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それぞれの思惑
魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた
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アルバート王子とザイアン王子の決闘は一週間後に決まり、王宮広場に座を設けて王族や諸侯、近衛兵が見守る中で、大々的に行われることになった。
決闘は立会人のみで秘密裏に行われることが多いのだが、ルーカス大魔導士からガルレア王妃に立会人の話が伝わったときに、ガルレアは大喜びをしたという。
なにせ邪魔な王子が二人で争ってくれるのだから、王妃とハインツ王子にとって、これほど好都合なことはない。早々に今回の殺し合いを見世物にすると決めたようだ。
パウロン王はアルバート王子とザイアン王子に真意のほどを訊ねる使者を送ったが、既にガルレア王妃から、王族と諸侯へ知らせが出た後とあっては、それぞれの名誉に関わる問題になり、取り消しは不可能だった。
あれよあれよとことが大事になっていくのを耳にして、エリザ王女の心は揺れていた。
ザイアン王子の部屋で、アルバート王子と対峙したときに、アルバート王子の言葉と態度に疚しさは無く、正々堂々としていたからだ。
しかも思い返すほどに、一方的に憎しみをぶつけるエリザ王女に対してアルバート王子は、感情を荒げることもなくエリザ王女やシャーロット側妃の身を案じ、不利にならないようにことを勧めようとしていたかのように感じられる。
アルバート王子が言うように本当に彼が無実なら、とんでもない濡れ衣を着せたまま、アルバート王子を葬ることになるのではないだろうか?
不安になるのはそれだけではない。ハインツ王子のところに送り込んだマリルが帰って来ないのだ。
あの日、ザイアン王子の部屋から戻った王女が、侍女から何も変わったことは起こらなかったと報告を受けた後、着替えを手伝ってもらい寝室に入ったが、マリルはそこにもいなかった。
外で鳥が騒ぐのを聞いて窓を開けると、強い風が吹きナイトテーブルに置いてあった本のページをパラパラ捲る。風と共に飛び込んできた一枚の鳥の羽が、まるで羽ペンのように本の空白に文字を書いていった。
【マリルのことは心配いらない。しばらくしたら帰る】
多分大魔導師サンサの仕業だろうと思ったが、マリルが安全だと知っても、エリザ王女の気持ちは晴れなかった。
出会って数日にも関わらず、人には言えない秘密を分かち合ったせいか、王女にとってマリルの存在は、今や何にも代えがたい心の拠り所になっている。
自分は目隠しをしたまま突っ走っているのだろうか?
あまりにも一方的過ぎて、マリルは愛想をつかしたのではないだろうか?
あの事件以来ただ、ただ、復讐することだけを念頭に置き、揺らぐことはなかったのに……。
強固だった殻にひびが入り、噴出し始めた疑念と不安に途方に暮れるエリザ王女だったが、そんな王女をからかうように、アルバート王子の言葉が脳裏でリフレインした。
『復讐に目が眩んだお姫様、どうか冷静になってくれ』
一旦休戦を申し入れた方がいいのではないかとエリザ王女が思ったときには、ガルレア王妃が打った先手で退路を断たれていた。
一方マリルは、見舞い品に隠れてハインツ王子の部屋にいるときに、伝言花から送られた伝言[ザイアン王子がアルバート王子に言い渡した決闘]に驚き、ルーカスに見つかってしまった。
そのため脱出するのに手間取ってしまい、ようやく西の離宮に駆けつけたときには、サンサのスパイ鳥から、隠れ家へ戻るように伝えられ、アルバート王子には会えずじまいになる。
