滅私な有能剣士は食いしん坊な魔導少女のため、今日からメシに生きる。〜散々仕えた国の金でグルメ旅満喫します〜

河津田 眞紀

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13 カナールの頂上祭

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「ああっと?! カナール漁師会チームの足が完全に止まった! これでレースは魔導少女と自警団チームの一騎打ちになったァッ!!」

 運営スタッフの興奮気味な実況が響く中。
 クレアは、少し前を走るエリスの背中を追いかけていた。

 クレアの話に応じようとしない、エリスの態度……
 それはまるで、拗ねた子どものようだった。
 自分はプリンを獲得したいのに、クレアがそれを良しとしない。
 そのことに納得いかず、機嫌を損ね、反発している子ども……

(……いや、本当にそれだけか?)

 知りたい。
 彼女が今、何を考えているのか。

 どうにもおかしかった。エリスなら、もっと上手くやれるはずだから。
 彼女が本気を出せば、同調するフリをしてクレアを出し抜き、レースが決する直前でしれっと一位になることもできたはず。

 それなのに……
 彼女は、クレアにわざわざプリンを狙っていることを打ち明けた。

(一体、何故……止められるとわかっていただろうに)

 その問いの答えを求めるように、エリスを追っていると……
 再び、運営スタッフの元気な実況が聞こえてきた。

「ここで三つ目の障害物! 行く手を遮るレンガの壁だぁっ! これはチームで協力して乗り越えるのが吉だが……一人突き進む魔導少女は、果たしてどう出る?!」

 クレアが道の先に目を向けると、茶色い壁が道を塞ぐように建てられているのが見えた。
 エリスの身長の二倍以上あるような高さだが……しかしクレアには、彼女がどう突破するのか、なんとなく予想がついた。

 案の定、エリスは動じることなく壁の正面に立つと、

「──大地の精霊・オドゥドア!」

 指輪の光る右手で魔方陣を描いた。
 直後……


 ──ドドドドドッ!!


 エリスの足元の地面が、柱のようにせり上がった。
 そのまま持ち上げられ、ちょうどレンガの壁と同じ高さにまでくると、ひょいっと壁の上に飛び乗った。
 そして再びオドゥドアを使い、壁の向こう側に土の足場を階段状に生成する。それを一段ずつ軽快に下り、なんなく壁を乗り越えた。

 地面に降り立った彼女がパチンっと指を鳴らすと、柱は途端に崩れ落ち、ただの土塊つちくれへと還った。

「おおっ、さすが魔導少女! 大地の精霊を使いこなし、自ら足場を作って壁を乗り越えたぁっ!! ここで追いついた自警団チーム! さぁ、彼らは壁を越えられるのか?!」

 エリスの華麗なる突破劇に、湧き上がる実況と観客。
 そのタイミングで、自警団チームがようやく壁の障害物に辿り着いた。

 三人の男たちはおんぶや肩車を使い、筋肉勝負で壁を乗り越えるつもりらしい。
 体格自慢の彼らなら越えられそうだが……それでもかなりの時間がかかりそうだ。

 このままでは、エリスが逃げ切ってしまう。
 自警団チームに一位を譲るためにも、やはりエリスを足止めしなければ。

 クレアは蒸気を飛び越えた時と同様、取り出したフック付きのワイヤーを真上の街灯に引っ掛け、振り子の要領で壁を乗り越えた。

 壁の向こうは、駆けて行くエリスと……その先の坂の頂上に、街役場らしき建物が見えた。

(まずい、ゴールは目と鼻の先だ)

 もはや一刻の猶予もない。
 クレアは腹を決め、一気に加速する。
 そしてエリスに追い付き、彼女の手を後ろから掴んだ。

「なっ……離してよ!」

 足を止め、手を振り解こうとするエリス。
 しかしクレアは、その手を離さない。

「申し訳ありません。ですが、私の話を聞いてください」
「嫌よ! どーせプリンを諦めろって言うんでしょ?!」
「貴女があのプリンに魅了される気持ちはわかります。各地の美食を口にするため、必死に努力してこの職に就いたことも知っています。しかし、だからこそイリオンの平和は護るべきだと思うのです。そうでなければ、貴女が望む海の幸もみんな……」
「ぜんっぜんわかってないわよ!!」

