病みゲー転生 〜誰も幸せになれない狂った世界で、悪役は理想のハッピーエンドを渇望する〜

一味違う一味

文字の大きさ
33 / 51

33

しおりを挟む
綺堂 薊きどう あざみ side







 動く、動かないを問わず『お菓子な魔女』のダンジョンには様々な死体が存在する。

 焼死体や水死体と行った定番は勿論、時間が経ちすぎて死因不明の腐乱死体や白骨死体なども多い。

 しかし、そんな中で決して作られない死体がある。それはミイラだ。

 ミイラ作成に重要な乾燥の条件が最悪であり、周囲には腐汁を撒き散らすゾンビが多く、腐敗を伝染させる。箱ごと腐らせるのは蜜柑の特権ではないのだから。

 故にミイラは存在しなかったのだ。

 昨日までは。



「不味いな」



 数ある館の部屋で唯一ミイラが転がっている部屋があった。

 下手人は言うまでも無い、薊である。



「こいつらが腐ったり焦げたりしてるのが原因か?」



 しばらく続いていた渇きがヘンゼルの血を吸った事により、ある程度収まったので試しにモンスターの血を吸ったのだが大失敗だった。

 若干、渇きは収まったのだが味は酷く、風味だけで吐き気をもよおす。正直、見た目と臭いで嫌な予感はしていたが、やはり味も最悪だった。



「食い意地なんて張るもんじゃねえな」



 溜め息を吐いて脱力する。

 それはそうと、薊は自身に新しい発見があったのだ。

 以前、『始祖しその心臓』を食べる事によって手に入れた固有スキルの【不死の残滓ざんし】が【不死の鼓動こどう】に変化していたのだ。

 ステータスで見たところスキルの効果に変化は無かった。変わっていたのは名前だけ、明らかに薊自身の体が変化しているというのにだ。

 まあ、予想はついている。

 恐らく自分は吸血鬼に近づいているのだろうと、薊は確信に近い気持ちを抱いていた。



この声・・・も聞き覚えがあるし」



 今でこそ心地良さすら感じる「殺せ、殺せ」という声。この声はゲームで『始祖の心臓』から復活した始祖吸血鬼の声だ。

 『病みラビ』の世界で吸血鬼とは種族的に、かなり上位の強さを持ち、薊が食べた心臓の持ち主の『始祖』ともなれば最強格の種族であるドラゴンに並ぶ程の強さを持つ。

 ヘンゼルとの戦闘後から何となくだが、戦闘と吸血を重ねる度に体が人外へと変化していくのが実感できた。

 多くの創作で吸血鬼にとって致命的な弱点となる銀、太陽、十字架、流水、ニンニク等と言ったものは『病みラビ』の吸血鬼にとっても弱点となる場合もある。

 しかし、それは知能や力も獣と変わらない程度の『低級』と呼ばれる一番低いランクの吸血鬼のみだ。

 それ以上の『下級』『中級』『上級』『始祖』ランクの吸血鬼達は人間と変わらない知能を持ち、種族的な弱点の多くは克服され、唯一残った銀と十字架も到底致命的とは言えないレベルだ。

 そんな吸血鬼達は悪夢に等しい。



「まだ成り切れてないけどな」



 ステータスで種族を確認したところ、人間のままだったが変化するのも時間の問題と思われる。

 先程、館に転がっていた十字架を触っても指先が痺れる程度だったので最低でも『下級』には成れそうだ。



「……この力が最初からあれば来紅を助けられたのかな」



 ふと、考えても仕方ないIFに思いを馳せてしまう。

 こうして始祖が活発になった理由は分からないが、もしダンジョンに入る前から条件を満たせていれば来紅を助けられたかもしれない。

 この『病みラビ』主要敵の中でも上位に入りそうな力さえあれば───



「───あれば、何だ?」



 来紅を助ける? 何を言ってるんだ俺は?

 小指来紅とは厨房で再開してから、ずっと一緒だというのに。さっきのはまるで来紅が死んだような言い回しではないか。失礼にもほどがあるだろう。

 というか、また声が鬱陶しく感じ始めた。たっく「殺せ、殺せ」と喧しい・・・。さっきと今でなんの違いがあるんだ。

 まぁ、何でもいいか。



「まずは魔女だ。魔女だけは絶対に殺す」



 そう言えば、どうして俺は魔女を憎んでるんだったかと一瞬疑問に思うも、何となくそれ以上考えてはならない気がして思考を打ち切る。

 そうして、始祖の声に抗わず殺意で心を満たせば不快感も疑問も全て消え失せた。



「あと少しだな」



 体感だが、俺が完全な吸血鬼になるまであと少し。恐らく、工房に着く頃には種族が変わっているだろう。

 その時が楽しみだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

処理中です...