魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた

マスカレード 

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マリル、仕掛ける

魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた

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 決闘は城の敷地内にある円形のすり鉢型の競技場で開催されることが決定し、開催日の二日前にマリルは王城に戻った。 
 エリザ王女はマリルとの再会を喜んでくれたが、すぐに沈んだ表情になり、少し痩せたように見える。
 話を聞くと、王女は自分を射殺した犯人は、アルバート王子ではないのではないかと、疑いを持ち始めたようだ。
 エリザ王女はザイアン王子の部屋での会話をマリルに話し、どう思うと訊ねてくるが、今はルーカスを欺くために、王女にさえ本当のこと告げるわけにはいかない。
 素直で曲がったことの嫌いなマリルは胸にモヤモヤする気持ちを溜めるばかりだ。その上、あるお願いごとをして、悩める王女を更に追い込むことになった。

「マリル、ザイアン王子の立会人になりたいなんて、正気とは思えないわ。決闘がどんなものか分かっているの? 剣の模擬試合と違って、本物の血が流れるのよ」

「血を流している姿なら、王女さまを見ています。決して慣れることはないけれど……あのときエリザ王女さまが、復讐をして欲しいと言ったから、今があるのですよね?」

 本当はこんな風に王女を責める言葉は使いたくなかったけれど、すんなりいかないときには、王女の責任感や後悔の念に訴えなさいとサンサ師匠からアドバイスをもらっている。 
 案の条、エリザ王女は街で見た移動動物園の檻の中にいる猛獣のように、苛立って部屋の中をぐるぐると歩き回った。

「ええ、ええ。復讐を望んでいたわ。でも、公の場で王子同士を争わせるなんて、考えてもいなかったわ。もしかたら、アルバート王子は無実なのかもしれないのに、私は何てことをしてしまったのかと不安に苛まれて眠れないの」

「だったら、私がザイアン王子の立会人になれるようにしてください。アルバート王子がルーカスの仲間でないのなら、ガルレア王妃の命令で試合中にアルバート王子だけでなく、ザイアン王子を殺しちゃう可能性だってあるんですよ。そしたらあの無責任でわがままなハインツ王子が不戦勝で皇太子に伸し上がれるんですもの」

 部屋をうろついていた王女がぴたりと足を止めた。
「確かに、その通りね。決闘の前に剣に細工をしていないか調べたとしても、開始後にルーカスが魔法を使って毒の剣にしないとも限らないわ。マリルなら見破れるのね?」

「ルーカスは魔法を使う時に、杖を使うから分かります。でも観覧席にいたら見逃しちゃうかも」

「分かったわ。今からザイアン王子に頼んできます。決闘の理由についてもガルレア王妃に操作されないように、ザイアン王子と相談してくるわ」

 王女を上手く言いくるめることができたマリルは、お願いしますと笑顔を浮かべながら、心の中でもう一つの方も上手くいきますようにと願っていた。

 王城に戻る前に、マリルは魔法学校に行き、三年ぶりにミランダ・メイフェア令嬢に会ってきた。
 ミランダはメイフェア伯爵家の二女で、通常なら淑女に欠かせないマナーや語学に楽器にダンスなどを、家庭教師について学んででいる年頃なのだが、魔法学校に入学したという変わり種だ。
 なんでもメイフェア伯爵と懇意にしている魔術師に、魔術の素養を見出されたことから、ミランダは幼くして魔術師になる夢を持ったのだとか。

 マリルにとってミランダが魔法学校に入ってくれたことは、幸運だったというより他はない。
 七歳児の新入生中に、たった一人だけ五歳で入学を許されたマリルは、家族との軋轢もあってなかなか人に心を開けずにいた。それを見かねたミランダが、マリルを妹のようにかわいがり、仲間に引き入れてくれたおかげで、マリルは人と交わる喜びを知ることができたのだから。
 けれど、早く魔術師になりたかったマリルは、九歳のときにミランダや学校の仲間への別れの言葉もそこそこに、学校を飛び出してしまった。 
 そんな経緯から、いまさら頼みごとをするためにミランダに会うのは後ろめたくて仕方がなかったのだが、冷たくされたらどうしようというマリルの心配は、ミランダに会って吹き飛んだ。
 ミランダはマリルを見るなり、大きくなってと感激して抱きしめてくれたのだ。

『もう魔術師の認定証をもらったの?』

 首を振るマリルに、ミランダは学校へ戻りたいなら口を聞いてあげるとも言ってくれた。
 そんな優しいミランダに、会って早々、マリルはインチキまじない師が人を騙すときのような臭いセリフを吐くことになる。

