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025 7月31日 午前中 紗理奈宅にてガールズトーク
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今日は七月の最終日。スポーツ科向けの補習授業はお休みとなった。先生もこの暑さでバテてしまったのだ。七緖くんの補習授業は無事に行われるらしく午後から喫茶「銀河」で落ち合う事になった。
◇◆◇
< えぇ~僕も休みたいわぁいいなぁ~昼まで寝とりたい (T^T) >
< えっ寝ないよ? >
< えー寝る以外何があるん? 朝から何するん? >
< 紗理奈と会うの。時間が出来たんだって。紗理奈の家でケーキ食べてお話しするよ >
< 朝からケーキかい ほな午後から銀河で待っとるから >
< ちょっとその空白、スペースって何? >
< なーんも? ほな (-_-)zzz >
< だからその空白、スペースがっ もう。おやすみなさい >
昨日の夜お風呂から出てそんなやりとりを七緖くんとメッセージアプリで行う。短いメッセージのやりとりも定着してきた。
(七緖くんの事をもっと知りたい)
例えば血液型は何型なのかなとか、誕生日はいつとか。運動は苦手で伯父さんは博さん。お家は喫茶店「銀河」の隣でしょ。
「それに」
どうして前髪で目を隠しているのかとか。前髪を上げた顔を初めて見た時、少し嫌そうな顔をしたし。そういえばこんな事を言っていたかな。
──何がおもろいん。どうせ『ハーフなんだぁ~』とか『クォーターなんだぁ~』とか、思うてるんとちゃうん? ──
大城ヶ丘高校の生徒にもハーフやクォーターの生徒は多い。スポーツ科に多い様な気もする。そんなに珍しくもないと思うのだが。コンプレックスは様々だから七緖くんなりに何かあるのかもしれない。
でも。
「瞳の色が凄く綺麗なのに」
琥珀色の瞳。黄色と金色が混ざった宝石の様な瞳。
日本人でもライトブラウンに近い瞳の人はたくさんいるけれども、それとも違う。
「紗理奈は知ってるかな」
明日会う紗理奈に七緖くんの事を聞いてみよう。でもその前に話していなかった怜央と萌々香ちゃんの話を聞いてもらおうかな。
(散々七緖くんに聞いてもらったけれどもね。七緖くんに泣く時に側にいて、話も聞いてもらったし。だから整理出来たし話が出来るって感じだよね)
そんな事を考えながら私は眠りについた。
◇◆◇
「そんな事があったなんて。全然気がつかなかった。はぁ~それで明日香は別れたいと思ったのね」
七月の最後の日。午前中、私は朝早くから紗理奈の家に遊びに来ていた。紗理奈は海よりも深い溜め息をついて驚いていた。
「うん。何だか気持ちがついて行かなくて。だから怜央とは幼なじみに戻った方が私にはいいかなって。なかなか話せなくて心配かけてごめんね」
私は紗理奈に謝った。
紗理奈の部屋の真ん中にあるテーブルには、私が近くのケーキ屋さんで買ってきたフルーツタルトが二つ並んでいる。
紗理奈はジーンズのワイドパンツにパールピンクの袖なしシャツを着ていた。お団子に結った髪の毛は無造作で崩れそうだけれども襟足の後れ毛が可愛くはねていた。
紗理奈にようやく怜央との事を話す事が出来た。怜央が萌々香ちゃんという年上の幼なじみと関係をしていた事、押し倒された時、嘘をつかれた事を話す。
その間ずっと紗理奈は驚いて「えっ?」「ウソ?」「ホントに?」など途中で声をひっくり返していた。おかげで紗理奈はタルトの上のイチゴを食べようと思っては戻しを何回か繰りかえす。
「謝らなくていいよ。そんな短期間に色々起これば精神的に追い詰められるわよね。よく耐え抜いたよ」
紗理奈はうんうんと頷きながらあぐらをかいてタルトのイチゴをようやく口に含んだ。もぐもぐと咀嚼をする姿を見ながら私は冷めた紅茶を一口飲んだ。
「全然耐え抜いてないよ。食事の味がなくなるし」
「えっ味がしなくなったの?」
「うん。今は大分戻ってきたから大丈夫なんだけど」
「ひぇ~そんなにも」
「それにさ、この間七緖くんの前で大泣きしちゃうし。恥ずかしいやら鼻水が出るやら」
私が鼻水を垂らして泣いた日の事を思い出し軽く笑うと、紗理奈はイチゴを喉に詰まらせた。
「んグッ!」
ドンドンと胸を叩いて紗理奈は冷えた紅茶を流し込む。
「大丈夫?」
私が尋ねるとテーブル越しに紗理奈が身を乗り出す。
「何でそこで七緖が出てくるの! 七緖の前で泣くって何? って言うかさ電話で話した時、七緖に教えてもらってうらやましいとは思ったけれども。そもそも塾の話から突然、七緖が出てくるの? 訳が分からないんだけど」
「ああ~それはね」
