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027 7月31日 意識するから
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紗理奈がタルトのお皿を片付けると、テーブルに身を乗り出して小さな声で呟いてきた。
「明日香との距離がおかしいと思うんだけど」
「距離?」
私は訳が分からず首を傾げる。
「何でそんなに七緖にあけすけに相談するの? しかも親友の私をすっ飛ばして。嫉妬しちゃうから」
紗理奈が面白くなさそうに私を見つめる。すねてみせる姿が普段しっかり者の紗理奈からかけ離れていて可愛かった。
「ごめん。本当にあの時は惨めで……口にも出来なくて。七緖くんは凄く優しいし、私が泣いている間も何も言わないんだよね。ただ『そうやな』とか『大変やな』って言うだけでさ。あの気の抜けた感じで聞いてもらえると楽になってさ、ついポロッと」
「ついポロッとで話すもんなの? うーん、七緖が気が抜けた感じって。確かに天然で無駄に身体が大きいのにのろのろ動くし。変な関西弁使うし」
紗理奈があぐらをかいて手を足首に添え口をへの字にした。
「そうそう。七緖くんの話し方って良いよね。関西弁は機関銃みたいに早口だと思ってたけれどもそんな事ないんだね。知らんけどって『私の意見だけど』っていう意味があるんだってね。紗理奈は知ってた? ……知らんけど、えへへ」
知らんけどの禁止令が出ていたけれども紗理奈の前で使ってみる。
(ふふ。これで私も少しは関西弁が上手くなったかな)
全然上手くなってないのは分かっているのだが一人満足して笑うと、紗理奈が眉を寄せて首を傾げた。
「いや、全然なってないし。それ以外にも活用法と言うか意味があったと思うけれども。って言うか明日香、七緖の事結構好き?」
「へ?」
私は紗理奈に間抜けな返答をしてしまった。ベッドに預けていた身体を起こして紗理奈とおでこを付き合わせるほど顔を近づける。
「こんな短期間でいきなり好きだなんてならないよ?」
私はゆっくりと否定したが、何故か語尾が疑問形になってしまった。紗理奈は目を三日月にして笑う。
(まずい。これは絶対茶化す顔だ)
すると案の定紗理奈が楽しそうに話し始めた。
「だって凄く楽しそうだよ七緖の話をするの。今まで明日香はそんな風に男子の事話した事ないのに」
「そんな事ないと思うよ?」
「ほらほら疑問形でまた返す。明日香はあの才川の話ですら恥じらいみたいな頬を染める事はあっても、楽しそうに話した事ないのに」
「えぇ~? そんな事は」
ない、と思うけど?
でも、そういえば楽しいのは七緖くんとの会話だ。私はぐるぐると考えながら紗理奈に話す。
「確かに七緖くんの事を詳しく知りたいと思うけれども。まだ好きとかそういう話ではないかな。七緖くんに凄く興味があるのは確かだけど」
「なるほどなるほど~知りたくて興味があるって事は──新しい恋の始まりかもね。うん、良いじゃんそういうの」
紗理奈は小さく拍手をする。
「もう。そんな、新しい恋って言われても。怜央と色々あってすぐなのに」
それはいくら何でも。あれだけ恋い焦がれた怜央との関係だったのに。この数日であっという間に変わってしまうなんて事があるのだろうか。
「大体、付き合っている間だって才川との関係をずっと悩んでいたのでしょ? 右膝の相談も出来ないままで。そりゃぁ明日香の心が冷めて、新しい人を好きになるのもあり得ると思うよ。それに時間は関係ないじゃん」
「う」
私は次の言葉が思い浮かばなくなる。言葉を失った私に紗理奈が畳みかける。紗理奈は天井を見つめながら耳の横に垂れた髪の毛をくるくると人差し指に巻き付ける。
「新しい恋の相手があの七緖かぁ。まぁ前髪長すぎてどんな事考えているのか分からない奴だけど。明日香の話を聞く限り、優しいし良いんじゃないの? そういえば力也も凄く七緖の事好きだし」
紗理奈が更に身体を左右に揺らして嬉しそうに答える。
「紗理奈の彼氏が七緖くんを好きだからっていうのと同じに扱われても」
「重要なポイントだよ。だって私の好きな力也が仲良くしている男子なんだから。信頼出来るって意味よ」
「そ、そうだねって、はっ」
思わず頷いてしまい私は慌てる。
(いやいや。これでは新しい恋の始まりみたいになるから)
私は何となく焦り始めてしまう。
「それに七緖ってさ、男女問わずあまり自分から率先して話しかけないのに。明日香に話しかけるんならさ、もしかして七緖も明日香の事を気になっているのかもよ?」
「!!」
私は紗理奈の言葉に目を丸める。
(そんな事を言われたら必要以上に意識してしまいそう。何だか期待をしてしまいそう。ん? 期待って何よ私)
ときめいてしまう私だった。
「ま、それにしても才川から別れの『許可』をもらってからの方が良さそうだけどね」
紗理奈は両腕を組んでからフンと鼻息を荒くして呟いた。怜央が「却下」と言った事が相当頭にきている様子だ。
「あ、うん。だね」
確かに怜央には夏休み中に話をすると伝えているから。
(七緖くんの事はともかく。怜央には話がちゃんと出来るかな……)
問題は、怜央と正面に向かい合うと自分の意見を言えなくなってしまうのに。きちんと話す事が出来るのだろうか。
