335 / 589
第10蝶 初デートは護衛依頼
ノトリの街への入街と驚く門兵さん
しおりを挟むシュタタタタ――――
「もしかしてあれじゃない? ラブナ」
「うっぷ、そ、そうね、あれで間違いないわスミ姉。うえぇ」
遠くに見えるのは10メートルを超える大きな壁。
人工物にしか見えないから、街を守る外壁だとわかる。
「何? もしかしてツワリ?」
私の隣で口を押えながらずっと吐き気に耐えているラブナ。
顔色は良くなってきたけど、目が死んでいた。
そんなラブナは背中から降りて、今は透明壁スキルに座っている。
おんぶで数時間爆走した影響で乗り物酔いしたからだ。
「ち、違うわよっ! なんで経験ないアタシがそんな事になるのよっ!」
耳ざといのか、そんな体調でも私を見上げて声高に反論する。
「え? 経験って何? ボクわかんな~い。教えてラブナちゃんっ!」
そんなラブナに声色を変えてユーアの物まねで返す。
我ながらよく似ていると思った。
「はっ? そ、そんなの決まってるじゃないのっ! あれよ、好きな人同士が一緒に寝て、そしてお互いに確かめ合って、ごにょごにょ――――」
「………………」
「―――― だからユーアとだって……」
冗談半分で聞いたんだけど、照れながら話し出すラブナ。
「もう分かったから落ち着きなよ。そろそろ歩いていかないと変に思われるよ」
「―――― でもスミ姉も…… え? 何か言った?」
「そろそろ歩いて行こうって言ったの。あまり目立ちたくないからね」
「あっ! そ、そうね、なら降りるからちょっと待っててよっ!」
「………………」
トンと、透明壁から地面に降りるラブナ。
足元を確かめるように地面を足裏で鳴らしている。
「お、おっけーよっ! それじゃ行くわよっ!」
そう見栄を切って、何かを誤魔化すように先頭に出て歩き出すラブナ。
見間違いじゃなかったら、ちょっとだけ顔が赤かった。
さっきの冗談が尾を引いているのだとわかる。
けど……
『いくら好き同士でも、同性でナニしたって何もうまれないよ? ってかなんでそこでユーアと私の名前が出てくるのよっ。私そういう趣味じゃないんだけどっ!』
先頭を歩く、ラブナの揺れる後ろ髪を見てそう思った。
※
ここに来るまでは、凡そ時間通りだった。
いや、途中で最短をルート選択したので幾分早いくらいだ。
迂回や寄り道しないで、魔物を総無視して森や丘を突っ切ってきたから。
その際に今度ピクニックに行く予定の『ウトヤの森』も抜けてきた。
透明度の高い大きな湖と、澄んだ空気が印象的な森だった。
いつになるかわからないけど、いい癒しの場所を下見が出来て良かった。
夏場なら避暑地になるし、みんなの体も心も癒せると思う。
――
「ラブナは一度来た事があるんだっけ?」
「そうね、コムケの街に来る前に一度立ち寄ったわよ」
二人で街門に並ぶ。
私たちの前にいるのは3組だけだった。
いずれも冒険者風な装いだった。
「だから地図をあまり見なくても道案内出来たんだ。まぁ、途中から吐き気を我慢してたようにしか見えなかったけど」
「そ、そんなの当り前じゃないっ! あんなに揺れるんだったらおんぶなんてされなかったわよっ! もう絶対にしないわっ! あと、時間が長すぎるのよっ!」
「まぁ、そうだよね。何時間も乗るものでもないしね」
確かにラブナの言う通りだ。
ジェットコースターでも短時間だから楽しいもの。
それを数時間乗るのは楽しさを通り越して、逆に嫌いになる。
何事もほどほどがいいんだろう。
「なら帰りは空から行く? あまり早くは出来ないけど安全で言えば一番かもよ」
「う~ん、でも帰りはお手伝いさん連れ帰るのよね? あまりスミ姉の能力を披露するのは得策じゃない気がするんだけど」
「ああ、確かにそうだけど、ロアジムから書状を預かって――――」
「お前も冒険者なのだな」
ラブナと話している内に街に入る順番が来たようだ。
意外と屈強な門兵さんが声を掛けてくる。
「あ、そうだけど、冒険者カードは……」
「いや、お前ではなく後ろの赤い少女だ。魔法使いなのだろう?」
「え? そうだけど、カードはこれよ」