言われてみれば七緖くんとの関係が始まったのは唐突だ。知らない人が聞いたら驚く様な出会いだ。
私は今までの七緖くんとのやりとりを説明する。紗理奈は再びタルトを食べる手を止める事になった。
◇◆◇
「えぇ~怜央と萌々香とか言う幼なじみの話も、押し倒された話も、全部七緖に話したの?!」
紗理奈が信じられないといった顔をして、ゆっくりと首を左右に振った。
「うん。凄く聞き上手でね、それに思ってもいなかった意見ももらえたし」
私はそんな紗理奈の前でパクパクとタルトを食べ進める。
(うん。タルトの味がする~幸せ。甘い~そうそうこんな味だったよねタルトって)
味覚がほぼ戻ってきた事がうれしくて私はケーキを堪能した。
しかし、目の前の紗理奈はポカンとした後、自分の口の前で手を左右に振った。
「いやいや、聞き上手も何も。そもそも『穴に入れたい時がある』って、意見って言うよりただの男子の事情でしょ」
「あ、う。そこはね。そうだと思うけれども。でもさ七緖くんと話をしないと整理出来なかったと思うの」
例の『目の前に穴があったから入れてみた』発言について紗理奈の突っ込みが入る。それはその通りだと私も思う。でも七緖くんとの会話が参考になるのはそこではない。
「整理ねぇ。それで整理出来たの?」
「うん。つまり、私がどうしても受け入れられないのはさ、怜央と萌々香ちゃんがそういう関係だった事を二人が隠そうとする事なんだよね」
「あー。でもさ才川が押し倒した時に『そうだ萌々香と関係があったんだ』とか言われても嫌でしょ。ショックじゃん」
紗理奈が微妙に怜央の声真似をする。全然似ていないからコミカルになる。言いたい事はもっともだ。同じ事を七緖くんにも言われたし。
「それはそうだけど。コソコソと二人の関係を隠そうとする理由が、私が『鈍い』とか『ショックを受けるから』とか。そういう決めつけるところが凄く嫌なんだよね」
「うー確かに。知られたくなければ墓場まで持っていけってね。二人で笑っているのを聞いたら嫌だよね。バレてるっつーの」
「それが馬鹿にされているって言うか。そういうの含めて怜央と萌々香ちゃんの事が腹が立つの」
(それに、七緖くんと話をして気がついた事が一つある。私自身が怜央や萌々香ちゃんに言い返せないという縛りを自ら設けている事だ)
最後は言葉にしなかったけれども私はフォークを握りしめて紗理奈を見つめた。
そこまで私の話を聞いた紗理奈は、今日一番の深い溜め息をついて体育座りになり私を見つめながらポツポツと話し始めた。
◇◆◇
< えぇ~僕も休みたいわぁいいなぁ~昼まで寝とりたい (T^T) >
< えっ寝ないよ? >
< えー寝る以外何があるん? 朝から何するん? >
< 紗理奈と会うの。時間が出来たんだって。紗理奈の家でケーキ食べてお話しするよ >
< 朝からケーキかい ほな午後から銀河で待っとるから >
< ちょっとその空白、スペースって何? >
< なーんも? ほな (-_-)zzz >
< だからその空白、スペースがっ もう。おやすみなさい >
昨日の夜お風呂から出てそんなやりとりを七緖くんとメッセージアプリで行う。短いメッセージのやりとりも定着してきた。
(七緖くんの事をもっと知りたい)
例えば血液型は何型なのかなとか、誕生日はいつとか。運動は苦手で伯父さんは博さん。お家は喫茶店「銀河」の隣でしょ。
「それに」
どうして前髪で目を隠しているのかとか。前髪を上げた顔を初めて見た時、少し嫌そうな顔をしたし。そういえばこんな事を言っていたかな。
──何がおもろいん。どうせ『ハーフなんだぁ~』とか『クォーターなんだぁ~』とか、思うてるんとちゃうん? ──
大城ヶ丘高校の生徒にもハーフやクォーターの生徒は多い。スポーツ科に多い様な気もする。そんなに珍しくもないと思うのだが。コンプレックスは様々だから七緖くんなりに何かあるのかもしれない。
でも。
「瞳の色が凄く綺麗なのに」
琥珀色の瞳。黄色と金色が混ざった宝石の様な瞳。
日本人でもライトブラウンに近い瞳の人はたくさんいるけれども、それとも違う。
「紗理奈は知ってるかな」
明日会う紗理奈に七緖くんの事を聞いてみよう。でもその前に話していなかった怜央と萌々香ちゃんの話を聞いてもらおうかな。
(散々七緖くんに聞いてもらったけれどもね。七緖くんに泣く時に側にいて、話も聞いてもらったし。だから整理出来たし話が出来るって感じだよね)
そんな事を考えながら私は眠りについた。
◇◆◇
「そんな事があったなんて。全然気がつかなかった。はぁ~それで明日香は別れたいと思ったのね」
七月の最後の日。午前中、私は朝早くから紗理奈の家に遊びに来ていた。紗理奈は海よりも深い溜め息をついて驚いていた。