後ろ髪を引かれながら隠れ家に転移すれば、まだここを出てからほんの数日しか経っていないのに、あまりにも色々なものを見聞きしすぎたせいか、何年も帰っていないような気分になった。
迎えに出たサンサを見た途端、懐かしさが込み上げて、思わず抱きつく抱きついた途端、マリルは脱力してぐったりしてしまった。
「お師匠様、ただいまです」
「お帰り。マリル。ルーカスたちの記録の書に目を通しました。よくやりましたね」
サンサの肩に顎を載せ、頬をサンサの頬にすりすりしながら、マリルは鼻を啜った。
「サンサ師匠、私、とんでもない間違いをしていました。アルバート王子は無実だったのに、いっぱい酷い言葉を浴びせてしまったし、嫌な態度も取りました。私は闇堕ち決定です」
「バカだね。魔法による危害ではないから、闇堕ちはしないよ。ただ、魔法でないからいいってわけでもない。心だって傷つくから、これからは二度と間違っちゃいけないよ」
マリルはサンサの肩から顔を上げて、しっかりと目を合わせて頷いた。マリルの頬を伝う涙を指で拭ってやりながら、サンサが優しい声で続ける。
「もっともあの時は、噂ではなくハインツ王子の言葉に惑わされたのが原因だけどね。私もあの王子と話すまでは、疑っていたのだから同罪だ。物事は真相を確かめてからでないと、軽々しく決めつけてはいけないということを、この年で改めて学んだよ」
「えっ? お師匠さまはアルバート王子と話されたんですか?」
「ああ、マリルが魔術を使うことも見抜いていたよ。賢い王子だ。将来は王でもいいし、宰相でもぴったりはまりそうだね」
将来と聞いて、マリルはびくりと身体を震わせて、頬を撫でていたサンサの手を掴んで言った。
「そうだ、王城に帰ってエリザ王女にアルバート王子が無罪だって知らせなくちゃ。じゃないとザイアン王子とアルバート王子が決闘しちゃう」
慌てて転移しようとしたマリルを、サンサが止めた。
「待ちなさい。マリルを呼んだのは、エリザ王女に真実を話して、アルバート王子とザイアン王子たちの仲を取り持たないようにするためなんだよ。ルーカスの罪状を魔術管理委員会のメンバーたちに伝えたから、ルーカスを捕らえる用意ができるまで、奴に気づかれないように現状のままにした方がいいんだ」
「そんなぁ。アルバート王子がかわいそうです」
「アルバート王子には申し訳ないが、今はもう少し堪えてもらうしかない。彼らの話を聞いていたが、どうやらアルバート王子は、ザイアン王子とエリザ王女のために命を投げだす覚悟でいるらしい。ルーカスと刺し違える前に、何とかルーカスの力を抑えたいから、協力してくれるね?」
「アルバート王子が、死を覚悟しているんですって!?」
―――誤解したエリザ王女に、王女殺しと誹られながらも、アルバート王子はエリザ王女と王女の味方についたザイアンを恨みもせずに、ルーカスと刺し違えるつもりなの?
聞いた途端にマリルの胸の中で、すぐにでも決闘を止めたい気持ちと、ルーカスをやっつけるために現状維持を続けなくてはいけないという気持ちがせめぎ合い、苦しくなった。
王子に汚名を着せたまま、死なせるわけにはいかない。全てを自分一人で背負って逝こうとするなんて、あまりにも悲しすぎる。マリルはボロボロ涙をこぼし、しゃくりあげながらサンサに告げた。
「エリザ王女に本当のことを話さない代わりに条件があります」
「そんに泣いて、顔がぐしゃぐしゃだ。どうせろくなことは言わないんだろう?」
「聞いてくれないなら、すぐに飛んで戻って。ザイアン王子に犯人はハインツだって話しちゃうから」
サンサはいけないよと首を振ったが、マリルの意思が固いことを知り、しょうがないというように先を促した。
「ルーカスは私がサンサ師匠の弟子だと分かったと思うの。ルーカスを仕留めるために私を囮に使ってください。絶対にアルバート王子を殺させないで。もし、アルバート王子が死んだら、私は闇落ちしてでもルーカスをやっつけるから」
