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103 協力と今後
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「他店で俺の店で起こった様な動きがないか探りを入れてみる。何かあればジルに知らせる。ジルも何かあれば俺に情報を流せよ」
「ゴッツ。助かるわ。でも他店が素直に情報を渡してくれるかしらねぇ」
ジルさんが溜め息をつきながら天井を見上げ紫煙をくゆらせる。
「はは。ジルが相手だから情報を出す事を渋るんだろう。自分のやり方を一度振り返って見ろよ」
ゴッツさんが右肩を上げて呆れて笑った。同時に右耳の傷跡を撫でていた。
「どういう事よ」
「お前の店に売り上げで勝つには、集団でかからないと。『ジルの店』の一人勝ちなんかされたら、俺達の様な小さな店は死活問題さ」
「大げさな『ファルの町』の人口は特に目減りも増えもしてないでしょ。客の数は決まっているのに。売り上げが下がるのは『ファルの宿屋通り』の魅力が無くなりつつあるせいかもよ。こっちも知恵を絞って店の存続と言うか売り上げを伸ばす事に総力を挙げているわよ」
「そうさな」
売り上げが落ちているのは何処の店も同じ様だ。ゴッツさんも溜め息をついて腕を組んで考えていた。
「俺の店も何か考えて新しい事をしないとなぁ。さて、店に帰ってから考えるか、トニ、帰るぞ」
「は、はい」
そう言ってゴッツさんとトニは立ち上がって部屋を出ようとドアの前まで歩いて行く。
「今より過激な店にするにはどうしたらいいものか……」
ブツブツと呟きながらドアを開けようとしたゴッツさんだった。
「ゴッツ! あれ以上過激な店にして最終的に何処に着地するつもりよ?」
ジルさんが呆れて声を上げた。
聞くと『ゴッツの店』は女性が脱ぎながら踊りを披露する舞台が中心らしい。店の雰囲気は暗くて光量も非常に少ない。音楽は大音量でずっと演奏していて個室の様な席に座らない限り、大声や耳元で話をしないと聞こえないそうだ。
脱ぎながら踊りを披露って……もしかしてストリップ?
その店の内容を聞いて私は一人目を点にしていた。トニは相変わらず「ザックと一緒に来てね。沢山奉仕するわ!」と笑っていた。
奉仕と言うか、サービスと言うか。トニは私にどんな事をしてくれるのだろう。
「馬鹿を言うな。男はな、いつだって精神的な疲労を抱えているのさ。より過激になれば癒やされるってもんさ」
ゴッツさんが手を後ろに手を上げながら口の端を上げて笑った。
「女だって同じよ」
ジルさんが呆れ足を組み直す。
「そうか? 女の方が基本的に精神的な部分はたくましいからな。そうだ、ジルみたいに」
「どういう意味よ」
「そのままさ。じゃぁなまた連絡する」
「じゃぁね! ナツミ」
ジルさんの言葉にも軽快に返し、ゴッツさんとトニは『ジルの店』から去って行った。
「さてさて、俺は『ファルの宿屋通り』まで来たから少し遊んで行こうかな。ね? ソル」
ウツさんは椅子に座ったまま背中を反らせて肩を左右に揺らした。サラサラの金髪が椅子の後ろに垂れ下がっていた。男性だがこの金髪は見事だ。
「ウツさん無理だぜ。俺はそんな金はないし」
ソルが両手を上に上げて諦めた様に手を上げる。
ウツさんはそんなソルの言葉に目を丸めて軽く笑った。
「そこはジルの奢りだよね。だって俺達、裏町代表で協力するんだから」
パッツンと切りそろえた前髪の奥で、宝石の様なグリーンの瞳が弧を描いてジルさんを流し見る。
ジルさんはウツさんに向き直って薄く笑った。
「それはかまわないけど。今後の働き次第よ」
「えぇ~冷たいなぁ」
「まずは、今回の件で夕食一食分ぐらいってところね」
「ええっ? せめてワイン一本ぐらいはつけて欲しいな」
「多いわ。ワイン一杯ね」
「ケチだなぁ」
「ウツ、あんたザルでしょ? 際限なく飲むくせに」
「チェッ。まぁいいか。今後の出来次第って事だよね。それもそれで燃えるなぁ。じゃぁ、ソル、まずは夕食一食は報酬としてもらえたから、今日はジルの店で食べて行こうか」
