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第三章
第94話 貧困街の教会
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竜王教会の大聖堂前。
俺達は娼館が立ち並ぶ、所謂、夜の街を通り、その奥にある大きな教会の前まで来ていた。
もちろん今は昼間だから、そういうお客様や客引きはいない。
荷物は馬車で運んだが、教会の入り口は道が狭いため、街で一番大きな娼館の前に馬車を止め、そこからは手運びとなる。
教会はこの大きな娼館の裏側にあった。
こんな場所に教会とはいいのだろうか、いよいよあやしい。
物資は多岐にわたり小さな木箱や麻の袋など実にこまごましているため、運ぶのに何往復もした。
教会の前には一人の女性が荷物の受け取りを担当している。教会の責任者だろう。
彼女は竜王教会の独特の衣装を着ている。
くやしいが少しカッコいいと思ってしまう。
元の世界のシスターが着る修道服に似ているが随所にファンタジー要素があって絶妙なのだ。
最後の荷物を運び終えると結構いい時間になっていた。
積み荷の内容までは確認できなかったが、食料や衣類だけではないことは確かだ。
「この度はまことにありがとうございます。私はこの教会のシスター、クロエと申します。この教会併設の孤児院の管理を任されております」
シスターは大きめのフードの様な被り物を脱ぐと俺達に挨拶をした。年は30代くらいの大人の女性だ。
「さあ、皆さんお疲れでしょうから、お礼といってはなんですが、せめてお茶でもどうですか? 手作りですがお菓子などもご用意しております」
お、これは願ってもない誘いだ。これで中に侵入しなくてもある程度の情報が分かるからな。
「こほん、しかしながらこの教会は男子禁制となっております、保護した女の子たちは男性に対して良くない感情を持っている子がほとんどですので」
シルビアさんはやや眉をひそめながら返事をした。
「そうですか、なら私たちだけというわけにもいきませんから遠慮させていただきます」
俺もこのシスターの言動はおかしいと思った。お礼でというのに、男性を拒絶するその態度、この人の思想は偏っている。
まあ、トラウマのある女の子を配慮してのことだと思うけど。うまく言えないが、歪に思えた。
「おっとシルビアちゃん、せっかくだからご相伴にあずかるとしようじゃないか。というわけだから、男子諸君は外で待っててくれ、男子にとっては楽しい街らしいから時間をつぶしてくるといいよ、まあ夜までにはまだ時間があるけどね」
ユーギはシルビアの言葉を遮ると、やや大きめの声で後にいる男子たちに言うと俺とシルビアにウインクをしてみせた。
教団としては男が居なければ俺達には何もできないと思っているのか。いや、そうでもないかも、本当に彼女は男性に嫌悪しているような眼差しを向けている。
過去になにかあったのだろう。俺としては侵入できる絶好のチャンスだ。断る理由がない、シルビアにはすまないけど、男子は男子でこの街を楽しむといいさ。もっとも営業時間外だけどな。
俺はシルビアとシスターにも聞こえるように言う。
「せっかくのおもてなしですのでご相伴に預かるとしますか、シルビアもそれでいいよね」
というわけで、シルビアにローゼさんとユーギに俺は教会の中に入ることにした。
待機組はカール氏とハンス君だ。
ちなみにアンネさんとドルフ君は今回の仕事は遠慮してもらった。大事な体だしな。
教会内の作りは元の世界の十字架の宗教と作りは似ているが、センターにあるドラゴンの石像? のようなご神体はオリジナリティがある。
しかも、頭は竜だが身体は人間に似ている。リザードマンみたいな感じかな。
なんで人型にしたのかは疑問があるが。まあそれは宗教の解釈だ、素人が口出ししてはいけない。トラブルの元だ。
「おやおや、竜王はいつから人間の身体になったんだい?」
……それに、俺がいちいち口出ししなくても、ユーギというおしゃべりマシーンが言いたいことをずけずけというからだ。
「おや、ご存じないのですか? 竜王様は人の姿になり人類を救済してくださっているのですよ。ですから私たち信徒は竜王様に祈りを捧げているのです」
「へぇーなるほどねぇ、大変だねー君も、同情するよ」
竜王の石像に向かってしゃべるユーギ、余計なこと言って怪しまれるのは得策じゃない。
俺はシスターの気を引くために質問をする。
「シスタークロエ、ここでは恵まれない少女を救うための支援活動をしているとお聞きしました。素晴らしいです。出来ればどういう活動なのかお聞かせ願いますか? 学院でもなにか協力できることがあるかもしれませんし」
シスターは俺の質問に気をよくしたのか少し声のトーンを上げながら言った。
「それは助かります。さあ、別室にお茶を用意していますからどうぞこちらへ」
シスター曰く、貧困街の女性は過酷な生活を強いられている。
