滅私な有能剣士は食いしん坊な魔導少女のため、今日からメシに生きる。〜散々仕えた国の金でグルメ旅満喫します〜

河津田 眞紀

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28 秘められた原罪

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 その叫びが、合図となった。
 七人の首領たちは、禁呪の武器による攻撃を一斉に放つ。

 水が、氷が。炎が、雷が、激しく降り注ぎ……
 地面が割れ、聴くものを惑わす呪いのが響き、巨大な風の刃が迫り来る……が。

 ──すっ。

 と、"王"が片手をかざしただけで、それらの攻撃は全て跡形も無く消えた。

 しかし、眼帯の男はなおも不敵に笑う。

「チッ、やはり精霊による攻撃は効かないか。だが……"精霊の王"は人間に攻撃することができない。そうだろう? 力の源となる人間を消すことはできないからな」

 七人の首領たちも、再び武器を構え……


「貴様も、眷属同様……すり潰してくれる」


 ──そこからは、完全に人の域を超えた攻防だった。

『魔笛』の音色で身体能力を上げた首領たちが、物理攻撃に切り替え武器を振るい、"王"に迫る。

 眼帯の男の言葉通り、"王"は人間に危害を加えられないようだった。迫り来る攻撃を防ぐことに徹し、首領ではなく彼らが手にする武器を狙って魔法を放っている。封じられた精霊の解放を狙っているのだろう。

 クレアの目でも追うのがやっとの応酬が続き……
 やがて、全員の動きが止まったかと思うと──


 神殿の隅に追い詰められた"王"の身体を、あらゆる武器が貫いていた。


 刺さった箇所から、精霊たちと同じ紫色の体液が滴る。

「さぁ……精霊を使えるよう、元に戻せ」

 眼帯の男が言うと、『魔笛』の男が不気味な音を奏で、『大槌』の男をさらに強化した。
 男はその槌を高々と持ち上げ、従わなければ潰すと言わんばかりに構える。

 しかし、"王"はそれに答えなかった。
 代わりに、両手を静かに前へと掲げる。
 すると……

 ──カッ!!

 七つの武器が、強い光を放った。
 そして領主たちの手を離れ、宙に浮いたかと思うと……
 パッ! と弾けるように、四方へ飛んで行った。

「なっ……!?」

 武器を失い、声を上げる首領たち。
 "王"は、口の端から紫色の血を流しながら言う。

「内部の精霊に干渉し、この世界の方々ほうぼうへ飛ばした……すぐには見つけられまい……人間おまえたちにはな」
「きっ……貴様ァアッ!!」

 ガッ! と、眼帯の男が"王"の胸ぐらを掴む。

「逃がさないぞ……我らより先に武器を見つけ出し、中の精霊を解放するつもりだな?! 精霊の姿が隠された今、あれら武器は人間われわれの最後の砦! 是が非でも取り戻す! そのためには……」

 ぐっ……と。
 眼帯の男は、"王"の首に手をかけ、

「……貴様には、じっとしていてもらうことにしよう。殺せないことははなからわかっている。当分の間、動けないよう……眷属同様、封印してくれる」

 そう言うと、他の男たちに樽と剣を持ってくるよう指示した。

 "王"は、禁呪の武器を散らしたことで力を使い果たしたのか、抵抗を見せなかった。
 そして……

 男たちは、弱った王を樽に入れると──
 何本もの剣で、"王"の身体を突き刺し始めた。

 ぐちゃぐちゃと肉を潰すような音がする度に、紫色の体液が飛び散る。

「思った通り……こいつも中身は精霊と同じ。俺たち人間が理想とする姿を模し、皮を被っていただけだ」
「肉体を失えば動くこともできまい」
「このまま樽に封じ込め、井戸の底に沈めよう。こいつが復活する前に、"禁呪の武器"を探すのだ」