マリルを見つめるサンサの目が驚愕で見開かれた。何も言わずにおもむろに閉じられた瞼が再び開いた時、その瞳はギラギラと強い意思を秘め、分かったと答えた声にも決心が漲っていた。
決闘は立会人のみで秘密裏に行われることが多いのだが、ルーカス大魔導士からガルレア王妃に立会人の話が伝わったときに、ガルレアは大喜びをしたという。
なにせ邪魔な王子が二人で争ってくれるのだから、王妃とハインツ王子にとって、これほど好都合なことはない。早々に今回の殺し合いを見世物にすると決めたようだ。
パウロン王はアルバート王子とザイアン王子に真意のほどを訊ねる使者を送ったが、既にガルレア王妃から、王族と諸侯へ知らせが出た後とあっては、それぞれの名誉に関わる問題になり、取り消しは不可能だった。
あれよあれよとことが大事になっていくのを耳にして、エリザ王女の心は揺れていた。
ザイアン王子の部屋で、アルバート王子と対峙したときに、アルバート王子の言葉と態度に疚しさは無く、正々堂々としていたからだ。
しかも思い返すほどに、一方的に憎しみをぶつけるエリザ王女に対してアルバート王子は、感情を荒げることもなくエリザ王女やシャーロット側妃の身を案じ、不利にならないようにことを勧めようとしていたかのように感じられる。
アルバート王子が言うように本当に彼が無実なら、とんでもない濡れ衣を着せたまま、アルバート王子を葬ることになるのではないだろうか?
不安になるのはそれだけではない。ハインツ王子のところに送り込んだマリルが帰って来ないのだ。
あの日、ザイアン王子の部屋から戻った王女が、侍女から何も変わったことは起こらなかったと報告を受けた後、着替えを手伝ってもらい寝室に入ったが、マリルはそこにもいなかった。
外で鳥が騒ぐのを聞いて窓を開けると、強い風が吹きナイトテーブルに置いてあった本のページをパラパラ捲る。風と共に飛び込んできた一枚の鳥の羽が、まるで羽ペンのように本の空白に文字を書いていった。
【マリルのことは心配いらない。しばらくしたら帰る】
多分大魔導師サンサの仕業だろうと思ったが、マリルが安全だと知っても、エリザ王女の気持ちは晴れなかった。
出会って数日にも関わらず、人には言えない秘密を分かち合ったせいか、王女にとってマリルの存在は、今や何にも代えがたい心の拠り所になっている。
自分は目隠しをしたまま突っ走っているのだろうか?
あまりにも一方的過ぎて、マリルは愛想をつかしたのではないだろうか?
あの事件以来ただ、ただ、復讐することだけを念頭に置き、揺らぐことはなかったのに……。
強固だった殻にひびが入り、噴出し始めた疑念と不安に途方に暮れるエリザ王女だったが、そんな王女をからかうように、アルバート王子の言葉が脳裏でリフレインした。
『復讐に目が眩んだお姫様、どうか冷静になってくれ』
一旦休戦を申し入れた方がいいのではないかとエリザ王女が思ったときには、ガルレア王妃が打った先手で退路を断たれていた。
一方マリルは、見舞い品に隠れてハインツ王子の部屋にいるときに、伝言花から送られた伝言[ザイアン王子がアルバート王子に言い渡した決闘]に驚き、ルーカスに見つかってしまった。
そのため脱出するのに手間取ってしまい、ようやく西の離宮に駆けつけたときには、サンサのスパイ鳥から、隠れ家へ戻るように伝えられ、アルバート王子には会えずじまいになる。
後ろ髪を引かれながら隠れ家に転移すれば、まだここを出てからほんの数日しか経っていないのに、あまりにも色々なものを見聞きしすぎたせいか、何年も帰っていないような気分になった。
迎えに出たサンサを見た途端、懐かしさが込み上げて、思わず抱きつく抱きついた途端、マリルは脱力してぐったりしてしまった。
「お師匠様、ただいまです」
「お帰り。マリル。ルーカスたちの記録の書に目を通しました。よくやりましたね」