「………………」
何故か、私を飛び越してラブナのカードを確認する門兵。
職業を言い当てたのはラブナの装備を見てだろう。
「Fランクか…… なって数日の新人かぁ。討伐履歴は確認できないが」
受け取ったカードに目を通し、ため息交じりに返却する。
「し、新人がここに来て悪いっていうのっ! ならそこのスミ姉だって同じ新人だわっ!」
それを聞き激昂するラブナ。
どうやら新人なりのプライドに傷がついたようだ。
「はい、ご紹介に預かった、私、スミ姉も新人だけど」
なのでフォローの意味も込めて話に入る。
「え? この変な格好の幼子も冒険者だとっ?」
「ムカっ! いやいや、幼子はおかしいでしょう。どこからどう見ても成人でしょう」
こっそり『変態』の能力を使い、布面積を胸に集める。
これでどこから見てもナイスバディの女冒険者だ。
「うおっ! 遠目で見た時よりもでかくなってやがるっ!?」
「はい、これが私の冒険者カードだよ。きちんと確認しなよ」
バレる前に冒険者カードを無理やり渡す。
「……え? お前のカード何かおかしいぞっ!?」
「え?」
「へ?」
カードを見たまま固まる門兵。
そして訝し気に私だけを睨みつける。
「なに? もしかして壊れてるとかっ!」
あるの? 機械でもないただのカードがっ!?
それ魔力を流すだけだよね?
「ち、違うぞっ! これはこれで正常だっ! ただ中身が異常なんだ」
「え? 中身っ?」
「そうだっ! このカードによると冒険者になった日付と一緒にCランクになってるっ! しかも種類はわからないが、討伐数が3桁を余裕で超えてるぞっ! しかもこの称号とお前の後援者は……」
スゥ
「? もういいの?」
突然大人しくなった門兵にカードを渡される。
「ああ、これ以上は俺の権限では見れないんだ。それこそ一部の教会かギルドのお偉いさんでないとな。あとこれ以上見なくてもわかるからな」
「ふ~ん、そうなんだ。壊れてなくて良かったよ」
ホッとしてアイテムボックスに冒険者カードをしまう。
「ただ一瞬、自分の目を疑ったぞ、スミカの経歴を見て。それとその赤い、じゃなくてラブナも仲間なんだな、スミカのパーティーの」
「そうよっ! スミ姉はアタシのナゴタとゴナタ師匠も尊敬するリーダーなんだからっ! ナジメだってスミ姉には敵わないんだからっ!」
名前を呼ばれ視線を向けられたラブナが仁王立ちで語る。
「ナ、ナゴタとゴナタって、あの『神速の冷笑』と『剛力の嘲笑』の事かっ!? それとナジメって昔Aランクだった……」
「そうねっ! それで間違いないわよっ! それにしてもオジサン詳しいわね? もしかして師匠のファンとか?」
「オ、オジサンっ!? 俺はギリ20代なんだが…… それにしてもあの双子が師匠となって、弟子をとるなんてな」
「へぇ~、やっぱり知ってるんだ、アタシの師匠。でも理由は聞かないでおくわよ? 昔は派手に暴れてたって聞いてたから」
「いや、俺はここに来る冒険者に聞いてるだけで、直接会った事はないんだ。だが職業柄その強さに憧れたことはある。もう一人のナジメさんもな。そんな大物の上に立つスミカは本当に何者なんだ?」
ここで一旦話を止めて、今度は興味深く私を見下ろす。
「私はただの冒険者だよ。ただ色々あってやりたい事してたら仲間が増えたってだけ。だから偉くも自慢するつもりもないから、あまり特別扱いしないでくれると助かるかも」
門兵に軽く手を振ってそう話す。
気に掛けられても色々面倒だし。
「むぅ、あの内容を知るとそうもいかんのだが……。だが期待させてくれ。お前たちがこの街を救ってくれる冒険者なんだとな」
そんな私の軽口に、表情を固くし話しを始める門兵。
「え? 救うって……」
「救うって何よ? ………………」
「ああ、実はな――――」
私とラブナは何か事情を抱えるこの街の話に耳を傾けた。
入街する人たちが少ないのも、この街と依頼に関わる話だと思うから。
0
あなたにおすすめの小説
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる