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レッスン
ビビッドな愛をくれ
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リアムの頭を抱きしめてやると、優吾の臀部の奥を探ろうとしていたリアムの指がピタリと止まった。リアムが気を落ち着けるように深く呼吸をするのが伝わる。
「悪かった。レッスンを台無しにして。今日はここまでにしよう」
「リアム。辛いことを忘れたいなら、俺を抱いてもいいよ」
「お前を利用するつもりはない」
「リアムだって、失恋してどん底にいた俺を救うために抱いたじゃないか。今度は俺がリアムを慰めてもいいだろ」
詰る優吾を見て、リアムがフッと笑う。少し寂し気にも見える微笑を湛えたまま、リアムが言った。
「ユーゴが好きになったギタリストは、お前を大事にしていたんだと思う。方法が分からなくて歌い方の開発はできなかったようだが、無理をさせていないから、高音に雑音が混じらない」
「なっ……何でそんなこと言うんだよ」
思いもよらなかったことを聞いて、優吾の身体が震えた。
ライブ前の練習中に優吾が声を張り上げようとすると、すぐに制した律の姿が脳裏にまざまざと浮かぶ。途端に胸が痛んで目の前が霞んだ。
「バカ!‥‥‥リアムのアホたれ。今更そんなこと聞いて何になるんだよ」
滲んだ涙を見られまいと顔を背けたが、顔を動かした拍子に涙が頬を伝い落ちた。
「律を忘れようとしていたのに、あいつを持ち上げるようなことを言うなよ」
「中途半端に残った棘は、身体の中に吸収されて思わぬ時に致命傷になる。リツは音楽の仲間としてお前を大事にしたんだ。利用だけして捨てられたわけじゃないから、お前を傷つける棘にはならない。そのことを覚えておくといい」
「でも、胸が、痛んだよ」
「俺がリツを人でなしだと言った時に、ユーゴは何と言ったか覚えているか? ファンの女性を妊娠させてバンドを抜けるまでは、リツは真面目にバンド活動をやっていて、ユーゴをいいボーカルにしようと真剣だったと言っただろ。俺が言うまでもなく、お前は肌でそれを感じ取っていたんだ。心が痛んだのは、仲間として優吾に向けられていたリツの愛情が、結婚で失われると思って悲しかったからだ。酷い目にあわされたからじゃない」
「それじゃあ、俺がものすごくわがままみたいじゃないか」
「違うのか?」
「そこは、否定するところじゃないか? なんで自分の罪を認めろみたいな問いかけをするんだよ」
「ユーゴを責めたつもりはない。リツのことで要らぬ傷を抱えたままだと、優吾は歌う度に過去を思い出して、嫌な思いをするだろう。振り切るために無理をしそうだから、わだかまりを解いてやりたかったんだ。リツを貶めて、お前の気持ちを俺に向ける方が確実なんだろうけれど、俺はフェアな立場で臨みたい」
フェアな立場で挑みたいって……一体リアムは何を言っているんだ? 律とリアムじゃ才能も実績も違い過ぎて立ち位置さえ重ならないのに。
「律はもう音楽から引退したから、リアムの指導を振り切ってまで律のところに戻ったりしないよ。それに音楽のことなら、リアムは向かうところ敵なしだろ」
「確かに音楽の面では俺の方が有利だが、お前の中で俺とリツは、どちらが勝っているんだろうな。 俺はユーゴを気に入ってる。声や外見はもちろんだが、向こうっ気が強いかと思うと、繊細で一途な面を見せられて、ぐらっときた。いつの間にかお前がかわいくて、かわいくて、構わずにはいられなくなっていたんだ」
「う、うそだ。だって、リアムは俺を抱こうともしないじゃないか。俺が自殺しようとしたと思っているから、同情しているだけじゃないのか」
「違う。最初はどうでも、今はリツを忘れさせるために、お前を抱きたくないと思っている。俺の気持ちを知ったからといって、ユーゴがここでの生活の恩義を返すためにとか、俺を慰めるために身体を投げだすようなことをして欲しくない。お前にちゃんと俺自身を見て欲しいし、その上で、心も身体も俺のもになって欲しい」
澄んだ水のような色の瞳にじっと見つめられ、優吾は息を飲んだ。
まさかリアムが、自分を思ってくれているなんて、考えもしなかった。
ひょんなことからリアムと出会ったけれど、本当ならリアムは優吾の手が届く人ではないと分かっていたし、リアムと一緒にいられる時間は限られていたから、自分の中に育ち始めた想いから目を逸らし、日本に帰ってからのことを考えようとしていた。
今のまま歌い続けるのか、新しい何かにチャレンジするとしたら、どんなことが可能なのかを。それも、リアムが優吾の歌を褒めてくれて、レッスンまでつけてくれたから、音楽をやってきた自分を肯定できて、前に進もうとする気になれたのだ。
「俺、ここに来るまでは、律に置いていかれた怒りや不安しかなかったのに、今は、これからのことを考えてるよ。リアムがきっかけをくれたんだ」
「それは光栄だ。で? 俺と付き合うか?」
「付き合いたいとは思うけど、今のままじゃだめだと思う。俺、リアムが何を仕事にしているのかも、別荘の門のKINGってプレートが、別荘の貸主の苗字なのか、リアムのものなのかも知らない。Liam Kingで検索したら、スポーツ選手がでてきたしね。俺、架空の人物とは恋愛できないよ」
「ユーゴが俺の中身だけを見て、合格点をくれたら話そうと思ってた。KINGは俺のファミリーネームで、俺の仕事は‥‥‥」
突然来客を知らせるブザーが鳴った。
