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24 目には目を、歯には歯を
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しおりを挟む「い、今の……クレアが、蹴り飛ばしたってこと?」
「ありえない……あの距離を一瞬で詰めるなんて」
エリスとチェロが驚愕の声を上げる中、クレアも自身が発揮した力の強大さに驚いていた。
視覚・嗅覚・聴覚・触覚……あらゆる感覚が、極限まで研ぎ澄まされている。
脳からの指令に、筋肉が、神経系が、その能力を惜しむことなく全力で、最短で応えてくれる。
疲労も、傷の痛みも感じない。
これが、禁忌の力……
恐ろしいくらいに強力だが……長くは持ちそうにない。
ここからは一気に、決着をつけなければ。
クレアの見据える先で、壁にめり込んだジーファがゆっくりと動き出す。
全身を覆う"風の鎧"によって衝撃が緩和されたのか、大きなダメージには至らなかったようだ。
いくらこちらの身体能力が向上したとしても、あの風に防がれては意味がない。
何か、武器を……風を貫き、ジーファの身体に直接ダメージを与えられるような武器が必要だ。
しかし、そこらに転がっているオンボロ刀では、ジーファの風圧にもクレアの動きにもついてこられないだろう。
……と、クレアは視界の端に、あるものを見つける。
それは、先ほどエリスが作り出した失敗作……ヒトの背丈ほどもある、長大で重厚な剣だった。
彼はその柄を手に取ると、鉄板のようなそれを軽々と持ち上げ、肩に担ぐ。
そして、
「エリス。素晴らしい武器をありがとうございます。さっそく使わせていただきますね」
そう言って微笑み……
起き上がったジーファに向け、走り出した。
目にも留まらぬ速さでジーファの眼前に到達すると、クレアは"鉄の大剣"を横薙ぎに振るう。
ブォンッ! と空気を唸らせ、大剣がジーファの脇腹へと達する……
が、その直前で、風を纏ったジーファの剣に弾かれた。
剣と剣がぶつかるその反動を利用し、ジーファは一度大きく後ろへ跳び、距離を取る。
しかしクレアがまたすぐに距離を詰め……激しい剣撃を繰り出した。
両者のパワーとスピードは、ほぼ互角だった。
しかし、技術と経験の差でクレアが僅かに上回り、徐々にジーファを押してゆく。
剣が振るわれる度、ぶつかり合う度、風が空気を裂き、猛獣の唸りのような音が空間に響き渡る。
ヒトの域を超えた壮絶なやり取りを前に、エリスたちは息を呑み、ただ立ち尽くすのみであった。
激しい剣戟の末、両者の剣が重なり合ったまま止まる。
「くっ……!」
ジーファはクレアを押し返し、一度距離を取る。
そしてすぐに剣を振るい、"風の刃"を放った。
クレアは剣を水平に構え、駆け出す。
そのままジーファから放たれた風の塊を真っ二つに裂き、その間をすり抜けるようにして飛び込んでゆく───が。
「……馬鹿め」
ニタッと、ジーファが笑った。
そして……風を纏った剣を、頭上に向け力強く振り上げた。
放たれた風は、渦を巻きながら上昇し……
厚い岩で覆われた天井を穿ち、大穴を開けた。
「…………!」
その、頭上に開いた穴からガラガラと大量の瓦礫が降り注ぎ……
ジーファに向かって駆けていたクレアの上に、容赦なく降り注いだ。
「く……クレアぁあっ!!」
エリスが叫ぶ。
しかしクレアは直撃を免れず……瓦礫の下敷きとなってしまった。
「フッ……ハァーッハッハァ! 己の速さが仇となったな、マヌケめ!!」
ジーファの勝ち誇った笑い声が響く。
クレアの埋もれた瓦礫の上に、天井の穴から雨が降り注ぎ……冷たい風が入り込んだ。
「そんな……」
エリスは力無く、その場にへたり込んだ。
チェロもブルーノも、倒れたままのシルフィーも、それを愕然と見つめた。
嘘だ……そんな……
クレアが……クレアが……
エリスの心が、真っ黒な絶望に塗り潰されそうになった…………その時。
「──間抜けは、あなたの方ですよ」
──シュッ!!
と、瓦礫の下から何かが閃いた。
その一閃は、瓦礫を砕きながら……
ジーファの両目を、斬り裂いた。
「が……っ、あぁぁああぁああああっ!!」
手から剣を落とし、目を押さえるジーファ。
そこに……瓦礫の下から、クレアが姿を現した。
「あはは。やっと全員の目を潰すことができました。これで思い残すことはありません。エリス」
クレアの無事に、瞳を潤ませ驚く彼女に、
「──天井にちょうど良い通気孔が空きました。これで鼻も利くでしょう。貴女の"食の覇道"を邪魔する愚か者に、とびきりキツいヤツ……お願いしてもよろしいでしょうか?」
なんて、いつものように微笑みかけるので。
エリスも……ニヤリと笑って。
「……ふふん、まかせなさい!」
ガリッ! と、奥歯で飴を噛み砕き。
新鮮な空気を、胸いっぱいに吸い込む。
そして……
「───雷の精霊・エドラ!!
我が命に応え、此処に轟け!!!」
天井に空いた穴から、雷雨の吹き荒ぶ山に響き渡る程の大声で、叫んだ。
刹那……
───ゴゴゴゴゴゴ……
……という、地鳴りのような音がした後。
───バリバリバリ……ドォォオオオンンン!!
激しく明滅する光の帯が、ジーファの身体に直撃した。
稲妻だ。エリスが生み出した最大威力の雷が、大気を切り裂きながら天井の穴から降り注いだのだ。
目が眩むような猛烈な電撃が、地面を、空気を、そしてジーファの身体を振動させる。
その白い光の中を、クレアはジーファ目掛けて駆け抜け……
その身体に、強烈な一太刀を浴びせた。
"風の鎧"の向こうで、真っ赤な鮮血がほとばしる。
稲妻の明滅が収まると同時に、ジーファを取り巻いていた風が解けるように消え……
「………………」
ゆらりと、一度大きく揺れてから。
ジーファは……遂に、倒れた。
「……やった……のか……?」
ブルーノが、震える声で呟く。
チェロとシルフィーも、倒れたジーファを見つめる。
ジーファを、倒した。
エリスは笑顔を浮かべ、クレアの元へと駆け出す……が。
「…………」
クレアは、エリスの方を見て静かに微笑むと……
糸が切れたように、その場へ倒れ込んだ。
「クレア……? クレアぁっ!!」
身体を抱き起こし、エリスが呼びかけるが……
クレアの瞳は、閉じられたままだった。
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