滅私な有能剣士は食いしん坊な魔導少女のため、今日からメシに生きる。〜散々仕えた国の金でグルメ旅満喫します〜

河津田 眞紀

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15 売るなら「媚び」より「恩」

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「かっ、風別かぜわかつるぎ……」
「これが、本物の……?」


 クレアが握る剣。
 轟々と音を立てながら"風"を纏うその長剣を前に、三人の賊が愕然と呟く。
 それを尻目に、エリスはクレアにこそっと耳打ちする。

「あ、ちなみにあたしも初めての試みで、威力とかどんな動きするのかとかまったく予測できないから、やりながらその辺テキトーに見極めて」
「わかりました」
「ちょ、大丈夫なんですかそんなふわっとしたカンジで!?」

 二人の呑気なやり取りに、思わずツッコむシルフィー。
 そうしている間にも、チンピラたちに動く気配はない。探し求めていた武器の出現に、出方を迷っているようだ。

 ならば、こちらから仕掛けるのみ。
 クレアは、いつもの笑みを浮かべ、

「では……試し斬りといきましょうか」

 言うが早いか、男たちとの間合いを一気に詰め、剣を振るった。
 すると……


 ──ぶわぁぁああっ!!


 唸るような音と共に、剣から突風が放たれた。

「ぐぁぁああっ!!」

 真正面からそれを食らった賊の一人が、猛烈な風圧に服を裂かれながら吹き飛んでゆき……
 路地の突き当たりの壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。

 そのあまりの威力に、残された男たちだけでなくシルフィーまでもが口を開ける。

「おやおや。これは本当に加減しないと……殺してしまいますね」

 クレアは剣身を見つめ、笑顔で言う。
 仲間がやられ火がついたのか、賊二人は剣を握り締め、

「てっ、テメェ……ヘラヘラしてんじゃねぇえ!」

 焦りと苛立ちを叫び声に込めながら、二人同時に襲いかかってきた。

 その剣撃を受け止めながら、クレアは考える。
 エリスが『偽・風別ツ劔』を生み出した意味と、その有用性を。


 恐らくエリスは、ブルーノにうまく取り入るためにこのニセモノ作戦を決行したのだろう。

 ブルーノは、『風別ツ劔』を飲み込んだイシャナを知っていると噂されている。
 今は頑なに口を閉ざしているが、もし本当に劔について何かしらの情報を持っているのだとしたら……このニセモノの『風別ツ劔』に興味を抱くに違いない。

 現にブルーノは、エリスが生み出したこの劔を前にかなりの動揺を見せている。
 指定された高級投網は手に入らなかったが、これで一気に取り入り易くなったはずだ。

 全ては、ブルーノに近付きイシャナの情報を引き出すため。
 イシャナを食べることが目的であるエリスにとって、ブルーノにアピールしつつ賊を撃退できるこの作戦はまさに一石二鳥だったのだろう。

 しかしこれは、"水瓶男ヴァッサーマン"の尻尾を掴むことが目的であるクレアにとっても実に有効だった。
 何故なら、敵の標的をブルーノからクレアへと切り替えることができたから。

 クレアが『風別ツ劔』を持っていると知れば、今後はこちらから探さずとも敵の方からやってくるはずだ。
 賊を一掃するのが楽になる上、ボスと呼ばれる親玉をおびき出すのにも一役買ってくれる。
『風別ツ劔』を巡る賊たちとブルーノの間に深く介入することできる、最善の方法と言えよう。


(俺一人ではこんな強引なやり方、思いつくことすらなかった。"水瓶男ヴァッサーマン"の件は秘密裏に調査するつもりでいたが……早速エリスに助けられてしまったな)

 と、惚れた少女の優秀さと大胆さを誇らしく思いながら、クレアは賊たちの攻撃を次々に躱す。

 彼らには、こちらが『風別ツ劔』を持っているという情報を持ち帰り、きちんと親玉に報告させる必要がある。
 だから、このニセモノの威力を適度に見せつけつつ、殺さないよう気を付けなければならない。

(この風の効果はじきに切れるはず……あまり悠長な演技もしていられないな)

 賊の単調な動きを躱し続けていたクレアだが、いよいよ攻撃に転じることにする。

 と、二人の賊が左右から同時に斬りかかってきた。
 クレアは剣身を唸らせながら、それを交互に弾く。

 すると、剣を取り巻く風圧により賊たちの腕が跳ね上がる。つまり、胴がガラ空き状態だ。
 すかさずクレアは、その胴に回し蹴りを叩き込んだ。

 右側にいた男の腹にクレアの足がめり込み、そのまま左にいたもう一人の方へと吹っ飛び……

「うわぁああっ!」

 衝突した男たちは、あっけなく地面に組み伏せた。
 それを見下ろし、クレアは爽やかに微笑んで、

「すみません。あなた方に負けず劣らず、足癖が悪いもので」

 賊たちに向かって、『偽・風別ツ劔』を横薙ぎに振るった。
 ブォオン! という低い音を上げながら、先ほど同様、刃のように鋭利な風が賊たちへと放たれる。

「くっ……!」

 咄嗟にチンピラの片方が、もう一人の身体を突き飛ばしてその場から退避した。
 哀れ、残されたチンピラは風圧の餌食となり……

「えっ、ちょ……ぎゃぁあああ!!」

 やはりビリビリと服を裂きながら地面を転がり、動かなくなった。これで、あと一人。
 その様子を見て、エリスが感心したように声を上げる。

「おぉ、さすがクレア。使いこなしているわね」
「ありがとうございます。頑張りますので……あとで何かご褒美くださいね」
「へっ?!」

 エリスの返事を聞かぬまま、クレアは残り一体となった賊へと近付いて行く。
 賊は、万事休すといった表情を浮かべる……が、

「くっ……こうなりゃ、ヤケクソだぁーっ!」

 セリフ通りのめちゃくちゃな動きで剣を振り上げ、全速力で突っ込んできた。
 それをクレアが、冷静に対処しようと剣を構えた──その時。


 ──ぶわ……ッ!!


 突然、クレアの剣を取り巻いていた風が、解けるように消滅した。
 その風圧により、剣はクレアの手を離れ……遠くの地面へ、鈍い音を立てながら転がった。


 
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