3 / 95
003 7月22日 ハンバーガーショップにて 2/2
しおりを挟む
私は春頃に発覚した右膝の違和感について、病院に通っている事を怜央に話していなかった。
と言うか……話せなかった。
何故話せなかったのかって? それは、とても惨めな理由からだった。その事が原因で私は怜央に別れを告げたのだ。
その事を話せるのは親友の紗理奈以外にいないと思うけれども。まだ上手く伝えられない。
私の視線を逸らした姿をじっと見つめた紗理奈は頬杖をついた。それから飲み物に手を伸ばした私の手をふわりと握った。
「明日香が話したくなったらさ、話してよね。待っているからさ」
「うん。紗理奈、ありがとう」
私は多くを聞かないでいてくれる紗理奈に感謝した。
スポーツ科のクラスメイトは皆、私と怜央が別れた事を聞きつけて根掘り葉掘り聞いてくる。中にはあまり仲良くなかったのに興味津々で、仲が良かった体で聞いてくるクラスメイトもいる。
それだけ怜央が注目されているからなのだろう。怜央は高校の中でもとびきり人気の高い男子生徒なのだ。次は誰が怜央と付き合うのか皆興味があるし、その彼女の座をたくさんの女生徒が狙っている。
幼なじみというトップカードを持っている私が怜央の前を去った事は、目の上のたんこぶがなくなったぐらいすっきりしたのだろう。
「それにしても別れた理由について色々な噂が流れているわよ。英数科のところまで噂が届くぐらい。みんな勝手よね明日香は怪我までしているのに」
「仕方ないよ。怜央はいつも注目されているしね」
私は瞳を伏せた。
概ね噂については聞いている。「巽 明日香がスポーツ科を脱落するから別れた」だの、またその逆で「才川がスポーツ科から脱落する巽を見限ったのじゃないか」とか。
いずれにしても普通科へ転科、脱落者になる私に対して厳しい目を向ける。
「それは違うわよ。才川だけに注目しているのじゃないって。明日香だってかなり男子に人気あるのに。クールビューティーって言われて人気がある事に自覚ないの?」
紗理奈があきれたように声を上げる。毎回言われるけれどもピンとこない。
「クールビューティーなんて。陸上の雑誌で面白おかしくネーミングをつけられただけで誰もそんな事思っていないよ。大体人気があるなら誰かに告白された事が一回や二回はありそうなのに。一度もないから」
私が肩を上げて笑うと紗理奈があきれていた。
「クールビューティー過ぎて近づきづらいって事と、バックに幼なじみの才川がいるからなおさら声をかけられなかった事実に自覚なしか……」
「だから、ないない。ないからそんなの」
私が口の前で手を振って見せた。
「自覚がないなら仕方ないわね。でもさ才川は否定しているのは聞いたわよ『別れていない』って。明日香は別れを切り出したのでしょ? はっきり言ったのよね?」
紗理奈は優しく重ねた手を離すと、ポテトをつまみ。行儀が悪いが私を指した。
「それが怜央にはっきり別れようって言ったし伝えたのだけれど、断られて」
困った事に怜央に別れを受け入れてもらえていない。
「やっぱり。才川は別れたくないんだ……へぇ~噂では明日香の方が才川に頼んで別れたくないっていう声が多かったけれども、才川が縋っているんじゃないの」
「縋るっていう程じゃないよ。『却下だ』って言われて」
「却下ぁ? 普通そんな言い方をする? でも、あの上から目線の才川なら言いそうよね。で? 何でこんなに別れる別れないの話が学校で広まったの?」
「それが別れ話をしているその場に来てしまったのが怜央の部活仲間で。怜央と言い合っているのがバレてしまって。あっという間に別れた、別れないの話が校内に広まってさ」
「ああ~男バレの奴ら仲良しだしね。だけどさ恋人が話し合っているのにそんな重要な事広めなくても。デリカシーがないって言うか」
ブツブツと紗理奈が文句を言っていた。
そうなのだ。私から別れを告げたのは先日だが、怜央は「却下だ」と言って聞いてくれなかった。そこへ怜央の部活仲間がやって来て別れ話で揉めている事を聞かれてしまったのだ。
そしておしゃべりな怜央の部活仲間が別れ話を学校の皆に広めてしまったので、噂の的になっているのだ。
「噂の方は夏休みに入って少し噂も落ち着くと良いわね。その間にちゃんと才川と話し合って別れるにしろ別れないにしろ二人で決めるのよ」
「うん」
私は紗理奈の前で頷いた。
まだ寒かった頃。怜央の部屋で、怜央の事を取り上げた雑誌について話をした時は、とても幸せな時間だった。
こんな事になるなんて考えてもいなかった。
私は再び窓の外を見つめて溜め息をついた。
と言うか……話せなかった。
何故話せなかったのかって? それは、とても惨めな理由からだった。その事が原因で私は怜央に別れを告げたのだ。
その事を話せるのは親友の紗理奈以外にいないと思うけれども。まだ上手く伝えられない。
私の視線を逸らした姿をじっと見つめた紗理奈は頬杖をついた。それから飲み物に手を伸ばした私の手をふわりと握った。
「明日香が話したくなったらさ、話してよね。待っているからさ」
「うん。紗理奈、ありがとう」
私は多くを聞かないでいてくれる紗理奈に感謝した。
