幼稚な神様、もっともっとスタディ中

神谷モロ

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ランチをご馳走になる

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 僕とベアトリクスは森を抜けるため南に向かって歩いていた。

 ベアトリクスが隣にいるためかモンスターに襲われることはなかった。

 だが、それはそれで困る。獲物を狩ることが出来ないため食事ができないのだ。

「ベアトリクスよ、君はお腹が空かないのかね?」

「うーん、数年は食べないでも平気かしら。人化してるときは燃費がいいのよ。もちろん嗜好品として食事はするけど」

 やれやれ、それは便利なことだ。
 僕は一日食べないだけでも不機嫌になるというのに。

「もう少しで森を抜けるはずだから元気出してよ。ほら、さっき採ったキノコとかリンゴがまだあるでしょ?」

 僕は今、木の枝とツルで作ったかごを背負っている。
 その中には先程、森でとれた野生のリンゴがたくさん入っている。

 ちなみにキノコは別のかごに入れてベアトリクスに持たせている。
 一緒に入れてしまったらリンゴが全滅してしまうからだ。

 僕は人生経験は長いけどそれでもキノコは見分けが難しい。
 似たような外見の亜種が多いし食べれる品種が圧倒的に少ない。ましてや異世界で野生のキノコ。

 ――素人は絶対に手を出してはいけないぞ。

「ベアトリクス君よ、リンゴはともかくキノコはだめだよ。素人が手を出していい代物じゃない」

「そうなの? さっき食べてみたらピリ辛で美味しいわよ?」

 ピリ辛か、ちょっと惹かれる。
 前の人生ではピリ辛料理が好きだった。麻辣味の鍋なんか大好物だった。

 そうか、この世界はスパイスが足りないんだ。
 もっとも僕はまだこの世界の人間に出会ってないけどね。

 唐辛子とかあるといいんだが。

 隣で歩くベアトリクスが不気味な色をしたキノコを一つ口に運んでいるのを見た。
 生で食うなよとは思うが、まあドラゴンだし、多少はね……。
 しかしキノコがピリ辛とはいただけない。間違いなく毒だ。

「言っとくけど僕は食べないよ? これでも体は人間なのだよ。それに今世の死因が中毒死ってのは笑えない。いや、きっと神々に大爆笑されるに決まってるんだ」

 そうして僕はリンゴを一つ取り、丸かじりしながら歩みを進めた。
 
 ◆
 森を抜ける。

 僕は目の前の風景に思わず声を上げた。
「おお、これは素晴らしい城郭都市じゃないか!」

 城郭都市とは街の周囲を壁で囲んで外敵から守るための構造を持つ都市のことだ。

 その外壁は、堅固で迫力のある存在感を放っていた。
 石材を使って厚く築かれた壁は大小様々な石が組み合わされており、それぞれの石が異なる色や形を持っていた。
 灰色の岩石や赤褐色の砂岩、時折見られる緑色の斑岩など、多様な石材が使われているようだ。

 壁の表面には風雨や時間の影響を受けたクラックや苔が生い茂っている。
 
 壁の一部には、塔が建てられており、その塔からは見張りが森を監視している姿が見えた。


 昔見た『万里の長城』を思い出す。あれは北方民族から国を守るために作られた物だったが、
 これは森からやってくるモンスターから守っているのだ。どちらにせよ目的が同じなら形状は似通ってくるものだ。

 一通り外壁を見回した後、正面にある門に向かって歩みを進めた。

 ベアトリクスは通行許可証の様な紙切れを門番にみせる。
 さすが擬人化ドラゴン。人間のルールはちゃんと守るのだな。えらい。
 僕としては壁ドン(物理)をかますのではと、ちょっと心配と期待をしていたのだが。