(どうしたら怜央に話せるかな。萌々香ちゃんの事を知ってしまったから無理なんだよね)
私は七緖くんの事を指摘され少しだけときめいた胸を押さえて、今後の課題について溜め息をついた。
「明日香との距離がおかしいと思うんだけど」
「距離?」
私は訳が分からず首を傾げる。
「何でそんなに七緖にあけすけに相談するの? しかも親友の私をすっ飛ばして。嫉妬しちゃうから」
紗理奈が面白くなさそうに私を見つめる。すねてみせる姿が普段しっかり者の紗理奈からかけ離れていて可愛かった。
「ごめん。本当にあの時は惨めで……口にも出来なくて。七緖くんは凄く優しいし、私が泣いている間も何も言わないんだよね。ただ『そうやな』とか『大変やな』って言うだけでさ。あの気の抜けた感じで聞いてもらえると楽になってさ、ついポロッと」
「ついポロッとで話すもんなの? うーん、七緖が気が抜けた感じって。確かに天然で無駄に身体が大きいのにのろのろ動くし。変な関西弁使うし」
紗理奈があぐらをかいて手を足首に添え口をへの字にした。
「そうそう。七緖くんの話し方って良いよね。関西弁は機関銃みたいに早口だと思ってたけれどもそんな事ないんだね。知らんけどって『私の意見だけど』っていう意味があるんだってね。紗理奈は知ってた? ……知らんけど、えへへ」
知らんけどの禁止令が出ていたけれども紗理奈の前で使ってみる。
(ふふ。これで私も少しは関西弁が上手くなったかな)
全然上手くなってないのは分かっているのだが一人満足して笑うと、紗理奈が眉を寄せて首を傾げた。
「いや、全然なってないし。それ以外にも活用法と言うか意味があったと思うけれども。って言うか明日香、七緖の事結構好き?」
「へ?」
私は紗理奈に間抜けな返答をしてしまった。ベッドに預けていた身体を起こして紗理奈とおでこを付き合わせるほど顔を近づける。
「こんな短期間でいきなり好きだなんてならないよ?」
私はゆっくりと否定したが、何故か語尾が疑問形になってしまった。紗理奈は目を三日月にして笑う。
(まずい。これは絶対茶化す顔だ)
すると案の定紗理奈が楽しそうに話し始めた。
「だって凄く楽しそうだよ七緖の話をするの。今まで明日香はそんな風に男子の事話した事ないのに」
「そんな事ないと思うよ?」
「ほらほら疑問形でまた返す。明日香はあの才川の話ですら恥じらいみたいな頬を染める事はあっても、楽しそうに話した事ないのに」
「えぇ~? そんな事は」
ない、と思うけど?
でも、そういえば楽しいのは七緖くんとの会話だ。私はぐるぐると考えながら紗理奈に話す。
「確かに七緖くんの事を詳しく知りたいと思うけれども。まだ好きとかそういう話ではないかな。七緖くんに凄く興味があるのは確かだけど」
「なるほどなるほど~知りたくて興味があるって事は──新しい恋の始まりかもね。うん、良いじゃんそういうの」
紗理奈は小さく拍手をする。
「もう。そんな、新しい恋って言われても。怜央と色々あってすぐなのに」
それはいくら何でも。あれだけ恋い焦がれた怜央との関係だったのに。この数日であっという間に変わってしまうなんて事があるのだろうか。
「大体、付き合っている間だって才川との関係をずっと悩んでいたのでしょ? 右膝の相談も出来ないままで。そりゃぁ明日香の心が冷めて、新しい人を好きになるのもあり得ると思うよ。それに時間は関係ないじゃん」
「う」
私は次の言葉が思い浮かばなくなる。言葉を失った私に紗理奈が畳みかける。紗理奈は天井を見つめながら耳の横に垂れた髪の毛をくるくると人差し指に巻き付ける。
「新しい恋の相手があの七緖かぁ。まぁ前髪長すぎてどんな事考えているのか分からない奴だけど。明日香の話を聞く限り、優しいし良いんじゃないの? そういえば力也も凄く七緖の事好きだし」
紗理奈が更に身体を左右に揺らして嬉しそうに答える。
「紗理奈の彼氏が七緖くんを好きだからっていうのと同じに扱われても」
「重要なポイントだよ。だって私の好きな力也が仲良くしている男子なんだから。信頼出来るって意味よ」
「そ、そうだねって、はっ」
思わず頷いてしまい私は慌てる。
(いやいや。これでは新しい恋の始まりみたいになるから)
私は何となく焦り始めてしまう。
「それに七緖ってさ、男女問わずあまり自分から率先して話しかけないのに。明日香に話しかけるんならさ、もしかして七緖も明日香の事を気になっているのかもよ?」
「!!」
私は紗理奈の言葉に目を丸める。
(そんな事を言われたら必要以上に意識してしまいそう。何だか期待をしてしまいそう。ん? 期待って何よ私)
ときめいてしまう私だった。
「ま、それにしても才川から別れの『許可』をもらってからの方が良さそうだけどね」
紗理奈は両腕を組んでからフンと鼻息を荒くして呟いた。怜央が「却下」と言った事が相当頭にきている様子だ。
「あ、うん。だね」
確かに怜央には夏休み中に話をすると伝えているから。
(七緖くんの事はともかく。怜央には話がちゃんと出来るかな……)
問題は、怜央と正面に向かい合うと自分の意見を言えなくなってしまうのに。きちんと話す事が出来るのだろうか。
(どうしたら怜央に話せるかな。萌々香ちゃんの事を知ってしまったから無理なんだよね)
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