そう言ってウツさんがソルに同意を求めた時、ジルさんはウツさんの顔に向かってフッと紫煙を吹きかけた。
「ゴホッ! 何するんだよ」
「ソルはまた別なの。ソル、あんた毎日昼に路地にナツミに会いに来ている様だけど──」
ジルさんがソルに向き直って眼光鋭く射貫く。ソルは固まっていた。
「え。毎日会いに来ていたの。それじゃぁソルはナツミに片思い?」
「馬鹿だな。ナツミはザック隊長の恋人だって言うのに」
今まで黙ったままだったミラとシンが顔を寄せ合って小声で話し始めた。
小声と言っても皆に聞こえる小声だ。その話を聞いたウツさんが目を丸めてソルに笑いかける。
「そうだったのか~ソルお前もやるねぇ。やたらナツミに興味がある様子だったけど。まさかザックの恋人に手を出すとは」
「何ぃ~ナツミに手を出すのか」
ウツさんの言葉にザックが反応してギロリとソルを睨みつける。
「ち、違いますよ。ウツさん! ザックさんが誤解をする様な言い方をしないでください」
ソルが椅子からお尻を浮かせて慌てる。
ミラもシンもウツさんもニヤニヤしている。
これは慌てるソルをからかっているだけの様だ。
どうやらソルは可愛がられている様だ。
だが、ザックには冗談が何故か通じなかった。今にも掴みかからんばかりのザックの様子に、隣に座っていた私は慌てて腕にしがみついた。
「ザック、違うってば。ただ単に話を少ししてただけだから。トニと一緒につまらない話って言うか」
「ソルはナツミに手を出すつもりはないかもしれないがな」
ザックは私の縋り付く手を軽く握りしめる。
「分かってるならそんなに怒らなくても」
私はザックの顔を下から覗き込みながら怒りに燃えるグリーンの瞳を見つめた。
なのにザックは軽く首を振ってソルを再び見つめる。
「いいや、怒っているのはそこじゃないさ。俺には分かるんだ。ソルはあわよくば、ナツミと同じ国出身の女を紹介してもらおうとしてるんだぜ」
「ギクッ」
ザックがそう告げた瞬間ソルの顔色が変わった。
「顔色が変わったぞ」
「図星だった様ね」
ノアとマリンも笑いながら様子を見守っていた。
「ソル……それは浅知恵ってもんだ。お前も女の事しか考えてないという事か」
ダンさんが呆れかえって黒光りする頭を撫でる。
「なるほどね。男としても同じ分類に入るザックには分かるという事ですか」
一流の変態である、私の天敵ネロさんがほのぼの笑っていた。
私と同じ国の出身と言われても、出来ない相談だ。なんせ異世界から来たのだから友達を紹介する事も出来ない。
私は改めてソルに向き直るとソルがバツが悪そうに視線を逸らす。
皆の言う事は当たった様だ。
「ソル残念だが、ナツミはとても遠い東の国から来たんだ。軍の船を出してもナツミの国にはいけない」
ザックがソルに向かってきっぱりと言い切る。
「そうですか。そんなに遠い国から無理矢理連れ来られて。それをザックさんが助けたのがはじまりですか?」
ソルが改めて驚いた様な顔をした。
違う、違うから。
無理矢理連れて来られた訳ではなくて。
奴隷売買が横行している事、そして今回も奴隷商人が関わっている話のせいでソルはそこからなかなか離れてくれない。
「ではなくてな。ソルいい加減自分の推測から離れろよ。将来、軍人になるのに推測でものを考えるなよ。俺とナツミの出会いはな、ナツミがマリンを助けた事からはじまるんだが──」
「え? マリンさんを助けたのがナツミでそれを助けたのがザックさんで」
「だから、そうじゃなくてな。まぁ、いいや。とにかくナツミと同じ国の女を紹介してやる事は不可能って事だから諦めろ」
「そうなんですか。それは残念です」
余計話がこじれかけたのをザックが元に戻す。結局ソルは私から女性を紹介してもらおうと思っていたのか肩を落として椅子に座った。
その様子を見たザックが満足した様で腕を改めて組んで頷いた。
「まぁ。この俺が溺れるナツミに興味が湧くのは仕方ない事だしな」
「どうして?」
