なだけある。

 馬車の扱いくらいはこの機会に学んでおこうか。

「さてと、そうすると馬を調達しないとね。全員分はさすがに多いかな、二頭くらい調達して乗り回すのがいいと思うんだ、勇者君それでいいね?」

「うむ、まあ馬の扱いを学ぶのも大事なことかもしれないし。反対する理由はないよ」

 俺はユーギの意見に同意すると、馬車に戻る。荷物の管理があるのだ、大きなお荷物が……。

「マスター、あ、違った。いもうと~あっちいですーアイスくださいですー」

 デュラハン……君のそのキャラはなんとかならんのか……もう少しだけシャキッとなさいよ。だらしない。格好もだ、カスタム制服に着替えやがって。少年誌の表紙のグラビア撮影に行くわけではないのだ。

 先生の目がないとはいえ。男子の目には毒だぞ。

 確かに暑いのは分かる、だから俺は魔法を発動させる、氷の魔法。水魔法と風の魔法の組み合わせで氷の塊を作り出す。もちろん味などない。

「ほら、氷だ、アイスだろ嘘はいってない」

「けっちーですー」

 文句を言いながら、氷をしゃぶるデュラハン。ケチとかそういう問題じゃなく、アイスクリームなどここで手に入る訳がないじゃないか。


「お、ハンス君、やるじゃないか、さすが草原の民といったところかな、見直しちゃったぞ!」

「そ、そうだろ? 俺だってやればできるんだ、次は一人で乗りこなして見せる」

 馬車の外から聞こえるユーギとハンス君の声、二人で一頭の馬に乗っている。前にハンス君で後ろにユーギ。

 ハンス君は馬の世話をしたことがあっただけで乗ったことは無いそうだった。後ろに乗ったユーギはハンス君に手取り足取り教えている様子だ。

 なるほどね、草原の民とか吹いていたのは本当のことだったのか。何でもできるハンス君も乗馬はだめだったか。まあ誰にでも苦手なことはあるのだ。


 しかしユーギは基本的にはそこまで悪い奴じゃないんだよな。口が悪いだけで、意外と面倒見がいい。

 女の子にだけやさしいと言ってはいたけどハンス君にもちゃんと教えているじゃないか。

 半分でも神は神か。いや完全な神だったころはこういうやつではなかった。地球での経験が生きたということだろうか。

「そうそう、今度は駆け足に挑戦しようか。上下に揺れるからね、ちょっと失礼するよ」

「ユーギさん! その、あまり密着すると、その……」

「あはは、何だい? ふくらみを感じてしまうかい? でもこうしないと僕は馬から落ちてしまうからね、ま、ご褒美だよ、ありがたく受け取りなさい。
 それよりも君は手綱に集中するべきだよ。さあやってみようか」 

 ユーギとハンス君の二人を乗せた馬は、馬車の前にでると勢いよく駆けていった。  


「ぶーぶー、私の存在感がユーギ君のせいで空気になってますー」

「安心しろデュラハンよ、皆さんそうだ。あいつは目立ち過ぎだ。やはり神は最悪だと結論せざるを得ない」

(そうですよ。身体があるだけましじゃないですか。私の方こそ空気ですよ)

「そうだぞ、ロボさんもユーギに存在をばれてしまってからは、いちいち反論されてしまって突っ込みが上手く出来ないのだ」

 馬車は順調にユーギとハンス君を追いかけながら順調に進んだ。馬も元気そのものだ。ユーギの馬の世話は本物だった。ストレスがないのか従順そのものだった。
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