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第二章 異星人といっしょ……?
8.新番組のすすめ
しおりを挟む「……え」
坂田さんの言葉の意味が理解できず、わたしは目を点にして、
「…………えぇぇぇええぇえっ?!」
叫んだ。
わたしの絶叫に、ハミルクとキズミちゃんの声も重なる。
坂田さん……いきなりなにを言い出すの?
嶋永さんの代わりに、この異星人たちを出演させようだなんて……!
しかし、わたしの困惑をよそに、坂田さんは自信満々に語り出す。
「ゆるキャラブームもあり、着ぐるみ界には毎年新たなキャラクターが誕生し続けています。かわいくて個性的な着ぐるみが増える中、他とは違う新鮮なキャラクターを生み出すにはどうすれば良いか……そこで、我がポルトアカデミーが新たに考案したのが、この超軽量化型着ぐるみです」
言いながら、ぽんっとレイハルトさんの肩に手を置く坂田さん。
レイハルトさんが、ギョッとした顔をする。
「犬をモチーフにした親しみやすいデザインに加え、従来の着ぐるみでは実現し得なかった圧倒的な機動性……よりリアルで逞しいデザインは、特撮ヒーローにも通ずるかっこよさを兼ね備えています。男の子たちからの人気が集まること間違いなしでしょう。次に……」
と、まるで新商品を紹介する通販番組のような語り口で、今度はキズミちゃんの後ろに立つ。
「こちらの、ジュニアタレントです。近年、海外アイドルの人気の高まりもあり、女の子たちは『かっこいい女子』に憧れを抱いています。可愛いだけではない、ロックな衣装を身に纏った強いヒロイン像……多様性が求められるこの時代、こうしたキャラクターは保護者からも支持を集めるのではないでしょうか。さらに……」
最後に、坂田さんはハミルクの体をふわっと持ち上げ、
「子供向け番組といえば、可愛い操り人形が欠かせません。従来のパペット型、棒遣い型ももちろん良いですが、今は幼稚園や保育園でプログラミングを習う時代。お人形も、システマチック且つオートマチックにしていかねばなりません。そこで、我がポルトアカデミーが持つテクノロジーを集結させたのがこちら。なんと、自動で動いて喋る、さらには宙に浮く! AI技術とドローン技術を組み合わせることによって実現した、次世代型のお人形です。もはや操演者や声優を雇う必要もありません」
そのままハミルクをわたしに預けると、坂田さんは黒ぶち眼鏡をくいっと上げ、
「ワットンという国民的キャラクターを作り上げた嶋永さんの代わりなど、そうそう見つかるはずがありません。長い年月をかけて培われた、シマさんの信頼と実績……それに対抗できるものがあるとすれば、それは――『目新しさ』と、『一生懸命さ』です」
そう、熱弁する。
「今の時代を生きる子供たちが『見たことない!』と思えるものを。そして、新人だからこその『応援したくなる』感を武器にするのです。子供と保護者、双方からの支持が集められれば、この番組は成功します」
そして、坂田さんは岩國さんの目をまっすぐに見つめ、
「いかがでしょうか。我が事務所のフレッシュな二人と一体、今なら奈々瀬紗音とのセット価格で契約金のご相談に応じさせていただきます!」
キラッと眼鏡の端を光らせ、言い切った。
膝の上のハミルクが「おい、聞いてないぞ!」と声をひそめて訴えてくるが、わたしだって耳を疑っている。
この異星人たちと、番組をやる?
ムリムリ! そんなのムリに決まってる!
坂田さんってば……一体、なにを考えているの?
(だいたい、こんな突拍子もない話、岩國さんが受け入れてくれるわけ……)
……と、そこまで考えたところで、
「――なるほど。なかなかおもしろい提案だね」
そんな声が返ってきた。
しかしそれは、岩國さんの声ではなく……
会議室のドアを開け、にこやかに入ってきたディレクターの紫藤さんの声だった。
「し、紫藤さん……」
「いきなり入ってきてすまない。別の会議に出席していたんだが、終わったから様子を見にきたんだ。そしたら、坂田さんがちょうど面白い話をしていたから……つい立ち聞きしてしまったよ」
そう言って、岩國さんの隣へ座る。
そして、テーブルの上で両手を組みながら、
「坂田さんのおっしゃる通りだ。僕らはより安全な方へ、確実な方へと逃げ、新しいことにチャレンジする心を忘れていた。だからこそ、嶋永というベテラン俳優を起用したわけだしね」
なんてことを言い出す。
うそでしょ……もしかして、坂田さんの提案を受け入れようとしているの……!?
わたしはガタッと椅子を鳴らし、身を乗り出して訴える。
「ちょっと待ってください! いくらなんでも当初の企画から離れすぎていませんか? マスコットキャラクターが『ささくれ』じゃなくなるなら、番組のタイトルも変えなきゃいけないし……出演者が増えるなら、番組内容も大幅に見直す必要がありますし!」
しかし、わたしの反論も虚しく、岩國さんは静かに首を振り、
「でもね、紗音ちゃん。確かに嶋永の抜けた穴はデカイけど、裏を返せば、それは俺たちが『元ワットン役のシマさん』という肩書きに頼りすぎていた、ってことなんだ。そんな心持ちじゃあ、いつかはダメになる。そのことに今、気づかされたよ」
「そうだな。従来の常識を覆すような、自由度の高い番組を作ろうとネット配信を選んだのに……前提からして、固定概念に囚われていたようだ。嶋永を失った今だからこそ、一から考え直す必要がある」
と、紫藤さんまでそんなことを言う。
そんな……だって、彼らは本物の異星人で、元いた宇宙に帰るつもりでいるんだよ?
それなのに、こんな思わせぶりな話をして……坂田さん、本当にどうするつもりなの?
わたしは、腕の中のハミルクを見る。
そして、後ろに座るキズミちゃんを見る。
二人とも、突然すぎる展開に動揺し、言葉を失っていた。
しかし、レイハルトさんだけは、
「……なるほど」
と、なぜか納得したように、そう呟いた。
立ち尽くすわたしをよそに、岩國さんは晴れやかに笑って、
「それじゃあ、君たちの起用を前向きに検討するから、君たちの方でも番組の企画を考えてみてくれるかな? 期限は一週間。君たちの個性が光る、まったく新しい番組内容を期待しているよ」
と、その場を締めくくるように言った。
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