私は訳が分からずザックを覗き込む。するとザックは笑いながら私の肩を撫でる様に抱きおでこにキスを一つ落とした。
その様子を見たソルが口を尖らせて話し出す。
「だってナツミ、ザックさんだぞ? 『ファルの町』の女という女を渡り歩いたザックさんが、身も心もナツミの虜なんだぞ。し・か・も、今までの女性とは異なる感じで異国の女とくれば、どんな具合なのか気になって仕方ないだろ」
「具合?」
私はその意味が瞬時に理解できず思わず反芻してしまった。
すると分かっていない私の様子にソルが苛つきながら声を荒らげる。
「ザックさんって凄く性欲が強くて、女という女が潰れるぐらい抱き潰す時があるから。女一人では絶対満足しないんだって皆思っているんだよ」
力一杯力説するソルにザックが「あっ」と焦り出す。
またもやザックの女性関係の話か。
私はザックを下から睨み上げると、ザックが口の端を上げて笑いとぼけてみせる。
「ソ、ソル。そのぐらいで止めようか?」
慌ててソルの口を閉ざそうとするのはザックの部下シンだった。
だが、ソルは空気が読めていないのか止まらない。
「いいえ。シンさん、止めないでください。ナツミが分かってないから改めて言います。ナツミ、いいか? ザックさんがナツミだけに満足して更に溺れているんだぞ。これがどれだけ凄い事なのか、どれだけ愛されているのか分かるか?」
「う、うん。そんな愛されるなんて恥ずかしいから──」
愛されている……だなんて、くすぐったくて恥ずかしくなる響き。
私はザックのシャツを握りしめて頬を染める。
ソルお願いだからそれ以上話すのは恥ずかしいからと、制止しようとした。
「心だけじゃない。絶・対、ナツミとのセックスが凄く良い具合なんだと思って!」
ソルの口から語られた言葉は最低以外の他なかった。
「だからナツミと同じ国の女を紹介してもらおうと。ガッ!」
その瞬間──私はすっかり空っぽになったワインのボトルをソルの顔面に投げてソルの高い鼻にヒットさせた。
「もうっ! 最低なんだからっ」
私が肩で息をして、ソルから顔を背けた。
もう、もう。
ザックと似ているし年頃の男の子だからと思ったけれど、ここまで女性を抱く事だけに興味があるのも困りものだ。
先程のネロさんの覗きもさることながら『ファルの町』の男性は油断ならない。
仰向けになったソルにその場の皆が溜め息をついた。
「ゴッツ。助かるわ。でも他店が素直に情報を渡してくれるかしらねぇ」
ジルさんが溜め息をつきながら天井を見上げ紫煙をくゆらせる。
「はは。ジルが相手だから情報を出す事を渋るんだろう。自分のやり方を一度振り返って見ろよ」
ゴッツさんが右肩を上げて呆れて笑った。同時に右耳の傷跡を撫でていた。
「どういう事よ」
「お前の店に売り上げで勝つには、集団でかからないと。『ジルの店』の一人勝ちなんかされたら、俺達の様な小さな店は死活問題さ」
「大げさな『ファルの町』の人口は特に目減りも増えもしてないでしょ。客の数は決まっているのに。売り上げが下がるのは『ファルの宿屋通り』の魅力が無くなりつつあるせいかもよ。こっちも知恵を絞って店の存続と言うか売り上げを伸ばす事に総力を挙げているわよ」
「そうさな」
売り上げが落ちているのは何処の店も同じ様だ。ゴッツさんも溜め息をついて腕を組んで考えていた。
「俺の店も何か考えて新しい事をしないとなぁ。さて、店に帰ってから考えるか、トニ、帰るぞ」
「は、はい」
そう言ってゴッツさんとトニは立ち上がって部屋を出ようとドアの前まで歩いて行く。
「今より過激な店にするにはどうしたらいいものか……」
ブツブツと呟きながらドアを開けようとしたゴッツさんだった。
「ゴッツ! あれ以上過激な店にして最終的に何処に着地するつもりよ?」
ジルさんが呆れて声を上げた。
聞くと『ゴッツの店』は女性が脱ぎながら踊りを披露する舞台が中心らしい。店の雰囲気は暗くて光量も非常に少ない。音楽は大音量でずっと演奏していて個室の様な席に座らない限り、大声や耳元で話をしないと聞こえないそうだ。
脱ぎながら踊りを披露って……もしかしてストリップ?