「む、あなた様はグプタの聖女様ですか。女神ともいわれるお方がこんなところでいったい……」

 しかも割と知名度が高い。門番の男性は若干、いや、かなりデレデレしているようだ。
 まあ見た目、超絶美人だし仕方ないか。

「ちょっと傷心旅行をしてまして……で、街には入れてくれるのですか?」

「はい、もちろんです。それと、そちらのお連れ様は?」

 僕のことか、うーん、そういえば今の僕は身分を証明するものはなにもないな。さすがに僕が神だなんていってもなぁ……。

「彼女は私の従者です。ですが、うっかりさんなので身分証を無くしてしまったようで、まったく困ったものだわ」

 うん? 僕を馬鹿にしてないか? これでも……いや、まあここは話を合わせておこう。

「いやー僕ってば、そのへんうっかりだからねー。あははは」

「ふむ、しかたない。今回は特別だぞ? ベアトリクス様の身分がしっかりしているから信用するんだからな」

「はーい、ごめんなさーい。あはは」

 ふう。しかし、随分とすんなりと通してくれたものだ。
 まあ、ベアトリクスのキャラが立ってるってのもあるんだろう。
 武器どころか小さなポーチ以外何一つ持っていない、青い髪で青いドレスの美人さんが、モンスターのいる森から出てきたらそりゃまあ信じない方がおかしいか。

 門を抜けると、そこには真っすぐ王城へと向かう大通りに出た。

 道の隅には露店が広がっており人々で賑わっている。

「へぇ。いい街じゃないか。ベアトリクス君よ、この街の説明をたのむよ」

「いいわよ。まあ、私も初めて来たんだけど。少なくとも異世界出身のあなたよりは詳しいから」

 どうやら、エフタル王国は最近建国した王国らしい。最近という感覚が10年なのか100年なのかは分からないが。
 少なくとも外壁よりも新しいことは間違いない。モンスターから守るために最初に壁ができて、安全が確保されると人口が増えて、そして王国誕生といった感じだろう。
 あるいは前の王国が滅んで新しく建国したのか。

 まあ、活気があるので良い国なのだろう。

 現在の王様は始まりの賢者の子孫であり、優秀な魔法使いでもあるそうだ。

 魔法王国ともよばれ、ここ、王都サマルカンドには周辺国を含めて最大の魔法学院があるそうだ。

「魔法学院。それは楽しそうだね。若い男女が魔法であんなことやこんなことを、ちょっと見学したいところだね」

「たしかに、でも部外者は入れないし。今さら貴女も学校なんてって感じじゃない?」

「あはは、まあね、言ってみただけだよ。学校ってのは9割は退屈な時間を座って過ごすんだ。
 ところでベアトリクス君よ。お金は持ってるかい? せっかくだし美味しい物を食べようじゃないか。この世界で食べたものはモンスターの丸焼きとリンゴだけだしね」

「まったく、マイペースな神様だこと。まあ、いいわ。私も久しぶりに北方の料理を堪能するとしましょうか」

 僕たちは手頃なレストランを見つけると迷うことなくそこに入った。

 ここは肉料理と小麦を使った麺料理が有名らしい。

「ふーん、ステーキとパスタってことね。いい感じじゃないか。それを貰おう、あとサラダと、飲み物はワインを……食後のデザートは、何が良いかな?」

「貴女って人は……他人のお金なのに、よくもまあ堂々と注文できるわね」

「あはは、まあいいじゃないか、君の人生相談を受けてあげたんだ。ランチくらい気持ちよく奢ってくれるもんだろう?」

 しばらく待つと料理が運ばれてきた。
 濃い目に味付けされた料理は実に久しぶりだった。

 僕はステーキとパスタをあっという間に平らげてしまった。
 お腹が空いていたからしょうがない。

 デザートはケーキが出てきた。
 甘味も久しぶりだ。

 ケーキとコーヒーを楽しみながら僕はベアトリクスに聞いた。

「ところで、ベアトリクス君、君はこれからどうするんだい? 僕はしばらくここにいるつもりだけど」

「そうね、悩みも解消したし……なんだろう。急にグプタが恋しくなっちゃった。せっかくだけど私はもうグプタに帰るわ」

「うむ、そうすればいいじゃない? ならここでお別れだね。気が向いたら会いにいくよ」

「ええ、待ってるわ」

 レストランを出ると僕はベアトリクスに別れの挨拶をする。
 彼女の迷いのない堂々とした背中を見ながら僕は今後どうするか考える。

 ま、なんとかなるでしょう。 
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