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24 想い
しおりを挟む「ーーーーーあんのやろう! まだ呑気に寝てんだとよ! ほんと意味が分かんねー! これじゃどっちが勝ったんだって話だよな⁉︎」
ダークスとルーチェは試合の後よりヴィドフニル家の保護下に置かれ、今は王都からヴィドフニル領へと移り、別館の客間を自室として使っていた。
あの試合で彼らが神子である事は証明された。それだけで彼らの生活は一変し、この数日の間、衣食住に困る事は一切なかった。
「ティアラお姉ちゃんは魔法が使えない……ううん、魔力を放出出来ないはずだった。それなのに、最後は魔力を纏ってダークの《衝滅》を防いでみせた」
「……なぁ、それって本当なのか? こう言うのも癪だけど、あいつが付けてた結界石?ってのが俺の魔法を防いだんじゃないのか?」
「ううん。あの結界石にそこまでの力は無かったよ」
「……だったらあいつも俺らと一緒だったって事か?」
その問いにルーチェは首を横に振り、否定した。
「なら一体あれはなんだって言うんだ……?」
ルーチェは窓の外に目をやり、呟くようにこう答えた。
「執念……かな」
◇
「ーーーーー今日も精が出ますな! リミット様」
「テルミッド教官……そうだね、妹に劣る兄じゃカッコがつかないからさ。ただの意地だよ」
「いえいえ! リミット様も素晴らしい才をお持ちですよ! ただティアラ様……あのお方の才が人智を超え、計り知れないというだけの事です」
「それもそうだね……」
数ヶ月前に五つ歳の離れた僕の妹が突然剣を習いたいと父上に言った。それ以前はとても大人しく、雷の音にさえビックリして泣き出す様な妹だったのに。
だから初めは何かの間違いだと思った。そうでなくとも直ぐに根をあげ降参すると思った。だけど結果はその予想とは真逆で、剣を握った事もない妹は教官テルミッドを圧倒し、勝利を収めた。そしてそのひと月後には現役王国騎士団団長オルセル=アンデュークと試合をし、引き分けたという。
今では世間から"神童"や"剣神"などと褒め称えられている妹。
僕には何がどうなっているのか全く意味がわからなかった。というか、妹の急変ぶりに気味悪ささえ覚えていた。
きっと父上も同じ気持ちだったと思う。それでも父上はその正体を突き詰めようと、率先してティアのお願いを聞くつもりでいるようだった。
ティアは何を望んでいるのか?
ティアの強さの正体はなんなのか?
そしてティアはこの国にとって利となるか、もしくは害となるか。それを見極めようとしている。
だけど今はそんな妹が王都で神子と試合をしてから、ずっと目を覚まさない。医者曰く身体に異常は見られなく、昏睡している原因は分からないとの事だった。
しかし父上は言った。
ティアが目覚めないのは魔力を無理矢理放出したからだと。
聖痕を通さずに放出されるそれは、人類が魔力と呼んでいるモノとは異なるらしく、父上はそれを……【魂の根源】と呼んでいた。
「……ティア」
僕は妹の強さを目の当たりにしたあの日から、妹とは距離を置くようになっていた。試合後にはいつも熱を出し苦しむ妹の弱さにさえ目を背けて。
僕自身それが恐怖に似た感情からきているのだと思っていた。
だけど、今こうして取り返しのつかない事態に陥って分かった事がある。僕は妹の圧倒的な強さに憧れ、それと同時に劣等感を抱いていたんだ。
だから今更になって心配している。
なんて無様でカッコ悪い兄だろうか……。
◇
「ーーーーー昨日は豪雨に見舞われ屋敷中バタバタとしていましたが、今日はとても良いお天気ですよ、お嬢様。幸い水害による被害も旦那様と奥様のお陰で最小限に留まり、街は昨日の事が嘘かの様に賑わっています。……久しぶりに私めと街に出向くというのはどうでしょうか……きっと楽しいですよ……」
ベッドに横たわり、小さく寝息を吐く少女にそう語りかけたのは彼女の専属メイド、フリージア。
少女の安らかに眠るその様は絵画の様に美しく、されど造り物と見紛う程の空虚さが見る者の不安を掻き立てた。
「もう、2週間ですよ……どうされたのですか……お嬢様……」
目に涙を浮かべ少女の顔を眺めるも、何の反応もなく、微かな呼吸音が聞き取れるばかりだった。
「お嬢様は生まれつき身体が弱く、よく熱を出し寝込まれていましたね。きっとそれは今でも変わらないのかもしれませんが、それでも近頃のお嬢様はまるでお人が変わったかの様に元気でいらっしゃいましたよね。突然の事に不思議には思いもしましたが、それでもお嬢様の元気なお姿を拝見できて、私めはとても嬉しかったですよ。…………ですから多くは望みません。どうか神様……! お願いですからお嬢様をお助けください……!」
フリージアは小さなティアラの手を取り、懇願する様に神へ祈りを捧げた。
「供物が必要でしたら、私の全てを差し上げますから‼︎ どうか‼︎ どうか……お願いいたします……‼︎」
「ーーーーー渡さないわよ」
「…………っ⁉︎」
突然の事にそれはフリージアにとって幻聴の様にさえ聴こえた。けれど少女の綺麗な瞳が開き、ゆっくりと身体を起こす様を見て、それが現実であると認識する。
「神ごときに私の大事な専属メイドを渡すわけがないでしょう」
「お、お嬢様……お目覚めになられたのですね……!」
「ええ。おはよう、フリージア。今日も良い天気ね」
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