その店の内容を聞いて私は一人目を点にしていた。トニは相変わらず「ザックと一緒に来てね。沢山奉仕するわ!」と笑っていた。
奉仕と言うか、サービスと言うか。トニは私にどんな事をしてくれるのだろう。
「馬鹿を言うな。男はな、いつだって精神的な疲労を抱えているのさ。より過激になれば癒やされるってもんさ」
ゴッツさんが手を後ろに手を上げながら口の端を上げて笑った。
「女だって同じよ」
ジルさんが呆れ足を組み直す。
「そうか? 女の方が基本的に精神的な部分はたくましいからな。そうだ、ジルみたいに」
「どういう意味よ」
「そのままさ。じゃぁなまた連絡する」
「じゃぁね! ナツミ」
ジルさんの言葉にも軽快に返し、ゴッツさんとトニは『ジルの店』から去って行った。
「さてさて、俺は『ファルの宿屋通り』まで来たから少し遊んで行こうかな。ね? ソル」
ウツさんは椅子に座ったまま背中を反らせて肩を左右に揺らした。サラサラの金髪が椅子の後ろに垂れ下がっていた。男性だがこの金髪は見事だ。
「ウツさん無理だぜ。俺はそんな金はないし」
ソルが両手を上に上げて諦めた様に手を上げる。
ウツさんはそんなソルの言葉に目を丸めて軽く笑った。
「そこはジルの奢りだよね。だって俺達、裏町代表で協力するんだから」
パッツンと切りそろえた前髪の奥で、宝石の様なグリーンの瞳が弧を描いてジルさんを流し見る。
ジルさんはウツさんに向き直って薄く笑った。
「それはかまわないけど。今後の働き次第よ」
「えぇ~冷たいなぁ」
「まずは、今回の件で夕食一食分ぐらいってところね」
「ええっ? せめてワイン一本ぐらいはつけて欲しいな」
「多いわ。ワイン一杯ね」
「ケチだなぁ」
「ウツ、あんたザルでしょ? 際限なく飲むくせに」
「チェッ。まぁいいか。今後の出来次第って事だよね。それもそれで燃えるなぁ。じゃぁ、ソル、まずは夕食一食は報酬としてもらえたから、今日はジルの店で食べて行こうか」
そう言ってウツさんがソルに同意を求めた時、ジルさんはウツさんの顔に向かってフッと紫煙を吹きかけた。
「ゴホッ! 何するんだよ」
「ソルはまた別なの。ソル、あんた毎日昼に路地にナツミに会いに来ている様だけど──」
ジルさんがソルに向き直って眼光鋭く射貫く。ソルは固まっていた。
「え。毎日会いに来ていたの。それじゃぁソルはナツミに片思い?」
「馬鹿だな。ナツミはザック隊長の恋人だって言うのに」
今まで黙ったままだったミラとシンが顔を寄せ合って小声で話し始めた。
小声と言っても皆に聞こえる小声だ。その話を聞いたウツさんが目を丸めてソルに笑いかける。
「そうだったのか~ソルお前もやるねぇ。やたらナツミに興味がある様子だったけど。まさかザックの恋人に手を出すとは」
「何ぃ~ナツミに手を出すのか」
ウツさんの言葉にザックが反応してギロリとソルを睨みつける。
「ち、違いますよ。ウツさん! ザックさんが誤解をする様な言い方をしないでください」
ソルが椅子からお尻を浮かせて慌てる。
ミラもシンもウツさんもニヤニヤしている。
これは慌てるソルをからかっているだけの様だ。
どうやらソルは可愛がられている様だ。
だが、ザックには冗談が何故か通じなかった。今にも掴みかからんばかりのザックの様子に、隣に座っていた私は慌てて腕にしがみついた。
「ザック、違うってば。ただ単に話を少ししてただけだから。トニと一緒につまらない話って言うか」
「ソルはナツミに手を出すつもりはないかもしれないがな」
ザックは私の縋り付く手を軽く握りしめる。
「分かってるならそんなに怒らなくても」
私はザックの顔を下から覗き込みながら怒りに燃えるグリーンの瞳を見つめた。
なのにザックは軽く首を振ってソルを再び見つめる。
「いいや、怒っているのはそこじゃないさ。俺には分かるんだ。ソルはあわよくば、ナツミと同じ国出身の女を紹介してもらおうとしてるんだぜ」
「ギクッ」
ザックがそう告げた瞬間ソルの顔色が変わった。
「顔色が変わったぞ」
「図星だった様ね」
ノアとマリンも笑いながら様子を見守っていた。
「ソル……それは浅知恵ってもんだ。お前も女の事しか考えてないという事か」
