魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた

マスカレード 

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ルーカスの幻術 (1-2)

魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた

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 サンサ師匠の言う通り、ルーカスは顕示欲が強く、一番上に立っていないと気が済まないらしい。
 以前マリルにそれを指摘されて、カッと激昂したところで罠にかけられ、ルーカス自身が呼び出した黒い魔物に襲われたのだから怒りが止まらないのは察しがつくが、ここは大勢の関係のない人たちがいる。巻き込んでしまうわけにはいかなかった。

「ルーカス大魔導師、あなたをバカにした覚えはありません。それに私は白魔術使いだから、あなたと違って自分から相手を傷つけるために魔法を使ったりしないわ。あなたが怪我をしたのは、自分が呼び出した悪の獣を操れなかったせいよ」

「何だと⁉ 杖も持たず、魔術も使えぬひよっこだと思って手加減してやったのに、もう我慢ならん。手ぬるい決闘なんかよりずっと面白い余興を観客に見せてやろう。マリル、お前の処刑だ!」

 観客がどよめいた。パウロン王とエリザ王女の叫び声が上がったが、人々の声に消されて届かない。円形競技場の真ん中にいるマリルは、客席よりも声が響くのを利用して、大声でルーカスに言い募った。

「だったら、白魔術で対抗してよ。公の場で黒魔術を使ったら、あなたが闇落ちしていることを証明することになって、大魔導師の称号を失うわよ。ここにいる全ての観客と、あなたの雇い主の王様が証人になるわ」

 白魔術は人のためにあるもの。サンサ師匠とは技を磨くために、わざと攻撃的な魔法を繰り出したことがあるけれど、あれは魔術師同士だから試せるのであって、絶対に人に向けてはならない試術だ。
 ルーカスも今の地位を失いたくなければ、観客たちを犠牲にしないはず。

「ふん、よほど私の術が怖いらしい。ほら、手始めにプレゼントを受け取れ!」
 ルーカスが口で呪文を唱え、杖を振る。

「殿下、離れて!」
 マリルはアルバート王子を突き飛ばそうとしたが、重量的に無理と悟り、周囲にシールドを張る。競技場に落ちている石が光って浮き上がり、マリルめがめてビュンビュン飛んできた。
 剣を打ち合ったときに出た火花は限られていたが、円形競技場の剥き出しの地面に落ちている石は大小合わせれば数え切れない。しかもただの石ではなく高熱の光に包まれているせいで、シールドに当たるときにジュッと音した。

 このままではシールドを突破されてしまう。マリルはシールドに厚みを加えると同時に一部分に弾力を持たせ、当たった石がルーカスに向かって撥ね返る魔法をかけた。

 さっそく飛んでいった石の高熱が、ルーカスのローブに当たり、ボッと火が燃え上がる。ルーカスが悪態をつきながら呪文で雨雲を頭の上に呼び出し、豪雨を振らせて消火した。

「あれは攻撃魔法じゃないのか? サンサ大魔導師に攻撃魔法の道具を貸して欲しいと頼んだら、白魔術にはそんなものはないと断られた」

「魔力の無い人が道具を使って攻撃ができるようになったら、国同士の戦争が起きちゃいそう」

 確かになとアルバート王子が笑った。

「私が使った魔法ははあくまで防御のためよ。攻撃魔法じゃないわ」

「物はいいようだな。ルーカスは自分でかけた魔法に火だるまにされないよう、スコールの中で飛び跳ねているぞ。立派な攻撃だと思うけれどな」
 そういえば、とアルバート王子がマリルを見て不思議そうに言った。
「マリルは杖も持たないし、ルーカスのように呪文も唱えないんだな」

 あれっ? とマリルは首を傾げた。
 ルーカスは黒い魔物を出したときに呪文はかけなかった。なのに、さきほどの剣のときといい、今の石の魔法といい、術を使う前に確かに呪文を唱えている。
―――これだわ! お師匠様に知らせなくっちゃ!

 マリルはマントの裏に縫い付けておいた伝言花に、思いついたことを呟いた。これでもうサンサ師匠をこの場に呼べる。マリルが観覧席の最上階にいる魔法学校の引率者たちの頭上に花びらを降らせて、作戦開始の合図を送った。

 よしっ! と気を引き締めたときに、アルバート王子が最上階に散った花を見上げ、何を遊んでいるんだと気の抜けることを言う。応じることなくマリルが睨みつけると、アルバート王子は何かが始まると察したようで真顔になり、マリルのすぐ横に移動して、抑えた声で思いもよらないことを訊ねた。

「マリルのフルネームを教えてくれ」
「な、何をこんなときに」
「いいから早く」
「マリル・カスバートです」
「分かった。俺がマリルをフルネームで呼んだら、俺が今から言う通りに繰り返してくれ。エリザ王女を殺したのはアルバートかと聞いて欲しい」

 マリルはアルバート王子の言葉を聞いて、なぜ今そんなことを言うのだろうと不思議に思ったが、ルーカスが石の魔法を解くのを見て、説明を聞く間もなく頷いた。
 王子が拘るもの……多分身の潔白を晴らすこと。
 王族、貴族は、家柄や血筋に次いで名誉や誇りが大事で、それを他人に汚されれば決闘が起きる。
 エリザ王女を死なせないために、ルーカスと刺し違えると恰好をつけたくせに、アルバート王子もしょせんは自分の名誉が大事なのだと、王子の言葉を聞いたマリルは失望せざるをえない。王子に対して上がりつつあったマリルの評価は一気に地に落ちた。

 ルーカスの攻撃が完全に止んだのを確認してから、マリルがシールドを解くと、同じく状況を読んだザイアン王子が、石の礫を避けるために避難していた隅から中央へと足早に戻って来る。
 びしょ濡れになったルーカスを一睨みしてから、ザイアン王子は特別席のパウロン王に向かって告げた。

「この度は私とアルバート王子の決闘に際して、ご観覧頂きありがとうございます。エリザ王女をかけての試合でしたが、ルーカス大魔導師の場を弁えぬ介入で決闘は中断し、地面にも水が張って続けることが不可能になりました。よって試合の中止を申し入れたいと思います」

 王が頷き、中止を言い渡そうとしたとき、ガルレア王妃が声を上げた。

「中止などさせません! エリザ王女をかけてなどと上辺を取り繕っていますが、本当はエリザ王女の敵討ちのはず。怪我をしたら決闘は中止などと生ぬるいにもほどがある。下手をしたら戦争にもなりかねない原因を作ったアルバート王子は、この場で始末されなければなりません。ルーカス地面を乾かしなさい」

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