解釈違いです、公爵様!〜予見を理由に婚約破棄されたので、推しと一緒に汚名返上の旅に出ます〜

河津田 眞紀

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9. 公爵家の"眼無し"

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 真顔のまま、じっとピノを見つめるウェイド様。
 さすがの彼も、馬車の中に突然鳥が現れたことには驚いているみたい。

 その反応に、私の中のトラウマが蘇る。
 幼い頃、遊びに来た良家のお嬢様たちに森の動物ともだちを紹介して、失敗したこと。
 嫌悪と侮蔑と畏怖の目で私を見つめ、「あの娘は獣に魅入られている!」と大人に泣きつく金切り声が、未だ耳に残っている。
 
 私はピノをきゅっと包みながら、慌てて弁明する。

「そ、そう。鳥です! この子は私の一番の親友で、私のことを心配してついて来てくれて……! あっ、もちろん害はまったくなくて……!!」
「マルツグミか」

 グズグズな私のセリフを遮るように、ウェイド様が言う。
 その指摘に、私は思わず面食らった。
 すごい……ひと目見ただけでピノの種類を当てるなんて。

「は、はい……鳥のこと、お詳しいのですか?」
「詳しいというほどではない。ただ、動物には多少興味がある」

 うそ……ちょっと、というか、かなり意外だ。
 私は少しドキドキしながら、そっと手を伸ばし、

「すみません、勝手につれてきちゃって……名前はピノです。話のわかる子なので、お邪魔にはならないはずです」

 と、ピノを紹介するように差し出した。

 ウェイド様は、やはり真顔で見つめたまま……
 ピノのくちばしの下を、指でこちょこちょと撫でた。

 その行動に、私は思わず身を乗り出す。

「わ……マルツグミはそこを撫でられるのが好きなんです! ご存知だったのですか?」
「あぁ。昔、教えてもらったことがある」

 ウェイド様の淡々とした返答に、私は嬉しくなる。
 きっと、彼の周りにも動物好きの人がいたんだ。
 だから、生き物に触れることに抵抗がないのだろう。
 
(よかった……鳥が苦手だったらどうしようかと思った)

 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。
 私の手の上で、ピノが後退りをしながら、こんなことを言った。

『ねぇ、テス。コイツ、指使いはなかなかのモノだけれど、なんだかすごい威圧感を感じるわ。親しみやすさが皆無なんだけど。この怖い顔面のせいかしら?』
「ちょっ、そんなこと言わないの!」

 と、つい声を上げるが……すぐに後悔する。
 ウェイド様にはピノの声が聞こえていないから、あえてツッコむ必要もないのだった。
 むしろ、こんな風に窘めたせいで、ピノが失礼なことを言っているってバレてしまったかも……

 ヒヤヒヤしながら、恐る恐るウェイド様を見ると……彼は、ピノをくすぐる指を止め、

「……どんな感覚なんだ?」
「へっ?」
「今、この鳥は鳴き声を発さなかった。つまり、声以外の方法で君と意思疎通しているのだろう。君は、動物の感情をどのように受け取っている?」

 そう、真っ直ぐに問いかけてきた。
 確かに、他の人からすれば<精霊獣使いファミリエル>の能力は未知でしかないだろう。

 私は、言葉を選びながら、こう答えることにする。

「えっと……おっしゃる通り、音声として耳で聞こえているわけではありません。頭の中に直接"気持ち"が降ってくるというか……動物の感情を、感情のまま受け取っているというか……それを脳内で人間の言葉に置き換えて解釈している、みたいな感じです」

 って、結局すごく抽象的な説明になってしまった……
 上手く伝えることができず申し訳なく思っていると、ウェイド様は一つ頷き、

「なるほど。俺たちが予見を受ける感覚に似ているな」
「え……そうなのですか?」
「<星詠みの眼へルシファー>は未来をと言われているが、実際には未来の一場面がはっきりと見えるわけではない。起こり得る事象を構成する要素が"印象"のまま曖昧な状態で脳に降ってくる。それを繋ぎ合わせ、解釈し、予見として言語化するのが<星詠み>の仕事だ」

 と、静かな声で言った。
 知らなかった……<星詠みの眼へルシファー>の予見が、そのような感覚だなんて。
 ウェイド様が続ける。

「と言っても、俺は『降眼こうげんの声』を受けたことがないから、今話した感覚は『星詠みの儀』に限ったものだ。突発的に降りてくる予見がどのようなものなのかは、俺にはわからない」

 それは、これまで通りの無感情な口調だった。
 だから、ウェイド様がどんな気持ちでそれを口にしたのかはわからないけれど……

(国王直属の<星詠み>の家に生まれながら、"眼無し"と指さされるのは……辛かったんじゃないかな)

 私は、昨日のディオニスの言葉を思い出す。

『妙な言いがかりをつけて割りを食うのは君の方だぞ? ラージウィング家の"眼無し"殿』

 あの、完全に見下した視線と口調……
 <星詠みの眼へルシファー>の中で"眼無し"と呼ばれる人がどのような扱いを受けているかは、想像に難くなかった。

(私は一族の中で唯一の能力者で、そのせいで理解者がいなかったけれど……一族の中で自分だけが無能力者だっていうのも、同じくらい……ううん、私よりもずっと大変だったはずだ)

 気付けば、私は……

「……ウェイド様」

 顔を上げ、彼の名を呼んでいて。

「ウーテア山での『星詠みの儀』を成功させて……ディオニスに正しい予見を突き付けてやりましょう。だって、伝統的な儀式の方が結果として信頼できるに決まっていますもん。ウェイド様の予見はすごいんだってこと、ディオニスに見せつけてやりたいです!」

 ピノの身体をきゅっと握りながら、そんなことを口にしていた。


 
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