ろくな学問も学べず、暴力をふるう父親や、見て見ぬふりどころか夜の街で別の男相手に奉仕をする母親。
それでも、顔が良ければまともな生活ができるが、そうでない者や幼い子供は盗みをして生活をしている状況だという。
なるほど、社会の闇そのものだ。どの世界にもそういうのはあるのだ。
もちろん、国としても見過ごしているわけではない、だからこういう慈善事業をする団体に少なくない支援金や物資を供給している。
しかし、なぜこういうのは無くならないのだろう。政治家が無能とまではいわないが、もっとまともになってもいいはずなのに。
どの世界、国でもこういう社会構造は無くならないのか、きっと俺がいくら考えたって無駄なのだろう、それこそが人が人たる所以か。
おっと、それはそれで、今は目も前の課題を優先させよう。
案内された部屋に座ると孤児院の子供だろうか、小学生くらいの少女がお皿に盛られたクッキーを持ってきた。
「私たちが作ったクッキーです。……お姉ちゃんたち魔法学院の生徒さんでしょ? きっと口に合わないと思うの」
俺は一口食べてみるが、素朴ではあるが、ちゃんと作っており普通においしい。そこまで謙遜することはないのに。
少女は初対面なのか、あるいは元々そういう性格なのか常におどおどしている。
まあ、孤児院にいるってことは訳ありなんだろう。
ローゼさんが少女に優しく語りかけた。
「とても美味しいわ、私もお菓子作りはするけど、よくできていると思う。もっと自身をもってもいいのよ」
ローゼさんがそういうなら間違いない。
俺は基本的には食えればなんでもいい派だ。もちろん美味しいに越したことはないが、論評するほどの味覚はない。
少女の顔は先ほどのおどおどした態度から少し自信を持ったのか、若干笑顔が混ざりローゼさんと会話を始めた。
お菓子作りについてのあれこれを話している彼女はどこにでもいる普通の女の子に見える。
それでも孤児なのだ、シスター曰く、この子も父親の暴力と母の無関心さから逃げてきたのだそうだ。
だからか、学院での生活に興味があるのか、学院での話を真剣に聞いている。
「あのね、お姉さんみたいな魔法使いになるにはどうしたらいいの? 私、この街から早く出たいの、その――」
「アン? お姉さんたちは忙しいのよ、余り質問ぜめは良くないわ。こほん、長居させてごめんなさい。外の男性たちも待ちくたびれているようですので、本日はありがとうございました。竜王様の加護がありますように」
シスタークロエの一瞬の表情の変化に気付く。
やはりなんかあるな、それにアンという幼い女の子は何か言いたげだった。
まだ断定できないが隠し事がありそうだった。
俺達は娼館が立ち並ぶ、所謂、夜の街を通り、その奥にある大きな教会の前まで来ていた。
もちろん今は昼間だから、そういうお客様や客引きはいない。
荷物は馬車で運んだが、教会の入り口は道が狭いため、街で一番大きな娼館の前に馬車を止め、そこからは手運びとなる。
教会はこの大きな娼館の裏側にあった。
こんな場所に教会とはいいのだろうか、いよいよあやしい。
物資は多岐にわたり小さな木箱や麻の袋など実にこまごましているため、運ぶのに何往復もした。
教会の前には一人の女性が荷物の受け取りを担当している。教会の責任者だろう。
彼女は竜王教会の独特の衣装を着ている。
くやしいが少しカッコいいと思ってしまう。
元の世界のシスターが着る修道服に似ているが随所にファンタジー要素があって絶妙なのだ。
最後の荷物を運び終えると結構いい時間になっていた。
積み荷の内容までは確認できなかったが、食料や衣類だけではないことは確かだ。
「この度はまことにありがとうございます。私はこの教会のシスター、クロエと申します。この教会併設の孤児院の管理を任されております」
シスターは大きめのフードの様な被り物を脱ぐと俺達に挨拶をした。年は30代くらいの大人の女性だ。
「さあ、皆さんお疲れでしょうから、お礼といってはなんですが、せめてお茶でもどうですか? 手作りですがお菓子などもご用意しております」
お、これは願ってもない誘いだ。これで中に侵入しなくてもある程度の情報が分かるからな。
「こほん、しかしながらこの教会は男子禁制となっております、保護した女の子たちは男性に対して良くない感情を持っている子がほとんどですので」
シルビアさんはやや眉をひそめながら返事をした。
「そうですか、なら私たちだけというわけにもいきませんから遠慮させていただきます」
俺もこのシスターの言動はおかしいと思った。お礼でというのに、男性を拒絶するその態度、この人の思想は偏っている。
まあ、トラウマのある女の子を配慮してのことだと思うけど。うまく言えないが、歪に思えた。
「おっとシルビアちゃん、せっかくだからご相伴にあずかるとしようじゃないか。というわけだから、男子諸君は外で待っててくれ、男子にとっては楽しい街らしいから時間をつぶしてくるといいよ、まあ夜までにはまだ時間があるけどね」
ユーギはシルビアの言葉を遮ると、やや大きめの声で後にいる男子たちに言うと俺とシルビアにウインクをしてみせた。