「うん。何だか気持ちがついて行かなくて。だから怜央とは幼なじみに戻った方が私にはいいかなって。なかなか話せなくて心配かけてごめんね」
私は紗理奈に謝った。
紗理奈の部屋の真ん中にあるテーブルには、私が近くのケーキ屋さんで買ってきたフルーツタルトが二つ並んでいる。
紗理奈はジーンズのワイドパンツにパールピンクの袖なしシャツを着ていた。お団子に結った髪の毛は無造作で崩れそうだけれども襟足の後れ毛が可愛くはねていた。
紗理奈にようやく怜央との事を話す事が出来た。怜央が萌々香ちゃんという年上の幼なじみと関係をしていた事、押し倒された時、嘘をつかれた事を話す。
その間ずっと紗理奈は驚いて「えっ?」「ウソ?」「ホントに?」など途中で声をひっくり返していた。おかげで紗理奈はタルトの上のイチゴを食べようと思っては戻しを何回か繰りかえす。
「謝らなくていいよ。そんな短期間に色々起これば精神的に追い詰められるわよね。よく耐え抜いたよ」
紗理奈はうんうんと頷きながらあぐらをかいてタルトのイチゴをようやく口に含んだ。もぐもぐと咀嚼をする姿を見ながら私は冷めた紅茶を一口飲んだ。
「全然耐え抜いてないよ。食事の味がなくなるし」
「えっ味がしなくなったの?」
「うん。今は大分戻ってきたから大丈夫なんだけど」
「ひぇ~そんなにも」
「それにさ、この間七緖くんの前で大泣きしちゃうし。恥ずかしいやら鼻水が出るやら」
私が鼻水を垂らして泣いた日の事を思い出し軽く笑うと、紗理奈はイチゴを喉に詰まらせた。
「んグッ!」
ドンドンと胸を叩いて紗理奈は冷えた紅茶を流し込む。
「大丈夫?」
私が尋ねるとテーブル越しに紗理奈が身を乗り出す。
「何でそこで七緖が出てくるの! 七緖の前で泣くって何? って言うかさ電話で話した時、七緖に教えてもらってうらやましいとは思ったけれども。そもそも塾の話から突然、七緖が出てくるの? 訳が分からないんだけど」
「ああ~それはね」
言われてみれば七緖くんとの関係が始まったのは唐突だ。知らない人が聞いたら驚く様な出会いだ。
私は今までの七緖くんとのやりとりを説明する。紗理奈は再びタルトを食べる手を止める事になった。
◇◆◇
「えぇ~怜央と萌々香とか言う幼なじみの話も、押し倒された話も、全部七緖に話したの?!」
紗理奈が信じられないといった顔をして、ゆっくりと首を左右に振った。
「うん。凄く聞き上手でね、それに思ってもいなかった意見ももらえたし」
私はそんな紗理奈の前でパクパクとタルトを食べ進める。
(うん。タルトの味がする~幸せ。甘い~そうそうこんな味だったよねタルトって)
味覚がほぼ戻ってきた事がうれしくて私はケーキを堪能した。
しかし、目の前の紗理奈はポカンとした後、自分の口の前で手を左右に振った。
「いやいや、聞き上手も何も。そもそも『穴に入れたい時がある』って、意見って言うよりただの男子の事情でしょ」
「あ、う。そこはね。そうだと思うけれども。でもさ七緖くんと話をしないと整理出来なかったと思うの」
例の『目の前に穴があったから入れてみた』発言について紗理奈の突っ込みが入る。それはその通りだと私も思う。でも七緖くんとの会話が参考になるのはそこではない。
「整理ねぇ。それで整理出来たの?」
「うん。つまり、私がどうしても受け入れられないのはさ、怜央と萌々香ちゃんがそういう関係だった事を二人が隠そうとする事なんだよね」
「あー。でもさ才川が押し倒した時に『そうだ萌々香と関係があったんだ』とか言われても嫌でしょ。ショックじゃん」
紗理奈が微妙に怜央の声真似をする。全然似ていないからコミカルになる。言いたい事はもっともだ。同じ事を七緖くんにも言われたし。
「それはそうだけど。コソコソと二人の関係を隠そうとする理由が、私が『鈍い』とか『ショックを受けるから』とか。そういう決めつけるところが凄く嫌なんだよね」
「うー確かに。知られたくなければ墓場まで持っていけってね。二人で笑っているのを聞いたら嫌だよね。バレてるっつーの」
「それが馬鹿にされているって言うか。そういうの含めて怜央と萌々香ちゃんの事が腹が立つの」
(それに、七緖くんと話をして気がついた事が一つある。私自身が怜央や萌々香ちゃんに言い返せないという縛りを自ら設けている事だ)
最後は言葉にしなかったけれども私はフォークを握りしめて紗理奈を見つめた。
そこまで私の話を聞いた紗理奈は、今日一番の深い溜め息をついて体育座りになり私を見つめながらポツポツと話し始めた。
応援ありがとうございます!
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