滅私な有能剣士は食いしん坊な魔導少女のため、今日からメシに生きる。〜散々仕えた国の金でグルメ旅満喫します〜

河津田 眞紀

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3 死神男の見守り記録

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 クレアは、最大限に気配を殺して……
 エリシアが眠るベッドに、そっと近づく。

 段々と近付く、可愛らしい寝息。
 彼女は、ちょうどこちら側を向いて、横向きに丸まるように眠っていた。

 クレアは、音を立てぬよう姿勢を低くし……
 その寝顔を、覗き込んだ。

 閉じられた瞼に、長い睫毛。
 さらりと頬に流れる、艶やかな髪。
 無防備に半開きになった、柔らかそうな唇。

 エリシアの顔をこんなに近くで、じっくりと眺めるのは初めてだが……
 彼女を構成する一つ一つが、どれを取ってもこの世のものとは思えない程に尊く感じられて……

(…………触れたい)

 その感情を自覚した瞬間。
 クレアの心臓が、再び強く脈を打ち始めた。

 彼女を、見守りたい。
 夢を実現させて、幸せに生きてほしい。
 
 そう、心の底から願っているのに。

 この手で、触れたい。
 目と目を合わせて、話してみたい。

 そんな自分勝手な欲望を、いつの間にか抱いてしまっていて。

 駄目なのに。
 特殊な任務に身を置き、人並みの幸せなど望めない自分が、一般人の彼女に関われるはずもないのに。
 彼女の人生の、登場人物の一人になれたらと……そんな、願うことすら咎められるような願望を、抱いてしまっている。

 自分の存在が彼女に知られたら、家族に素性を隠していたジェフリーさんの努力が全て無駄になると、わかっている。
 
 でも、今は……今だけは……
 その髪に、頬に、そっと触れることだけは、許してほしい。

「…………………」
 
 クレアは、静かに右手を掲げると。
 頬にかかった髪を、優しく払うように。
 長い指の先をゆっくりと近付け、彼女に触れ…………

 ……ようとした、その時。


 ──パクンッ!!
 

 ……彼の、その指が。
 エリシアの口に、飲み込まれていた。

「…………!!」

 突然のことに、クレアは声にならない悲鳴を上げる。

(まさか……バレた?!)
 
 そう思い、心臓が一瞬にして冷たくなるが……
 エリシアは、瞼を閉じたままニヤニヤと笑って、

「……んふふ……るるべりーろけーき……おいひ……」

 クレアの指を甘噛みし、そんなことを呟いた。

 これは……寝言だ。
 どうやら、彼の指に残っていたケーキの香りに誘われ、寝ぼけて口に咥えたようだ。

 バレてはいないことがわかり、クレアはほっと胸を撫で下ろす。
 しかし……

「………………っ」

 安心した途端、彼女の口内に取り込まれた指の感覚が、生々しく伝わってきた。

 柔らかな唇が、舌が、ちゅぱちゅぱとしゃぶるように吸い付き……
 かと思えば、ねっとりと、絡みつくように纏わり付いてきて……
 くちゅくちゅと艶かしい音を立てながら、指をトロトロに蹂躙していく。

 エリシアのあの、ピンク色の舌が。
 何かを探るように宙を舐めていた、あの舌が。
 今、まさに、自分の指を舐め回している。
 
 そのことを、目で、耳で、そして指の感触ではっきりと認識したクレアは……


 ────ぷっつん。


 自分の中の理性が、完全に切れる音を聞いた。

(…………もう我慢できない)
 
 クレアは、ちゅぽんっと彼女が口から指を抜くや否や……
 エリシアの身体を、仰向けに押し倒した。

 そして掛け布団を剥ぎ取ると、パジャマ姿の彼女の上に四つん這いになって覆い被さり……


 懐から取り出した巻尺メジャーを、その無防備な身体に当て始めた!


(バスト七八! ウエスト五二! ヒップ七六!!
 足のサイズは二三! 指輪のサイズは七号!!)

 その採寸の手際の良さは、エリシアが目を覚ます暇もない程だった。

 続いてクレアは、彼女の枕に付いていた一本の髪の毛を指で摘むと、腰に付けたポーチの中にしまい……
 懐から小瓶を取り出して、この部屋の空気を取り込むように何度か振ってから、封をした。

 彼女の全てが知りたい。
 彼女の全てを把握していたい。
 そのために、あらゆる数値と資料を手に入れたい。
 だから、身体のサイズを計り、体毛を入手し、空気を採取する。
 
 クレアにとって、これこそが、もっとも欲望に忠実な行動なのであった。
 ある意味、"職業病"である。長年、内偵調査のエースとして生きてきたせいか、標的の情報をつまびらかに把握していなければ心が満たされないのだ。

 相手はジェフリーさんの娘だぞ! と叫ぶ理性的な自分は、もういない。
 何故なら……「恩人の娘にこんなことをしている」という背徳感すらも、彼をより興奮させているのだから。


 クレアはずっと、自分がだんだんとおかしくなっていっているのだと思っていた。
 しかし今、はっきりとわかった。

 この衝動は、自分が元々持っていたモノ。
 こっちが"本性"だったのだ、と。


「…………………」

 クレアは、布団を剥がされてもなお眠り続けるエリシアの上に再び跨り……
 覆いかぶさるようにして、鼻先を彼女の首筋に、そっと近づけた。
 
 白くて華奢で、まだ何者にも触れられていない、綺麗な首筋。
 その甘い香りを、胸いっぱいに吸い込む。


 ……彼女に好かれなくていい。
 愛されようだなんて思っていない。

 ただ自分が、この世で誰よりも彼女のことを知っている存在でありたい。

 そのために、これからも……


「………どうか、見守らせてくださいね。エリシア」


 そう、囁くように呟いて。
 すやすやと眠る彼女に、布団をかけ直してやると。
 彼は音もなく、部屋を後にした──
 
 
 
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