教団としては男が居なければ俺達には何もできないと思っているのか。いや、そうでもないかも、本当に彼女は男性に嫌悪しているような眼差しを向けている。
過去になにかあったのだろう。俺としては侵入できる絶好のチャンスだ。断る理由がない、シルビアにはすまないけど、男子は男子でこの街を楽しむといいさ。もっとも営業時間外だけどな。
俺はシルビアとシスターにも聞こえるように言う。
「せっかくのおもてなしですのでご相伴に預かるとしますか、シルビアもそれでいいよね」
というわけで、シルビアにローゼさんとユーギに俺は教会の中に入ることにした。
待機組はカール氏とハンス君だ。
ちなみにアンネさんとドルフ君は今回の仕事は遠慮してもらった。大事な体だしな。
教会内の作りは元の世界の十字架の宗教と作りは似ているが、センターにあるドラゴンの石像? のようなご神体はオリジナリティがある。
しかも、頭は竜だが身体は人間に似ている。リザードマンみたいな感じかな。
なんで人型にしたのかは疑問があるが。まあそれは宗教の解釈だ、素人が口出ししてはいけない。トラブルの元だ。
「おやおや、竜王はいつから人間の身体になったんだい?」
……それに、俺がいちいち口出ししなくても、ユーギというおしゃべりマシーンが言いたいことをずけずけというからだ。
「おや、ご存じないのですか? 竜王様は人の姿になり人類を救済してくださっているのですよ。ですから私たち信徒は竜王様に祈りを捧げているのです」
「へぇーなるほどねぇ、大変だねー君も、同情するよ」
竜王の石像に向かってしゃべるユーギ、余計なこと言って怪しまれるのは得策じゃない。
俺はシスターの気を引くために質問をする。
「シスタークロエ、ここでは恵まれない少女を救うための支援活動をしているとお聞きしました。素晴らしいです。出来ればどういう活動なのかお聞かせ願いますか? 学院でもなにか協力できることがあるかもしれませんし」
シスターは俺の質問に気をよくしたのか少し声のトーンを上げながら言った。
「それは助かります。さあ、別室にお茶を用意していますからどうぞこちらへ」
シスター曰く、貧困街の女性は過酷な生活を強いられている。
ろくな学問も学べず、暴力をふるう父親や、見て見ぬふりどころか夜の街で別の男相手に奉仕をする母親。
それでも、顔が良ければまともな生活ができるが、そうでない者や幼い子供は盗みをして生活をしている状況だという。
なるほど、社会の闇そのものだ。どの世界にもそういうのはあるのだ。
もちろん、国としても見過ごしているわけではない、だからこういう慈善事業をする団体に少なくない支援金や物資を供給している。
しかし、なぜこういうのは無くならないのだろう。政治家が無能とまではいわないが、もっとまともになってもいいはずなのに。
どの世界、国でもこういう社会構造は無くならないのか、きっと俺がいくら考えたって無駄なのだろう、それこそが人が人たる所以か。
おっと、それはそれで、今は目も前の課題を優先させよう。
案内された部屋に座ると孤児院の子供だろうか、小学生くらいの少女がお皿に盛られたクッキーを持ってきた。
「私たちが作ったクッキーです。……お姉ちゃんたち魔法学院の生徒さんでしょ? きっと口に合わないと思うの」
俺は一口食べてみるが、素朴ではあるが、ちゃんと作っており普通においしい。そこまで謙遜することはないのに。
少女は初対面なのか、あるいは元々そういう性格なのか常におどおどしている。
まあ、孤児院にいるってことは訳ありなんだろう。
ローゼさんが少女に優しく語りかけた。
「とても美味しいわ、私もお菓子作りはするけど、よくできていると思う。もっと自身をもってもいいのよ」
ローゼさんがそういうなら間違いない。
俺は基本的には食えればなんでもいい派だ。もちろん美味しいに越したことはないが、論評するほどの味覚はない。
少女の顔は先ほどのおどおどした態度から少し自信を持ったのか、若干笑顔が混ざりローゼさんと会話を始めた。
お菓子作りについてのあれこれを話している彼女はどこにでもいる普通の女の子に見える。
それでも孤児なのだ、シスター曰く、この子も父親の暴力と母の無関心さから逃げてきたのだそうだ。
だからか、学院での生活に興味があるのか、学院での話を真剣に聞いている。
「あのね、お姉さんみたいな魔法使いになるにはどうしたらいいの? 私、この街から早く出たいの、その――」
「アン? お姉さんたちは忙しいのよ、余り質問ぜめは良くないわ。こほん、長居させてごめんなさい。外の男性たちも待ちくたびれているようですので、本日はありがとうございました。竜王様の加護がありますように」
シスタークロエの一瞬の表情の変化に気付く。
やはりなんかあるな、それにアンという幼い女の子は何か言いたげだった。
まだ断定できないが隠し事がありそうだった。
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