滅私な有能剣士は食いしん坊な魔導少女のため、今日からメシに生きる。〜散々仕えた国の金でグルメ旅満喫します〜

河津田 眞紀

文字の大きさ
144 / 166
26 潮騒のキヲク

5

しおりを挟む



 しかし――
 ブルーノの懸命の対応も虚しく、仲間の漁師たちは全員、帰らぬ人となった。

 生き残ったのは、ブルーノとセオドアだけ。
 シュプーフの行方もわからぬままだ。


 その後、セオドアの素性が明らかになった。
 彼の名は、セオドア・ブラウ・サジタリウス。
 このオーエンズ領の、領主の息子だった。

 次男という次期領主にはなり得ない身分に生まれたことを憂い、イシャナ狩りで鬱憤を晴らしていたらしい。
 それに用いられたのが、サジタリウス家に代々伝わる秘められた家宝、『風別ツ劔』。
 サジタリウス家はこの伝説の劔を所有していたが故に、いにしえの時代より権力を保持していたそうだ。

 イシャナ狩りに興じていたことも、危険な力を持つ『劔』を使用していたことも、セオドアの父である現領主は知っていた。
 次子として生まれたが故、憂いを抱えることになった我が子への可愛さと罪悪感がために、知った上で黙認していた。

 そして、あろうことかサジタリウス家は、この件を隠蔽しようと徹底的な根回しを始めた。
『領主の息子が起こした殺人事件』ではなく、『海賊と漁師による不幸な衝突』として、事件を闇に葬ったのだ。

 当然、ブルーノはそれを許さなかった。
 しかし、いくら真実を訴えようとも、伝説の劔による事件など誰も信じてはくれず……
 仲間を失ったことで心神喪失しているのだろうと、憐れみの目を向けられるのみだった。


 そうして、数週間が経ったのち
 セオドアが死んだとの一報が入った。

 あの時、腹に槍が刺さったことで生死の境を彷徨っていると聞いていたが……最後は気が狂って自害したらしい。
 彼の死について、サジタリウス家から責められることはなかったが、真実については口を噤むようにと念押しされた。


 仲間を失い、シュプーフを失い、憎悪をぶつける相手すら失い……
 茫然自失となったブルーノは、ふらりと海辺へ足を運んだ。
 今回のことがあって、海に近付くことすら怖くなっていたが……ふと何かに呼ばれるように、「行ってみよう」と思い立ったのだ。

 港から眺める、いつもと変わらない波間。
 あの時、一体どうすれば良かったのか。
 何が正解だったのか。
 どこから間違ったのか。
 考えれば考える程、わからなくなって……

 どうして自分だけが生き残ってしまったのか、これからどうやって生きてゆけばいいのか……わからなくなってしまって。

 その答えが見つかるはずもないのに、ブルーノは……
 寄せては返す青い波を、ただ静かに眺めていた。



 ……その時。


「――……キュウゥ」


 潮風に乗って。
 あの、甘えるような声が、聞こえた気がした。

 ブルーノは堤防から身を乗り出し、海を見回す。
 きっと空耳だ。愚かな願望が生み出した幻聴だ。
 そう思っているのに、ブルーノはどうしてもその影を探さずにはいられなかった。

 そして……
 ブルーノが見つめる、その先に。
 遠くの沖合いの波間に、ひょこっと現れるまぁるい頭を見つけた。

 あの傷。あの瞳。
 間違いない。あれは……


「……シュプーフ……!!」


 気付けば、ブルーノは海に飛び込んでいた。
 服が水を吸い、重くなるのも気にせず、ひたすらに泳ぐ。

 するとシュプーフの方も、ブルーノの元へ近付いてきて……
 ブルーノを鼻先に乗せるようにして、身を寄せた。

「シュプーフ! お前、生きていたんだな……! あんな劔を飲み込んだのに……って」

 再会の喜びを噛みしめたブルーノは、ふとある変化に気がつく。

「お前……少し見ない間に、随分とデカくなったな」

 ……そう。
 間近で見るシュプーフの身体は、数週間前に比べ、一回り以上大きくなっていた。

 確かに、イシャナという魚竜は成長すれば小高い丘ほどにもなる。シュプーフもいずれはそうなるのだろうが……それにしても成長速度が早いように思えた。

「……まぁいい。シュプーフ、口の中を見せてみろ。劔はもう吐き出したのか? 傷は残っていないか?」

 ブルーノが口先をさすりながら言うと、シュプーフは大人しく口をパカッと開ける。
 すると……

「こっ、これは……!」

 シュプーフの、赤黒い喉の奥に……
 劔が、深々と突き刺さっていた。

 しかし、そこから出血しているわけでもなく、炎症を起こしている様子もない。
 まるで最初からそこに刺さっていたかのように自然と、シュプーフの柔らかな粘膜に馴染んでいた。
 まさか、まだ体内に劔が残っているとは思わなかったが……シュプーフの成長具合を見るに、しっかりとエサは食べられているようだ。

 これは、たまたま刺さり所がよかったのか……?
 いや、いずれにせよこのままではまずい。シュプーフの身体に影響を与えないわけがないし、何よりサジタリウス家が取り戻しに来るかもしれない。
 そうなったら……今度こそ、シュプーフまで失うことになる。

 ブルーノは、グッと拳を握りしめると、

「……シュプーフ、ここだと誰かに見つかる可能性がある。儂の"秘密の隠れ家"へ行こう。そこで、劔を抜いてやるからな」

 そう、優しく言い聞かせると……
 シュプーフのヒレに捕まり、『秘密の隠れ家』を目指した──


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

無才能で孤独な王子は辺境の島で優雅なスローライフを送りたい〜愛され王子は愉快なもふもふと友達になる才能があったようです〜

k-ing /きんぐ★商業5作品
ファンタジー
2023/5/26 男性向けホトラン1位になりました!  読みやすくするために一話の文字数少なめです!  頭を空っぽにして読んで頂けると楽しめます笑  王族は英才教育によって才能を開花する。そんな王族に生まれたアドルは成人しても才能が開花しなかった。  そんなアドルには友達と言える人は誰もおらず、孤独な日々を送っていた。  ある日、王である父親に好きに生きるようにと、王族から追放される。  ただ、才能に気づいていないのは王のみだった。  地図で一番奥にある辺境の島から、王国に戻りながら旅をしたら才能に気づくだろう。  そんなつもりで旅をしたが、着いた島は地図上にない島だった。  そこには存在しないと思われるもふもふ達が住む島だった。  帰ることもできないアドルはもふもふ達と暮らすことを決意する。  あれ?  こいつらも少し頭がおかしいぞ?

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

処理中です...