魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた

マスカレード 

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白い髪の魔女

魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた

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 ハンナの父から商人用の通行許可証と、日持ちする食べ物や飲み物をを分けてもらい、マリルはスエナ商会を後にした。
 目指すは歩いて十日ほどかかる国境。ただ心配なのは、高い山間の道を行くため教会どころか民家もなく、食べ物や泊まるところに困ることだ。
 転移魔法が頭をかすめるが、もしサンサがブリティアン王国に残っていたり、他の国から戻ってきていたりしたら、飛び越してしまい、サンサを探して旅した七か月間を無駄にしてしまう。

「よし、歩こう!」
 マリルは野鳥たちに俯瞰魔法をかけ、鳥たちが空から見た景色を、感じられるようにした。

 日々は過ぎていき、ずい分国境に近づいたとき、一羽の野鳥が突然目の前の空間から飛び出してきた鳥とぶつかりそうになり、バランスを崩して落ちそうになった。
 鳥の視覚に同調していたマリルは、地面に立っていながら足もとが抜けてしまったように感じて、冷気が身体を走り抜ける。
 何も無い所から、突然現れた鳥。マリルは転移魔法か、空間の歪みを考えた
転移魔法はありえない。ただの鳥を山奥に移動させたところで意味はない。

 空間の歪みの理由に思い当たり、マリルは歩き疲れていたのを忘れ、野鳥と鳥がぶつかりそうになった地点を目指す。
 深い森は人を寄せ付けないようにしているのか、昼間だというのに地面に陽の光は殆ど届かず真っ暗だ。通せんぼするようにつる草が伸びていた。これでは埒があかないと判断し、マリルは転移魔法を使った。

 身体が風を受け、視界に色とりどりの線が流れていく。がくんと身体が止まって、身体が空中へ弾き出されるような感覚を覚える。と思ったら。今度はガクンと身体が下降して足が地面についた。
 目の前にはただの森が続いている。ところがマリルは、普通の魔術師なら見過ごしてしまうであろう歪みを見つけた。
―――結界だ! ――—

 興奮が身体を駆け巡る。この中にいるのは誰だろう? 
 大魔導師サンサで会って欲しい。震える指で結界にドアを描く。
 はらりと捲ってマリルが身体を滑り込ませた刹那、光の矢が飛んできた。

「きゃ~っ!」

 両手を突き出し防御壁を作る。トスッと刺さった矢から光が消え、枝に変った。
 幻覚魔法だ。これなら当たっても致命傷にはならないとホッとしたのも束の間、次から次へと矢が飛んでくる。
 何としても追い払いたいらしい。
 マリルは透明な防護壁の内側から、連なって立つ木々を流し見て術者を探した。

 いた! 二十メートルほど先の大木の陰にチュニックを着た人物。遠いし暗くてよく見えないけれど、肩で切りそろえた短い白髪と服装からみて男性だろうか。多分あの老人が、術を放っているに違いない。
 マリルは男性の足元を指さし、下から上へと渦巻きを描く。すると男性を閉じ込めるように木の根が絡まりあって隆起し、大きなかごになった。

「やった。捕まえた!」

 一歩踏み出そうとしたマリルの首に、後ろから回った手に握られたナイフが当たる。
 ごくりとマリルが喉を唾を飲む間に、カゴの中の人物は落ち葉に変って崩れ果てた。

「見たところ子供に見えるが、杖もなく魔法を使うからには、変身しているのだろう。名前は? 誰に頼まれて私を捕まえに来た?」

「変身なんてしてません。名前はマリル・カスバート。正真正銘の九歳の子供です。大魔導師サンサさまを探していたら、結界を見つけて入っちゃいました。ごめんなさい」

「……本当に子供なのか? それにしては、かなりの魔力オーラを感じる。この深い森の奥に結界があることをどうやって知った」

 尋ねる声は低く押し殺したものだが、マリルは男性の声ではないことに気が付き、後ろの人物の胸に頭がつきそうなほど顔を逸らして相手を見た。

「危ない! お前はバカか! 喉にナイフを突きつけられているのに、顎を上げて急所を晒すなんて、殺してくれと言うようなものだぞ。この大バカ者めが!」

「そんな、バカ、バカって何度も言わなくても……ナイフを突きつけている人に危ないと忠告されても、いまいち説得力がないです」

 口を尖らせて文句を言うマリルを、赤い目が見下ろす。白い髪がサラリと前に流れて頬を覆ったが、女の顔には皺がなかった。

「あれっ? 誰かに似てる」

「誤魔化すな。どうやって結界を見つけたんだ?」

俯瞰ふかん魔法です。サンサさまの足取りを掴みたくって、鳥を飛ばして空から見た光景を、何かあったときに私に送るようにしてあったんです。そしたら、何もない空から鳥が飛び出してきて、私が放った野鳥とぶつかりそうになったの。それでここに転移魔法で移動したら、僅かに空間が歪んでいたから結界だとわかったんです」

「俯瞰魔法に転移魔法をこんな小さな子供が使うなんて信じられん。お前、いくつだと言った?」

「九歳です。若いと思ったけれど、やっぱりおばあちゃんなのかな」

 女の眉間に皺がより、見上げていたマリルの額に頭がぶつけられた。

「いたたた。子供に暴力を振るうなんて酷いです。サンサさまに会ったら、仕返ししてもらうんだから」

「私をぼけ老人呼ばわりした罰だ。軽くぶつけただけなのに大袈裟な。お前はどうしてサンサを探しているのだ?」

「将来大魔導師になるために、サンサさまの弟子にしてもらいたいのです」

「は? 弟子? お前のような子供が、サンサの弟子に? あり得ないな。いい子だからお父さんとお母さんのところにお帰り」

「さっきから大魔導師サンサさまを呼び捨てにしてますが、おばあちゃんでも許せません。こんなナイフ簡単に……あれ? あれれ? 身体が動かない」

 身体どころか指の一本まで拘束されている。マリルは赤い目の女が急に怖くなって、声を震わせながら助けを求めた。

「サ、サンサさま~~っ。助けて~。魔女に食べられちゃう。私を魔法学校に捨てていったお父さん、お母さん、最期に一目会いたかったです。ミランダお姉さま、可愛がってくださったのに、勝手に学校を辞めてごめんなさい。それから、えっと、先生も今までありがとう。あとは……」

「まだあるのか?」
 はぁ~っと大きなため息が後ろから漏れた。

「サンサは子守りは好かん。だが子供の肉は大好物だ。サンサに見つかる前に出て行った方がいい。それから学校に戻って勉強を続けられるように、先生や校長に頭を下げて頼みなさい。お前の魔力量なら、将来大魔導士になれる可能性はあるだろうから、学校も無碍にはしないはず。学校で認定証を取りなさい。さぁ、サンサが帰ってきて、お前をテーブルに載せる前に立ち去るんだ」

 ふと身体の拘束が解けた。ナイフは杖に姿を変え、白髪の魔女が帰る方角を杖で示す。サンサは子供の肉が大好物、と聞いてはここから逃げるしかない。
 恐怖でガクガクする脚を心の中で叱咤しながら、マリルは走りだした。
 


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