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エピローグ
中の人なんてないさっ!
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――この夏。
『アイツ、さてはわざと迎撃システムを作動させたな?!』
『穏やかな口調で我々を油断させたのでしょう……こちらも攻撃しますか?』
――宇宙から逃げてきた異星人たちが……
『ちっ……ダメ、いちばんおっきな主砲がぜんぜん壊れない!』
――地球に不時着する。
そこで、彼らは出会う。
宇宙にはなかった、心惹かれる旋律に。
『あの……さっきから気になっていたんですが、「ウタ」って一体、なんなんですか?』
――『歌』を知らない異星人たちと……
心を通わせることはできるのか?
『――みんなの心をひとつにする、最高に素敵な魔法だよ!』
――新番組『コロッポからっぽ!』
ねってぃび! にて、この夏配信スタート!
--------------------
「――うーん。我ながらすばらしい出来栄えです」
……と、わたしたちの番組のCM映像を眺めながら、坂田さんがうっとりと呟いた。
あれから二ヶ月。
わたしの部屋に直通の宇宙ゲートを開設した異星人たちは、時々自分たちの星に帰りながら、ほとんど毎日地球で過ごしていた。
地球の歌と文化を学びながら、来月からの放送開始に向け、着々と番組の撮影を進めているところだ。
そして、今日もシティーロ通信放送局へ番組の収録に来ているわけだけれど……
「……っていうか、これってあの『マルデック』と戦った時の声と映像ですよね? 坂田さん、いつの間に撮っていたんですか?!」
控え室にて、初めて視せられたCM映像に、わたしは思わず声を上げた。
CM内に流れる緊迫した声と、巨大な宇宙船に立ち向かう大迫力の映像……
それは間違いなく、『マルデック』と戦った時もので。
驚くわたしに、坂田さんはいつものにっこり笑顔をこちらに向けて、
「番組のために使えるかな、と思い、スマホでこっそり撮影していたのです。本物の宇宙船なんて滅多に拝めないですからね。思った通り、壮大なCMが完成しました。これは放送開始前から注目されること間違いなしですよ。あ、岩國さんたちにはすべてCGだと説明しているのでご安心ください」
なんて、眼鏡を光らせながら答えた。
相変わらず抜け目がないというか、度胸があるというか……番組を成功させるためなら手段を選ばない人だ。
「もう……キズミちゃんたちの宇宙船をこんな大々的に流しちゃっていいんですか? もしCGじゃないってバレたら……」
「でもキズミちゃんがかわいく映ってるし、このままでよくない?」
「そうそう。おれっちなんか映像加工で毛並みをより綺麗にしてもらったんだ! これはきっとファンが増えるぞ~? うへへへ」
と、まるで危機感ゼロなキズミちゃんとハミルク。
まぁ……二人がいいならいいけど。
「ところで、紗音殿。ずっと気になっていたのだが……『コロッポからっぽ』という番組名には、どのような意味があるのだ?」
ふいにレイハルトさんにそう聞かれ、わたしはびくっと肩を震わせる。
『ささくれ』というキャラクターがいなくなったため、『にじいろ♪ ささくれよん』という番組名は使えなくなった。
代わりに、新たな番組名を決めることになり……
わたしが提案した『コロッポからっぽ!』というタイトルが採用されたのだ。
でも、その名の由来を、わたしは誰にも教えていない。
だって……なんとなく恥ずかしいから。
「え、えっと……なんか、語感が良かったから?」
「えー? そんなテキトーな理由で決めたのかよ?」
「テキトーではないけど……!」
咄嗟にごまかしたわたしの返答に、ハミルクが不満げに口を尖らせる。
もちろん、ちゃんと意味を込めてつけたタイトルだ。
それは……
――わたしたち四人は、種も仕掛けも『中の人』もいない、『からっぽ』な本物で。
知識も経験もなく、学ぶべきことの多い『からっぽ』な新人で。
だけど、『からっぽ』だからこそ、みんなで一から素敵なものをいっぱい詰め込んでいけたらいいな、なんて……
(……ハミルクにからかわれそうだから、恥ずかしくて言えないんだよ……!)
と、わたしは密かにこぶしを震わせた。
すると、レイハルトさんがわたしに近づき、
「……俺は、いいタイトルだと思うぞ。紗音殿」
耳元でこそっと、囁いてくれた。
わたしは顔がかぁっと熱くなるのを感じながら、「あ、ありがとうございます……」と、小さくお礼を伝えた。
それを見たハミルクとキズミちゃんが、ニヤニヤと笑って、
「おいおい、紗音。顔が真っ赤だぜ?」
「相変わらずウブねー」
「だからっ! からかわないでよ、もうっ!」
なんて、お決まりになりつつあるやり取りをしていると、坂田さんが壁の時計を見上げて、
「あら、もうこんな時間。みなさん、お支度は終わりましたか? そろそろ撮影が始まりますよ。スタジオへ移動しましょう」
そう呼びかけるので、わたしはきりっと気持ちを切り替えた。
控え室を出て、みんなで第二スタジオへ移動する。
ドアを開け、撮影の準備をしている岩國さんと紫堂さんに挨拶をして……
ピンマイクを胸に付け、定位置に着く。
両隣には、可愛い衣装に身を包んだ異星人たち。
後ろには、パステルカラーの可愛らしい番組セット。
あの『赤い扉』も、もちろんある。
――いつか、その扉の向こうから。
わたしに夢をくれた『彼』が、こっそり見にきてくれることを信じて。
わたしは、眩しく照らすライトに負けないように、明るく笑って、
「みんなー! 元気ー? 紗音おねえさんだよー!!」
テレビの向こうのあなたに、『思い』が届くように。
今日も明日も、その先も、みんなと歌い続けていく――
*おしまい*
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