サンサの肩に顎を載せ、頬をサンサの頬にすりすりしながら、マリルは鼻を啜った。
「サンサ師匠、私、とんでもない間違いをしていました。アルバート王子は無実だったのに、いっぱい酷い言葉を浴びせてしまったし、嫌な態度も取りました。私は闇堕ち決定です」
「バカだね。魔法による危害ではないから、闇堕ちはしないよ。ただ、魔法でないからいいってわけでもない。心だって傷つくから、これからは二度と間違っちゃいけないよ」
マリルはサンサの肩から顔を上げて、しっかりと目を合わせて頷いた。マリルの頬を伝う涙を指で拭ってやりながら、サンサが優しい声で続ける。
「もっともあの時は、噂ではなくハインツ王子の言葉に惑わされたのが原因だけどね。私もあの王子と話すまでは、疑っていたのだから同罪だ。物事は真相を確かめてからでないと、軽々しく決めつけてはいけないということを、この年で改めて学んだよ」
「えっ? お師匠さまはアルバート王子と話されたんですか?」
「ああ、マリルが魔術を使うことも見抜いていたよ。賢い王子だ。将来は王でもいいし、宰相でもぴったりはまりそうだね」
将来と聞いて、マリルはびくりと身体を震わせて、頬を撫でていたサンサの手を掴んで言った。
「そうだ、王城に帰ってエリザ王女にアルバート王子が無罪だって知らせなくちゃ。じゃないとザイアン王子とアルバート王子が決闘しちゃう」
慌てて転移しようとしたマリルを、サンサが止めた。
「待ちなさい。マリルを呼んだのは、エリザ王女に真実を話して、アルバート王子とザイアン王子たちの仲を取り持たないようにするためなんだよ。ルーカスの罪状を魔術管理委員会のメンバーたちに伝えたから、ルーカスを捕らえる用意ができるまで、奴に気づかれないように現状のままにした方がいいんだ」
「そんなぁ。アルバート王子がかわいそうです」
「アルバート王子には申し訳ないが、今はもう少し堪えてもらうしかない。彼らの話を聞いていたが、どうやらアルバート王子は、ザイアン王子とエリザ王女のために命を投げだす覚悟でいるらしい。ルーカスと刺し違える前に、何とかルーカスの力を抑えたいから、協力してくれるね?」
「アルバート王子が、死を覚悟しているんですって!?」
―――誤解したエリザ王女に、王女殺しと誹られながらも、アルバート王子はエリザ王女と王女の味方についたザイアンを恨みもせずに、ルーカスと刺し違えるつもりなの?
聞いた途端にマリルの胸の中で、すぐにでも決闘を止めたい気持ちと、ルーカスをやっつけるために現状維持を続けなくてはいけないという気持ちがせめぎ合い、苦しくなった。
王子に汚名を着せたまま、死なせるわけにはいかない。全てを自分一人で背負って逝こうとするなんて、あまりにも悲しすぎる。マリルはボロボロ涙をこぼし、しゃくりあげながらサンサに告げた。
「エリザ王女に本当のことを話さない代わりに条件があります」
「そんに泣いて、顔がぐしゃぐしゃだ。どうせろくなことは言わないんだろう?」
「聞いてくれないなら、すぐに飛んで戻って。ザイアン王子に犯人はハインツだって話しちゃうから」
サンサはいけないよと首を振ったが、マリルの意思が固いことを知り、しょうがないというように先を促した。
「ルーカスは私がサンサ師匠の弟子だと分かったと思うの。ルーカスを仕留めるために私を囮に使ってください。絶対にアルバート王子を殺させないで。もし、アルバート王子が死んだら、私は闇落ちしてでもルーカスをやっつけるから」
マリルを見つめるサンサの目が驚愕で見開かれた。何も言わずにおもむろに閉じられた瞼が再び開いた時、その瞳はギラギラと強い意思を秘め、分かったと答えた声にも決心が漲っていた。
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