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13 カナールの頂上祭
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しおりを挟む──翌日。
年に一度の祭りがあることを知ってか知らずか、天には雲一つない青空が広がっていた。
カナールの街の中心地にある噴水広場には、昼前から多くの人が集まった。
『頂上祭』のレース参加者、そして、それを見物に訪れた街中の人々だ。
がやがやとした賑わいに混じり、食べ物や飲み物を売る出店からは威勢の良い呼び込みの声が聞こえてくる。
そんなお祭りムードの中、広場に到着したエリスはビシッと前方を指差し、ヤル気満々に言う。
「さぁ、出店グルメを端から端まで制覇するわよ!!」
「エリス、そういうレースではありません」
冷静にツッコむクレア。
それに、エリスはくるっと振り返り、
「えぇーっ?! こんなに美味しそうなにおいがあちこちからしているのに、ガマンしろっていうの?!」
「レースが終わった後にゆっくり堪能しましょう。ほら、参加者はもう集まらなくてはいけない時間です。せっかく動きやすい装いで来たのに、お腹がいっぱいになっては意味がありませんよ?」
そう言いながら、クレアは……エリスの今日の服装を、あらためて眺める。
いつもの旅装よりだいぶ身軽な、白いシャツとスパッツ姿。
髪もポニーテールに結わえており、白いうなじが涼しげに晒されていた。
その姿を、クレアは頭のてっぺんからつま先までじっくり見回し……脳内で荒ぶる。
(好き好き好き好き、はー好き。ポニテの破壊力やば。可愛すぎかよ。魔法学院時代も実戦演習の時は髪を結っていたけど、あの頃に比べて髪が伸びたなぁ……嗚呼、白いうなじが眩しい。その匂いを嗅ぎながら、髪の一本一本を測らせてもらいたい……)
……と、静かに興奮するクレアだったが、そんな欲望は口にできるはずがないので、代わりにこう尋ねることにする。
「エリス。うなじの匂いを嗅がせていただいてもよろしいでしょうか?」
「は?!」
あ、やばい間違えた。つい口から出てしまった。
しかしクレアは、むしろ開き直って、
「私もうなじの匂いはレース後まで我慢しますから。エリスも終わるまで出店グルメを我慢しましょうね」
「なに同列で語ってんのよ! つーかレース後も嗅がせないからね?! このヘンタイ!!」
……という二人のやり取りを後ろから眺め、
「……ホントに大丈夫かな、この人たち」
シルフィーは、不安げに目を細めるのだった……
「──『頂上祭』に参加される方ー! これよりルール説明をおこないまーす!!」
噴水広場の端で、祭りの司会者の男性が声を上げる。
出店への未練タラタラなエリスを引きずるようにして、クレアたちはレース参加者の輪に加わった。
「ではあらためて、ルール説明をします! 三人一組のチーム対抗で、ここから坂の上にあるゴール──街役場を目指し競争していただきます! 途中、様々な障害物を仕掛けていますので、チームで協力しながら突破してくださいね! なお、参加者がお互いに妨害を仕掛けるのは禁止です! 己の足だけで勝負しましょう! チーム内の誰か一人でもゴールすれば、その時点でチームの順位が決まります! 上位三チームには豪華賞品が進呈されますので、張り切っていきましょう!」
ルールを聞きながら、クレアは他の参加者たちを見回す。
ざっと三十人……つまり、十チームほどと競い合うようだ。
漁師風の男たちや、街の自警団のバッジを付けた男たちなど、屈強そうなチームも見受けられるが……それ以外はごく普通の住民や、子どもだけで集まったチームもある。単純な速さ競争であれば、脅威となり得るライバルはいなさそうである。
と、クレアが考える横で、エリスが口を尖らせる。
「えぇー、妨害ダメなの? せっかく魔法使えるのに、意味ないじゃん」
「まぁまぁ。障害物を回避するのにきっと魔法が役立ちますから。エリスさんの魔力で全部突破して、クレアさんの脚力で入賞しちゃいましょう!」
などと、明るくフォローするシルフィー。彼女は彼女で、レースの行く末を完全にエリスたちに任せるつもりでいるらしい。
「ではでは、みなさんお待ちかね、豪華賞品のご紹介です! まずは三位! 走った後はぜひお買い物を! うみねこ商店街で使える商品券~! 続いて二位! カナールの職人が魂を込めて作った! 漁師垂涎の高級投網~!」
「あ、あれです! 私たちの目的の品!!」
運営スタッフに掲げられた投網を指さし、シルフィーが言う。
あれが、例の漁師が提示したという交換条件の品らしい。
「ということは、我々は二位でゴールしなければならないのですね」
「うわ、逆に難しそう」
クレアとエリスが呟く中、司会者がより声量を上げて続ける。
「最後に、見事一位となったチームに贈られる優勝賞品は……! カナール随一の高級温泉宿・かもめ旅館の宿泊券~! さらに! ピネーディア・リリーベルグの酪農家と共同開発! カナール産の海塩を使用した……絶品・塩キャラメルプリン、一年分!! まだ市場には出ていない新商品です!」
その声が響き渡るのと同時に、荷車に乗せられた大量の瓶入りプリンが登場する。
それを見たシルフィーが、「うわー、美味しそうですね」と呑気な感想を述べるが……
「…………」
クレアは、顔に笑みを貼り付けたまま、静かに硬直していた。
何故なら……エリスが、これに反応しないわけがないからだ。
案の定、彼女は、
「絶品……塩キャラメル……プリン……????」
目にハートマークを浮かべ、登場したプリンの山をうっとり見つめていた。
これは……非常にまずい。まさか一位の賞品に食べ物が出てくるなんて。
しかもこんな、いかにもエリスが好みそうな、ご当地の名産品をふんだんに使った品……『エリスほいほい』にも程がある。
プリンに釘付けになった視線を遮るように、クレアはエリスの目の前で手をひらひらと振る。
「エリス、わかっていますね? 我々が狙うのは二位であって、優勝ではありません。あの高級投網がなければ、イシャナを獲ったという漁師さんに会えないのですからね?」
「や、やだなぁ。もちろんわかってるわよ」
と、乾いた声で笑うエリス。
その引き攣った笑みに、クレアは一抹の不安と、複雑な心境を抱くが……
「では、二位を目指して頑張りましょう。終わったら、出店を好きなだけ回りましょうね」
未だ無理に笑っているエリスに向け、優しい声音で言った。
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