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26 潮騒のキヲク
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しおりを挟むしかし――
ブルーノの懸命の対応も虚しく、仲間の漁師たちは全員、帰らぬ人となった。
生き残ったのは、ブルーノとセオドアだけ。
シュプーフの行方もわからぬままだ。
その後、セオドアの素性が明らかになった。
彼の名は、セオドア・ブラウ・サジタリウス。
このオーエンズ領の、領主の息子だった。
次男という次期領主にはなり得ない身分に生まれたことを憂い、イシャナ狩りで鬱憤を晴らしていたらしい。
それに用いられたのが、サジタリウス家に代々伝わる秘められた家宝、『風別ツ劔』。
サジタリウス家はこの伝説の劔を所有していたが故に、古の時代より権力を保持していたそうだ。
イシャナ狩りに興じていたことも、危険な力を持つ『劔』を使用していたことも、セオドアの父である現領主は知っていた。
次子として生まれたが故、憂いを抱えることになった我が子への可愛さと罪悪感がために、知った上で黙認していた。
そして、あろうことかサジタリウス家は、この件を隠蔽しようと徹底的な根回しを始めた。
『領主の息子が起こした殺人事件』ではなく、『海賊と漁師による不幸な衝突』として、事件を闇に葬ったのだ。
当然、ブルーノはそれを許さなかった。
しかし、いくら真実を訴えようとも、伝説の劔による事件など誰も信じてはくれず……
仲間を失ったことで心神喪失しているのだろうと、憐れみの目を向けられるのみだった。
そうして、数週間が経った後。
セオドアが死んだとの一報が入った。
あの時、腹に槍が刺さったことで生死の境を彷徨っていると聞いていたが……最後は気が狂って自害したらしい。
彼の死について、サジタリウス家から責められることはなかったが、真実については口を噤むようにと念押しされた。
仲間を失い、シュプーフを失い、憎悪をぶつける相手すら失い……
茫然自失となったブルーノは、ふらりと海辺へ足を運んだ。
今回のことがあって、海に近付くことすら怖くなっていたが……ふと何かに呼ばれるように、「行ってみよう」と思い立ったのだ。
港から眺める、いつもと変わらない波間。
あの時、一体どうすれば良かったのか。
何が正解だったのか。
どこから間違ったのか。
考えれば考える程、わからなくなって……
どうして自分だけが生き残ってしまったのか、これからどうやって生きてゆけばいいのか……わからなくなってしまって。
その答えが見つかるはずもないのに、ブルーノは……
寄せては返す青い波を、ただ静かに眺めていた。
……その時。
「――……キュウゥ」
潮風に乗って。
あの、甘えるような声が、聞こえた気がした。
ブルーノは堤防から身を乗り出し、海を見回す。
きっと空耳だ。愚かな願望が生み出した幻聴だ。
そう思っているのに、ブルーノはどうしてもその影を探さずにはいられなかった。
そして……
ブルーノが見つめる、その先に。
遠くの沖合いの波間に、ひょこっと現れるまぁるい頭を見つけた。
あの傷。あの瞳。
間違いない。あれは……
「……シュプーフ……!!」
気付けば、ブルーノは海に飛び込んでいた。
服が水を吸い、重くなるのも気にせず、ひたすらに泳ぐ。
するとシュプーフの方も、ブルーノの元へ近付いてきて……
ブルーノを鼻先に乗せるようにして、身を寄せた。
「シュプーフ! お前、生きていたんだな……! あんな劔を飲み込んだのに……って」
再会の喜びを噛みしめたブルーノは、ふとある変化に気がつく。
「お前……少し見ない間に、随分とデカくなったな」
……そう。
間近で見るシュプーフの身体は、数週間前に比べ、一回り以上大きくなっていた。
確かに、イシャナという魚竜は成長すれば小高い丘ほどにもなる。シュプーフもいずれはそうなるのだろうが……それにしても成長速度が早いように思えた。
「……まぁいい。シュプーフ、口の中を見せてみろ。劔はもう吐き出したのか? 傷は残っていないか?」
ブルーノが口先をさすりながら言うと、シュプーフは大人しく口をパカッと開ける。
すると……
「こっ、これは……!」
シュプーフの、赤黒い喉の奥に……
劔が、深々と突き刺さっていた。
しかし、そこから出血しているわけでもなく、炎症を起こしている様子もない。
まるで最初からそこに刺さっていたかのように自然と、シュプーフの柔らかな粘膜に馴染んでいた。
まさか、まだ体内に劔が残っているとは思わなかったが……シュプーフの成長具合を見るに、しっかりとエサは食べられているようだ。
これは、たまたま刺さり所がよかったのか……?
いや、いずれにせよこのままではまずい。シュプーフの身体に影響を与えないわけがないし、何よりサジタリウス家が取り戻しに来るかもしれない。
そうなったら……今度こそ、シュプーフまで失うことになる。
ブルーノは、グッと拳を握りしめると、
「……シュプーフ、ここだと誰かに見つかる可能性がある。儂の"秘密の隠れ家"へ行こう。そこで、劔を抜いてやるからな」
そう、優しく言い聞かせると……
シュプーフのヒレに捕まり、『秘密の隠れ家』を目指した──
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