ダンさんが呆れかえって黒光りする頭を撫でる。
「なるほどね。男としても同じ分類に入るザックには分かるという事ですか」
一流の変態である、私の天敵ネロさんがほのぼの笑っていた。
私と同じ国の出身と言われても、出来ない相談だ。なんせ異世界から来たのだから友達を紹介する事も出来ない。
私は改めてソルに向き直るとソルがバツが悪そうに視線を逸らす。
皆の言う事は当たった様だ。
「ソル残念だが、ナツミはとても遠い東の国から来たんだ。軍の船を出してもナツミの国にはいけない」
ザックがソルに向かってきっぱりと言い切る。
「そうですか。そんなに遠い国から無理矢理連れ来られて。それをザックさんが助けたのがはじまりですか?」
ソルが改めて驚いた様な顔をした。
違う、違うから。
無理矢理連れて来られた訳ではなくて。
奴隷売買が横行している事、そして今回も奴隷商人が関わっている話のせいでソルはそこからなかなか離れてくれない。
「ではなくてな。ソルいい加減自分の推測から離れろよ。将来、軍人になるのに推測でものを考えるなよ。俺とナツミの出会いはな、ナツミがマリンを助けた事からはじまるんだが──」
「え? マリンさんを助けたのがナツミでそれを助けたのがザックさんで」
「だから、そうじゃなくてな。まぁ、いいや。とにかくナツミと同じ国の女を紹介してやる事は不可能って事だから諦めろ」
「そうなんですか。それは残念です」
余計話がこじれかけたのをザックが元に戻す。結局ソルは私から女性を紹介してもらおうと思っていたのか肩を落として椅子に座った。
その様子を見たザックが満足した様で腕を改めて組んで頷いた。
「まぁ。この俺が溺れるナツミに興味が湧くのは仕方ない事だしな」
「どうして?」
私は訳が分からずザックを覗き込む。するとザックは笑いながら私の肩を撫でる様に抱きおでこにキスを一つ落とした。
その様子を見たソルが口を尖らせて話し出す。
「だってナツミ、ザックさんだぞ? 『ファルの町』の女という女を渡り歩いたザックさんが、身も心もナツミの虜なんだぞ。し・か・も、今までの女性とは異なる感じで異国の女とくれば、どんな具合なのか気になって仕方ないだろ」
「具合?」
私はその意味が瞬時に理解できず思わず反芻してしまった。
すると分かっていない私の様子にソルが苛つきながら声を荒らげる。
「ザックさんって凄く性欲が強くて、女という女が潰れるぐらい抱き潰す時があるから。女一人では絶対満足しないんだって皆思っているんだよ」
力一杯力説するソルにザックが「あっ」と焦り出す。
またもやザックの女性関係の話か。
私はザックを下から睨み上げると、ザックが口の端を上げて笑いとぼけてみせる。
「ソ、ソル。そのぐらいで止めようか?」
慌ててソルの口を閉ざそうとするのはザックの部下シンだった。
だが、ソルは空気が読めていないのか止まらない。
「いいえ。シンさん、止めないでください。ナツミが分かってないから改めて言います。ナツミ、いいか? ザックさんがナツミだけに満足して更に溺れているんだぞ。これがどれだけ凄い事なのか、どれだけ愛されているのか分かるか?」
「う、うん。そんな愛されるなんて恥ずかしいから──」
愛されている……だなんて、くすぐったくて恥ずかしくなる響き。
私はザックのシャツを握りしめて頬を染める。
ソルお願いだからそれ以上話すのは恥ずかしいからと、制止しようとした。
「心だけじゃない。絶・対、ナツミとのセックスが凄く良い具合なんだと思って!」
ソルの口から語られた言葉は最低以外の他なかった。
「だからナツミと同じ国の女を紹介してもらおうと。ガッ!」
その瞬間──私はすっかり空っぽになったワインのボトルをソルの顔面に投げてソルの高い鼻にヒットさせた。
「もうっ! 最低なんだからっ」
私が肩で息をして、ソルから顔を背けた。
もう、もう。
ザックと似ているし年頃の男の子だからと思ったけれど、ここまで女性を抱く事だけに興味があるのも困りものだ。
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