仕事人狩り

伊賀谷

文字の大きさ
5 / 11
第一章

第四話「暮色蒼然(二)」

しおりを挟む
 小男が倒れると同時に銀次郎は痩せた男の方を向いた。
 男は無造作に長い腕を垂れて立っていた。いや、両手に何かを持っている。
 男の右手から丸い物体が地面に向かって落ちた。そして手をひねると、それは上に跳ね上がって手に戻って行った。
 男は同じように左手も動かすと、饅頭のような形の物が地面に向かって三尺(約九〇センチメートル)ほど落ちてから跳ね上がった。
 銀次郎は目を細める。不思議な物体の正体が分かってきた。直径一寸五分(約四・五センチメートル)の円盤状の木材を二枚重ね合わせて中心から細い紐で手とつながっている。あれは手車てぐるまだ。現代で言うヨーヨーである。

 ――やっかいだな。

 男は両手の手車を銀次郎に向けて放って来るだろう。うまく避けたとしても手車は再び男の手に戻る。つまり数に限りがある手裏剣や礫のように打ち終わることがないのだ。

「破れ傘の銀次とり合えるとは仕事人冥利につきる」
「仕事人同士で殺し合う必要はねえだろ」
「銭で動くのが仕事人よ」

「しゅっ」と痩せた男は鋭く呼気を吐くと、果たせるかな手車を放った。真っ直ぐ銀次郎に向かって来る。
 銀次郎は見た。手車から刃が突出するのを。回転する刃が迫って来る。

 ――しまった。

 銀次郎は傘を開いた。
 手車が傘に当たって刃が紙に刺さった。すぐに刃は抜けた。
 銀次郎は傘の外から顔を覗かせた。
 すでに手車は痩せた男の手に戻っていた。手元に戻ると刃は収納されるようだ。

「やはりその傘が厄介だな。ではこれならどうだ」

 痩せた男は両手の肘から先を旋回させた。

「ちっ」

 銀次郎は舌打ちして傘の後ろに身を隠した。
 傘に貼った紙が縦に横に引き裂かれた。
 破れた隙間から銀次郎は見た。手車は弧を描く軌道で放たれている。あたかも巨大な鎌を振り回しているようだ。

 ――このままだと傘が壊れちまう。

 思い切って銀次郎は痩せた男に向かって駆け出した。傘が壊れる前に決着をつける必要がある。
 傘はさらに数か所引き裂かれた。
 痩せた男は逃げずに銀次郎と対峙している。

 ――そのまま動くなよ。

 二つの手車の間隙をついて銀次郎は左手に持った閉じた傘の先を男の顔に突き出した。
 堪らず痩せた男は両手で傘の先を掴んだ。

「傘で突いてどうする」
「これでいいんだよ」

 銀次郎は傘の柄の端の石突きを右の掌で叩くと、痩せた男の眼前にある傘の先から鋼の太い針が突出した。
 針は瘦せた男の額に突き刺さった。

「ぐぎ」

 痩せた男は白目をむいて仰向けに倒れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

花嫁

一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

処理中です...