病みゲー転生 〜誰も幸せになれない狂った世界で、悪役は理想のハッピーエンドを渇望する〜

一味違う一味

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綺堂 薊きどう あざみ side







 疑問が解消されてスッキリした後、俺はまた頭を悩ませていた。

 それは来紅に恨まれているか否かである。

 俺はついさっき彼女から即死級の攻撃を受けたのだ。悩むなと言う方が無理な話だろう。

 良い笑顔をする来紅に緊張していると声が掛かる。俺の下を見てるようだが、何かあるのだろうか。



「ねえ、薊くん」


「な、なんだ?」


「私に何か言うことないの?」



 来紅の見てる先に何があるのかと彼女の視線を追おうとした直後、話しかけられ僅かに慌てながら目線を戻す。

 先程の首筋を差し出して来た時と同様に、何かを求める目をしているが皆目見当もつかない。

 取り敢えず、最も可能性が高いのは謝罪だろうか? 固有スキルの影響で吸血鬼の中でも高い回復力を誇る俺でも即死する攻撃を放ったのだ。

 怒りの内容が分からない内に謝るのは危険だと、どこかで聞いたが他にないのだ。仕方あるまい。



「えっと、ごめん」


「えっ、何が?」



 身投げする程の覚悟で決行した謝罪は不発に終わる。

 どうやら何も怒っていないらしい。それか他にもっと優先して聞きたいことがあり忘れているのか。

 しかし、他に俺が言うべき事か。わからない。



「簡単なことだよ」



 そう言われてハッとする。

 俺は気が狂ってる間、厨房で指を見つけてから、ずっと一緒にいるつもりだったが彼女とっては違う。

 これまでずっと寂しい思いをさせたのだ。再開の言葉の一つくらいかけるのが礼儀だろう。



「久しぶり、無事でなによりだよ」


「違う」


「!?」



 ジト目で食い気味に否定された。かなり悲しい。

 挨拶ではないのなら、彼女は何を求めているのだろうか。



「じー」



 悩んでいると、とうとう口で視線の効果音を言い始めた。なにこれ、少し可愛いな。



「っ、もう! 薊くんったらっ!」


「……? あ、もしかして口に出てたか?」



 こくり、と無言で首肯する彼女。気恥ずかしいな。

 そのまま、お互いに沈黙して無言の時間が流れる中、俺達にふと声が掛かる。



「あんたら、人が戦ってるのに良いご身分だね」



 声のする方向を見れば全身の各所に傷を負った魔女が、こちらを睨んでいた。どうやらグレーテルを倒してくれたみたいだ。

 ヘンゼルとグレーテルは追い詰めたまま放置すると切り札を使うので、それを阻止できたことは喜ばしいが別の問題が生まれた。



「「あっ」」



 完全に忘れてた魔女様のご登場だ。いや、一応戦闘音は聞こえていたので流れ弾に当たらないよう警戒しており存在そのものは覚えていた。

 だが、なんと言うか話し掛けられる可能性を考えていなかったというか、考えたくなかったと言うか……

 いや、そんなことを考えるより先にやることがあった。



「……大変ご迷惑をおかけしました」



 俺は出会い頭に侮辱したことを含めて深々と謝罪する。

 どう考えても悪いのは俺である。なにせ親友を殺されたと思い込み、勝手に目の敵にしていたのだ。なんなら問答無用で殺されても文句は言えない。



「ふんっ。許すかどうかは、あんたの話を聞いてからだね」


「はい、実は……」



 そうして、俺は話を始めた。「あー」だの「えー」だのを挟み、都合の悪い部分は双子の入れ知恵という事にして説明を続ける。

 来紅は役に立たない。というか、ジリジリと距離を取って話に巻き込まれないようにしているようだった。

 友人のあんまりな対応に目から汗が滲むも、なんとか堪えて説明を終えた。



「それを信じろと?」



 それが説明を終えた直後の魔女の言葉だった。どうしよう当たり前だけど、かなり怒ってる……

 ガチ泣きしそうになる肉体とは裏腹に内心では「ですよねー」と納得していた。

 しかし、それを口にだしてしまえば魔女の背後で瘴気にむしばまれ全身紫色になりながら、原型がわからないほどズタボロにされたグレーテルの二の舞となるだろう。



「……」


「……」


「ぷひゅーぷひゅー」



 ヤバい。どう言葉を返せばいいのか分からず沈黙を続けていたら、どんどん口を開きにくくなった。

 ちくしょう来紅め。いつの間にか魔女の影に隠れた上に冷や汗流しながら変な呼吸しやがって。あれか? 口笛のつもりなのか!?

 来紅が、あまりにも必死に口笛(?)を吹き続けるので、少し笑ってしまう。それがよくなかった。



「なに笑ってんだい? あたしの顔が、そんなに面白いか? ええ?」


「ち、違います! 誤解です!」



 その後、メリッサの誤解を解くのに多大な時間を要した。
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