ハッと顔をあげ、壁に設えたモニターに目をやるリアムにつられて、優吾もそちらに目を向ける。知りたいけれど、今は会いたくない過去が映っていた。
「悪かった。レッスンを台無しにして。今日はここまでにしよう」
「リアム。辛いことを忘れたいなら、俺を抱いてもいいよ」
「お前を利用するつもりはない」
「リアムだって、失恋してどん底にいた俺を救うために抱いたじゃないか。今度は俺がリアムを慰めてもいいだろ」
詰る優吾を見て、リアムがフッと笑う。少し寂し気にも見える微笑を湛えたまま、リアムが言った。
「ユーゴが好きになったギタリストは、お前を大事にしていたんだと思う。方法が分からなくて歌い方の開発はできなかったようだが、無理をさせていないから、高音に雑音が混じらない」
「なっ……何でそんなこと言うんだよ」
思いもよらなかったことを聞いて、優吾の身体が震えた。
ライブ前の練習中に優吾が声を張り上げようとすると、すぐに制した律の姿が脳裏にまざまざと浮かぶ。途端に胸が痛んで目の前が霞んだ。
「バカ!‥‥‥リアムのアホたれ。今更そんなこと聞いて何になるんだよ」
滲んだ涙を見られまいと顔を背けたが、顔を動かした拍子に涙が頬を伝い落ちた。
「律を忘れようとしていたのに、あいつを持ち上げるようなことを言うなよ」
「中途半端に残った棘は、身体の中に吸収されて思わぬ時に致命傷になる。リツは音楽の仲間としてお前を大事にしたんだ。利用だけして捨てられたわけじゃないから、お前を傷つける棘にはならない。そのことを覚えておくといい」
「でも、胸が、痛んだよ」
「俺がリツを人でなしだと言った時に、ユーゴは何と言ったか覚えているか? ファンの女性を妊娠させてバンドを抜けるまでは、リツは真面目にバンド活動をやっていて、ユーゴをいいボーカルにしようと真剣だったと言っただろ。俺が言うまでもなく、お前は肌でそれを感じ取っていたんだ。心が痛んだのは、仲間として優吾に向けられていたリツの愛情が、結婚で失われると思って悲しかったからだ。酷い目にあわされたからじゃない」
「それじゃあ、俺がものすごくわがままみたいじゃないか」
「違うのか?」
「そこは、否定するところじゃないか? なんで自分の罪を認めろみたいな問いかけをするんだよ」
「ユーゴを責めたつもりはない。リツのことで要らぬ傷を抱えたままだと、優吾は歌う度に過去を思い出して、嫌な思いをするだろう。振り切るために無理をしそうだから、わだかまりを解いてやりたかったんだ。リツを貶めて、お前の気持ちを俺に向ける方が確実なんだろうけれど、俺はフェアな立場で臨みたい」
フェアな立場で挑みたいって……一体リアムは何を言っているんだ? 律とリアムじゃ才能も実績も違い過ぎて立ち位置さえ重ならないのに。
「律はもう音楽から引退したから、リアムの指導を振り切ってまで律のところに戻ったりしないよ。それに音楽のことなら、リアムは向かうところ敵なしだろ」
「確かに音楽の面では俺の方が有利だが、お前の中で俺とリツは、どちらが勝っているんだろうな。 俺はユーゴを気に入ってる。声や外見はもちろんだが、向こうっ気が強いかと思うと、繊細で一途な面を見せられて、ぐらっときた。いつの間にかお前がかわいくて、かわいくて、構わずにはいられなくなっていたんだ」
「う、うそだ。だって、リアムは俺を抱こうともしないじゃないか。俺が自殺しようとしたと思っているから、同情しているだけじゃないのか」
「違う。最初はどうでも、今はリツを忘れさせるために、お前を抱きたくないと思っている。俺の気持ちを知ったからといって、ユーゴがここでの生活の恩義を返すためにとか、俺を慰めるために身体を投げだすようなことをして欲しくない。お前にちゃんと俺自身を見て欲しいし、その上で、心も身体も俺のもになって欲しい」
澄んだ水のような色の瞳にじっと見つめられ、優吾は息を飲んだ。
まさかリアムが、自分を思ってくれているなんて、考えもしなかった。
ひょんなことからリアムと出会ったけれど、本当ならリアムは優吾の手が届く人ではないと分かっていたし、リアムと一緒にいられる時間は限られていたから、自分の中に育ち始めた想いから目を逸らし、日本に帰ってからのことを考えようとしていた。
今のまま歌い続けるのか、新しい何かにチャレンジするとしたら、どんなことが可能なのかを。それも、リアムが優吾の歌を褒めてくれて、レッスンまでつけてくれたから、音楽をやってきた自分を肯定できて、前に進もうとする気になれたのだ。
「俺、ここに来るまでは、律に置いていかれた怒りや不安しかなかったのに、今は、これからのことを考えてるよ。リアムがきっかけをくれたんだ」
「それは光栄だ。で? 俺と付き合うか?」
「付き合いたいとは思うけど、今のままじゃだめだと思う。俺、リアムが何を仕事にしているのかも、別荘の門のKINGってプレートが、別荘の貸主の苗字なのか、リアムのものなのかも知らない。Liam Kingで検索したら、スポーツ選手がでてきたしね。俺、架空の人物とは恋愛できないよ」
「ユーゴが俺の中身だけを見て、合格点をくれたら話そうと思ってた。KINGは俺のファミリーネームで、俺の仕事は‥‥‥」
突然来客を知らせるブザーが鳴った。
ハッと顔をあげ、壁に設えたモニターに目をやるリアムにつられて、優吾もそちらに目を向ける。知りたいけれど、今は会いたくない過去が映っていた。
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