『詳細は話せないけれど、この国の未来を悪い人達から守るために、やらなければいけないことがあって、ミランダお姉さまにも手伝って欲しいの』

『どんなことをするのか聞いてから、やれるか判断してもいいかしら? 一応私の家は伯爵の称号を持っているから、両親に迷惑をかけたくないの』

『迷惑をかけちゃうかもしれないわ。とっても大きな嘘をついてもらわなくちゃいけないもの。下手をしたら、ミランダお姉さまの評判を落とすことになるかも』

『そうまでしても、やらなくちゃいけないことなのね?』

 マリルは真剣な面持ちで頷いた。サンサ師匠からは名前を出してもいいと言われていたが、もし作戦が失敗したときに、ミランダの口からサンサ大魔導師の名前が出れば、ルーカスが警戒して攻め入る隙を失うかもしれない。マリルはミランダの情に縋るより他はなかった。

『マリルは昔から真っすぐで、自分の力で道を切り開く子だった。学校を中退して苦労したでしょうに、三年経ってもあなたの瞳は強く輝いているのね。あなたが私を信じて大役を任せるつもりで訪ねて来てくれたのなら、私も全力で応えなくてはいけないわね』

 信じてくれたミランダには、感謝しかない。
 決闘の当日、円形競技場に吸い込まれていく貴族たちの話題は、アルバート王子とザイアン王子が決闘する理由で持ちきりになっていた。
 マリルをザイアン王子の立会人にするようにエリザ王女が頼みに行った時、ザイアン王子もエリザ王女と同じようにアルバート王子のことを考えていた。二人はアルバート王子の名誉を慮り、召使を使って嘘の真相を流させることに成功したのだ。

「侯爵様、お聞きになられましたか? どうやら今日の戦いは、エリザ王女を巡ってのことだとか」

「エリザ王女が、二人の王子のどちらを伴侶にするか決めあぐねていらっしゃるから、決闘で決めることにしたのですって」

「なんと男らしい王子たちだ! 王は強くなくてはならぬからな。どちらが勝つか楽しみだ」

「ハインツ王子ははなから除外ってわけか。はははは……見る目のあるお姫さまだ」

 競技場内のあちこちから期待する声や、いくら皇太子の座がかかっているとはいえ、決闘までしなくてもいいのにと批判する声が上がる中、突然観覧席の一角で騒動が起きた。
 メイフェア伯爵の家族や親類に用意された席で、里帰りしていたミランダが「どうしましょう」と令嬢らしからぬ大声を上げたのだ。

「私、剣術試合だと思って、魔法学校の生徒たちを大勢呼んでしまったの。まさかアルバート王子とザイアン王子が王女をかけて死闘するなんて思いもしなかったのよ。そんな血塗られた物騒な試合なんかを同級生に見せたら、貴族に対してどんな偏見を持たれるか分からないわ」

 伯爵夫人が周囲を気遣いながら、ミランダを宥め始めた。
「今日のところは試合が中止になったと伝えて、帰ってもらったらどうかしら?」

「いいえ、お母さま、それは無理よ。今日私を頼って来た生徒たちは、魔術師見習いの中でも選りすぐの生徒たちなの。将来王宮や貴族の館に仕える人たちかもしれないのよ。嘘をついても、後で王子の訃報が発表されれば、魔術を使って今日のことを知ることになるわ。せっかく来てくれたみんなを追い返したら、将来の王と貴族たちに対して不信感を持つかもしれないの。偉大な魔術師は国の宝なのに、他国に流れたらどうしましょう」

 ミランダの話に耳を傾けていた貴族たちは、顔色を変えた。いくらエリザ王女を巡っての戦いと表面を取り繕っても、ガルレア王妃が開催した公開処刑ならぬ決闘に、眉をひそめていた貴族たちは大勢いる。彼らはここぞとばかりにミランの嘆きに加勢して声を上げた。

「将来の王を支えるかもしれない魔術師の卵たちに、王子同士の殺し合いを見せるのはどうかと思う」

「命を奪うのではなく、負傷して戦うことが不可能になった時点で止めるべきだ」

 貴族たちの要望はパウロン王とガルレア王妃の耳にも届き、ガルレア王妃が歯噛みするのを後目に、パウロン王が貴族たちの意見を取り入れた。

「双方殺してはならぬ。相手が降参した時点で剣を収めるように」

 城門に整列していた魔法学校の数十人の生徒と引率の先生たちは、王の特別許可をもらい、競技をする地面から一番遠い最上階の席に案内されることになった。
 ルーカスの張った蜘蛛の巣のような結界をやすやすと潜り抜け、白いローブに身を包み、目深にかぶったフードで顔を隠した魔術師見習いたちの一向が進む。

 控室で待機している最中にスパイ鳥を使って進行を探っていたマリルは、胸の前で手を組み合わせてミランダに感謝した。

 出番はすぐそこに迫っている
 動きの取れないドレスから騎士服に着替えたマリルは、控室から出ると、マントを颯爽となびかせなら競技場へと歩いて行った。
    
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