 クレアの再度の説得を遮って。
 エリスは、声を荒らげた。

 そのまま俯き、声を震わせ、

「そうやって……あたしを理解したフリして、上手く操作しようとしているんでしょ……?」

 そんな言葉を口にするので……
 クレアは、困惑しながら聞き返す。

「操作……? 一体、何のことを……」
「そういう演技はいいから! とにかくあたしは、やりたいようにやらせてもらう! いい加減、離してよ……!」

 ぐいっ! と、エリスはクレアに握られた手を力一杯引っ張る。
 すると、その勢いに二人は足をよろめかせ……
 もつれた足を着地させた、その時。


 ──ズボッ!!


 二人の足元が、突如として抜けた。

「「……へっ?」」

 間の抜けた声が、どちらからともなく上がる。

 そのまま、二人が足を下ろした地面がボロボロと崩落し始める。
 つまり……

 落下、である。


「……にゃぁあああああああっ!!」


 猫の断末魔のようなエリスの悲鳴と共に、二人は足元に空いた穴の中へと急降下した。

「きたぁあッ! 最終にして最強の障害物! 毎年幾多の参加者を飲み込んできた、落とし穴ゾーーンッ!!」

 ……という、今レース一番のテンションで発せられた運営スタッフの実況を……

 エリスとクレアは、薄暗い穴の底で耳にした。

 クレアの身長の三倍ほどの深さだろうか。細かな土の塊が、頭上からパラパラと降ってくる。
 底に柔らかな土が盛られていたため、二人に怪我はなかったが……
 本来なら人ひとりが落ちることを想定して作られた穴なのだろう。非常に狭い。

 その、狭く暗い穴の中に……
 エリスとクレアは向かい合った状態で、密着するように嵌まっており、完全に身動きが取れなくなっていた。

「くっ……!」

 まだ抵抗を諦めていないのか、エリスは狭い空間で無理矢理魔法陣を描こうともがく。
 当然、それをクレアが許すはずもなく。

「ストップ。こんなところで魔法を使ったら、貴女まで痛い思いをしますよ?」

 彼女の両手首をあっさり掴んで、頭の上に持ち上げてやった。
 それを振り解こうと暴れながら、エリスはキッと睨みつける。

「なんなのよ……この落とし穴もあんたの企み?!」
「ですから、『操作』だとか『企み』だとか、一体何のお話です? この祭りの存在を昨日知ったばかりの私に、こんな落とし穴を用意する暇があったとお思いですか?」
「それは……ふんっ、初めからシルフィーと結託していたんでしょ?!」

 ……と、いきなりシルフィーの名が上がったことに、クレアは目を丸くする。
 しかしそれは、彼にとって、エリスの心情を読み解くためのヒントに他ならなかった。

(……なるほど。エリスの考えが少し見えたぞ)

 ここで落とし穴に嵌ったのは、ある意味幸運だったかもしれない。
 こうして、目を逸らすのも難儀なくらいに密着した状態で、彼女と話をすることができるのだから。

 クレアはエリスの心情をさらに探るべく、慎重に尋ねる。

「シルフィーさんとは昨日初めてお会いしたので、『結託』というのもよくわかりません。しかし、仮にも私たちは同じ治安調査員ですから、結託すること自体には何ら問題がないと思うのですが……エリスは一体、何を危惧しているのですか?」

 その問いかけに、エリスは一度口を閉ざし……

「だって……」

 ぼそっと呟くと……
 潤んだ瞳でクレアを見上げて、


「あんた……やっぱり国の命令で、あたしを無理矢理治安調査の仕事に誘導しようとしているんでしょ……?」


 そう、泣きそうな顔で言った。


 
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