スポーツ科のクラスメイトは皆、私と怜央が別れた事を聞きつけて根掘り葉掘り聞いてくる。中にはあまり仲良くなかったのに興味津々で、仲が良かった体で聞いてくるクラスメイトもいる。
それだけ怜央が注目されているからなのだろう。怜央は高校の中でもとびきり人気の高い男子生徒なのだ。次は誰が怜央と付き合うのか皆興味があるし、その彼女の座をたくさんの女生徒が狙っている。
幼なじみというトップカードを持っている私が怜央の前を去った事は、目の上のたんこぶがなくなったぐらいすっきりしたのだろう。
「それにしても別れた理由について色々な噂が流れているわよ。英数科のところまで噂が届くぐらい。みんな勝手よね明日香は怪我までしているのに」
「仕方ないよ。怜央はいつも注目されているしね」
私は瞳を伏せた。
概ね噂については聞いている。「巽 明日香がスポーツ科を脱落するから別れた」だの、またその逆で「才川がスポーツ科から脱落する巽を見限ったのじゃないか」とか。
いずれにしても普通科へ転科、脱落者になる私に対して厳しい目を向ける。
「それは違うわよ。才川だけに注目しているのじゃないって。明日香だってかなり男子に人気あるのに。クールビューティーって言われて人気がある事に自覚ないの?」
紗理奈があきれたように声を上げる。毎回言われるけれどもピンとこない。
「クールビューティーなんて。陸上の雑誌で面白おかしくネーミングをつけられただけで誰もそんな事思っていないよ。大体人気があるなら誰かに告白された事が一回や二回はありそうなのに。一度もないから」
私が肩を上げて笑うと紗理奈があきれていた。
「クールビューティー過ぎて近づきづらいって事と、バックに幼なじみの才川がいるからなおさら声をかけられなかった事実に自覚なしか……」
「だから、ないない。ないからそんなの」
私が口の前で手を振って見せた。
「自覚がないなら仕方ないわね。でもさ才川は否定しているのは聞いたわよ『別れていない』って。明日香は別れを切り出したのでしょ? はっきり言ったのよね?」
紗理奈は優しく重ねた手を離すと、ポテトをつまみ。行儀が悪いが私を指した。
「それが怜央にはっきり別れようって言ったし伝えたのだけれど、断られて」
困った事に怜央に別れを受け入れてもらえていない。
「やっぱり。才川は別れたくないんだ……へぇ~噂では明日香の方が才川に頼んで別れたくないっていう声が多かったけれども、才川が縋っているんじゃないの」
「縋るっていう程じゃないよ。『却下だ』って言われて」
「却下ぁ? 普通そんな言い方をする? でも、あの上から目線の才川なら言いそうよね。で? 何でこんなに別れる別れないの話が学校で広まったの?」
「それが別れ話をしているその場に来てしまったのが怜央の部活仲間で。怜央と言い合っているのがバレてしまって。あっという間に別れた、別れないの話が校内に広まってさ」
「ああ~男バレの奴ら仲良しだしね。だけどさ恋人が話し合っているのにそんな重要な事広めなくても。デリカシーがないって言うか」
ブツブツと紗理奈が文句を言っていた。
そうなのだ。私から別れを告げたのは先日だが、怜央は「却下だ」と言って聞いてくれなかった。そこへ怜央の部活仲間がやって来て別れ話で揉めている事を聞かれてしまったのだ。
そしておしゃべりな怜央の部活仲間が別れ話を学校の皆に広めてしまったので、噂の的になっているのだ。
「噂の方は夏休みに入って少し噂も落ち着くと良いわね。その間にちゃんと才川と話し合って別れるにしろ別れないにしろ二人で決めるのよ」
「うん」
私は紗理奈の前で頷いた。
まだ寒かった頃。怜央の部屋で、怜央の事を取り上げた雑誌について話をした時は、とても幸せな時間だった。
こんな事になるなんて考えてもいなかった。
私は再び窓の外を見つめて溜め息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。
俺と結婚、しよ?」
兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。
昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。
それから猪狩の猛追撃が!?
相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。
でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。
そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。
愛川雛乃 あいかわひなの 26
ごく普通の地方銀行員
某着せ替え人形のような見た目で可愛い
おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み
真面目で努力家なのに、
なぜかよくない噂を立てられる苦労人
×
岡藤猪狩 おかふじいかり 36
警察官でSIT所属のエリート
泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長
でも、雛乃には……?
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる