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08 剣撃
しおりを挟む「……あれは本当にティアなのか……いや、それ以前に"ヒト"なのか?」
テルミッド教官から華麗に一本取り、更にその後は見事な打ち合いを見せる息女ティアラに、父ノーキンス公爵は目を丸くしていた。
その横では兄リミットがあまりの衝撃に口を開け呆然と立ち尽くしていた。
「貴方ほどの実力の持ち主が後継者育成を担っていることが、この国の繁栄、その一助となっているのでしょうね」
「このご老体には勿体なきお言葉です。しかし私めからすれば、貴女さまの存在こそがこの国の繁栄を未来永劫のものにするのだと、確信いたしております」
テルミッド教官が力強く振るった剣を難なく受ける。そしてそれを機に攻防が逆転し、続いてこちらから攻めの姿勢に転じる。そんな事を繰り返すと、訓練場には重音な剣撃が鳴り響き、そこはまるで死闘繰り広げる戦地のようだった。
特段互いに死を覚悟しているわけではない。ただ一見すると、そういう領域にあると誤解するほどの境地に二人が至っているというだけ。一般兵の特訓レベルはとうに超えていた。
攻め入るのがかなり難しいわ。
一本取れたのは相手の油断あってのものだったでしょうし、いくら身体能力で勝ろうと、あちらの洗練された剣術や、それこそ死闘に身を置き得た戦闘経験からくる異常なまでの戦闘センスによって攻撃は防がれてばかり。
この試合において互いの力量は拮抗していると言ってもいいだろう。
「まさか戦場に身を置かずとも、ここまでの緊迫感を味わえるとは思いもよりませんでした! そのこと重ねて感謝いたします!」
「あら、感謝される謂れはありませんよ。私にとってこれは剣術への足がかりに過ぎませんから」
「……ええ! ええ‼︎ 貴女様ならばいつか至れるでしょう! この老いぼれめが未だ夢憧れる剣術の極地へと‼︎」
そう嬉々として語るテルミッド教官は、さながら夢を追い続ける若者のようだった。
夢……それがこの方の原動力なのね。
では私の夢は何だったかしら?
『幸せに、長生きすること』
忘れてはいないわ。
そしてそれを原動力とするなら、勝利にこそ貪欲であれ。
それは才能であり、努力であり、手段であり、条件であり、常勝を願うならば、相手を知り、己自身を知ること。
……あぁ、そっか。見落としていたわ。
テルミッド教官へと斬りかかる、と見せかけ重心を背後に倒す。このようなフェイントを交えた駆け引きはもう既に何度も行われて来たが、どちらも即対応を取り決定打には至らなかった。けれど。
フェイントと知りながらもテルミッド教官はそれを迎え撃つ姿勢は保ちつつ、こちらの隙を捉え一撃を放った。
しかしそれは空を切り、あまつさえバランスを崩す形となる。
どうやら予想は当たったようね。
異様な感覚に陥ったテルミッド教官の隙を突き、私はテルミッド教官から二本目を取ることに成功した。
「いったいなにが……⁉︎」
テルミッド教官ほどの実力者にとっては目に見える物だけが全てじゃない。
でなければ死角を突いた攻撃、ましてやフェイント全てに引っかからないなんてありえない。
それなのにテルミッド教官は私の攻撃を全ていなす、もしくは躱していた。
流石にそれらまでも戦闘センスなんて言葉では片付けられない。
つまり彼は私の知らない何かを知っている。そう、たとえば。
「ーーーーー魔力の流れを視る、ですか。なるほど。とても勉強になります」
「この短時間でお気付きになるとは……⁉︎」
私はテルミッド教官が魔力の流れを視ている……厳密には違うのかもしれないけれど、何かしらの方法を用いて魔力の流れを捉えているのだと当たりを付け、先程のフェイントに際し、膨大な魔力量(ティアラの内包魔力量の約5分の1)を一斉に乱雑に動かし、テルミッド教官の混乱を誘ったのだった。
そしてその事に気付いてから、三本目を取るのにそう時間は掛からなかった。
「勝者、ティアラ=ヴィドフニル」
助祭リリアナにより審判がくだされ、この試合に決着がついた。
「楽しかったですわ、テルミッド教官」
「……そう言っていただけると幸いですが……不甲斐ない姿をお見せして、恥ずかしいばかりです」
「何を仰るかと思えば、そんな事ですか。全然気に病む事ではありませんわ。貴方は十分に強かったです。ですがーーーーー私こそが最強なのです! そんな私に負ける事は、当然の事でしょ」
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