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プロローグ
桃色水晶の鏡
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「この鏡きれいね」
この春に五歳になったばかりの二条幸恵は、小さな手を伸ばして美しい螺鈿細工が施された桃色水晶の枠に触れた。
背中まで伸びた絹糸のような髪が肩から流れ落ち、幸恵の髪を梳いていた母が、鏡越しに笑いかける。
「この鏡はね、私のご先祖さまが、天皇家より賜ったものなの。華族制度が廃止されなければ、私もあなたも公家のお姫さまだったのよ」
神妙な顔で頷く幼女には、母の言葉は難しくてほとんどわからない。
けれど身体が弱くてほとんど床に臥せている母が、今日はこうして幸恵に構ってくれるのだから、余計な説明をさせたくはなかった。
「そうなの。幸恵が生まれる前からある鏡なのね。幸恵は五歳だから、この鏡は6歳か七歳ぐらい?」
「うふふ。幸恵はかわいいわね。もっとずっとずっと前からある鏡よ。嫁入り道具の目録に書いてあった年号から数えると、今年で98歳になるのよ」
「うわぁ、おばあちゃん鏡なのね。大事、大事にしてあげなくちゃ」
幸恵が鏡の枠を撫でると、障子の光を反射した鏡がきらきらと輝く。まるで喜んでいるように。
「お母さま、撫で撫でしたら、鏡が喜んだわ」
「そうね。大事にされた物は、100年経つと付喪神になるものがあるそうよ。再来年にはこの鏡も100年を迎えるから、母の代わりに幸恵が大切にしてあげてね」
母の大切な宝ものを、自分に任せてくれたことが誇らしくて、幸恵は小さな胸を張り、はい、お母さま、と元気よく答えた。
たった二年足らずのことなのに、母の代わりに鏡を幸恵に任せると言った本当の意味を、幸恵が理解したのは、母が眠るように息を引き取ったその年の秋のことだった。
この春に五歳になったばかりの二条幸恵は、小さな手を伸ばして美しい螺鈿細工が施された桃色水晶の枠に触れた。
背中まで伸びた絹糸のような髪が肩から流れ落ち、幸恵の髪を梳いていた母が、鏡越しに笑いかける。
「この鏡はね、私のご先祖さまが、天皇家より賜ったものなの。華族制度が廃止されなければ、私もあなたも公家のお姫さまだったのよ」
神妙な顔で頷く幼女には、母の言葉は難しくてほとんどわからない。
けれど身体が弱くてほとんど床に臥せている母が、今日はこうして幸恵に構ってくれるのだから、余計な説明をさせたくはなかった。
「そうなの。幸恵が生まれる前からある鏡なのね。幸恵は五歳だから、この鏡は6歳か七歳ぐらい?」
「うふふ。幸恵はかわいいわね。もっとずっとずっと前からある鏡よ。嫁入り道具の目録に書いてあった年号から数えると、今年で98歳になるのよ」
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「そうね。大事にされた物は、100年経つと付喪神になるものがあるそうよ。再来年にはこの鏡も100年を迎えるから、母の代わりに幸恵が大切にしてあげてね」
母の大切な宝ものを、自分に任せてくれたことが誇らしくて、幸恵は小さな胸を張り、はい、お母さま、と元気よく答えた。
たった二年足らずのことなのに、母の代わりに鏡を幸恵に任せると言った本当の意味を、幸恵が理解したのは、母が眠るように息を引き取ったその年の秋のことだった。
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