 男たちは、樽の中でただの液体と化した"王"を眺めると……
 厳重に蓋をして、樽を運び出した──



 エリスのクレアの目に映る景色が、真っ白な無へと変わる。
 どうやら記憶の遡行は、ここで終わりのようだ。

「──そう……そうして、『井戸の中の水瓶男ヴァッサーマン』の寓話が生まれたのね」

 胸に渦巻く不快感を吐き出すように、エリスが呟く。
 クレアは彼女の手を握り直し、それに答える。

「えぇ。人々を不用意に井戸に近付けないようにするため……彼らが犯した罪を隠すために、あの寓話を創り出したのでしょう。『封魔伝説』も同じ。彼らのおこないを正当化するため、魔王封印の逸話にすり替えて伝承した」
「ったく……歴史の研究者たちが知ったら泡吹いて卒倒しそうな真実ね」
「"精霊の王"は、人間が思い描いた姿をかたどると言っていましたが……"水瓶男ヴァッサーマン"の寓話によって抱かれた人々のイメージが、そのまま現在のあの姿として反映されたのでしょうか?」
「きっとそうでしょうね。きっかけはわからないけれど、最近になって"水瓶男ヴァッサーマン"……もとい"精霊の王"の封印が解かれた。そして"禁呪の武器"から精霊を解放するために、現在の姿で動き出した。けど、人間にしか解放できない呪いがかけられていたから、適当な人間の力を借りようとした」
「そこで出会ってしまったのが、よりにもよってジーファだった、と」
「はぁ……吐きそうなくらいに胸くそ悪い話だけど、全てが明瞭になったわ。あとは……これを見せてくれた精霊さんたちをどう解放するか、ね」

 言って、エリスは顔を上げる。

「……ねぇ、精霊さん。人間があなた達にしたことは、いくら謝っても謝り切れない。人間であるあたしを信用しろって言うのも無理な話だと思う。けど……あたしは本気で、あなた達をここから解放したいの。あなた達だってそれを望んでいるから、この記憶を見せたんでしょう?」

 右も左も、上も下もないような真っ白な空間に向かって、エリスは呼びかける。
 すると、


「…………怖いんだよ」


 幼な子のような声が、どこからともなく降ってきた。


「これ以上、誰も殺したくない。僕らを使う人間の感情も、傷付けられた人間の感情も、すごく暗くて、ひどく濁っていて……怖いんだ。外には出たいけど、それ以上に……怖いんだよ」


 エリスとクレアは驚いたように顔を見合わせる。
 これはきっと、『劔』に封じられた精霊の声だ。

 エリスは一歩前に踏み出し、宙を見上げながら続ける。

「あなた達は……ヒトの感情を感じ取ることができるのね」
「うん。それが僕らの源になるからね。ここにいれば……このイシャナくんの中にいれば、怖い感情に触れなくて済む。だからずっと、ここに隠れていたんだ」

 なるほど。それでシュプーフの身体と一体化していたのか。
 エリスは納得すると、優しく微笑み、

「ねぇ、いいこと教えてあげようか」
「な……なに?」
「あなた達は、"風の精霊"よね? 現代いまの世界では、誰もあなた達の存在を知らない。誰にも見つけられていないの。だから……外に出ても、恐ろしいことに利用されることはもうないわ」
「……本当?」
「本当よ。あたしも絶対に、あなた達のことは誰にも言わない。約束する」
「……その人は?」
「え? あぁ、横にいる彼? 大丈夫よ、コイツはあたしの、えぇと……だから。ねっ?」

 と、苦し紛れにクレアを見上げるので……
 彼はにこりと笑って、

「はい。エリスが口を縫い合わせろと言うのなら、喜んで従います」
「怖っ! そんなこと言わないわよ! ……こほん。とにかく、あたしも彼も、あなた達の存在は一生内緒にしておく。けど、忘れない。いて欲しいってずっと祈っている。そうすれば、あなた達は消えないでしょ?」
「でも……君たちが死んじゃったら? 誰が僕たちのことを想ってくれるの?」
「それは、えっと…………こ、子どもができたら、お伽話にして聞かせるから!」
「ぶふっ」

 隣で、クレアが思わず吹き出す。

「……エリス。念のための確認ですが、それは『私との子ども』、ということでよろしいですか?」
「うるさい、察しろ! とにかくっ……精霊さん、あなた達の王さまも、迎えに来てくれているのよ」
「王さまが……?」
「うん。だから、安心して出てきて」

 祈るように、エリスが言う。
 精霊は、葛藤するように暫し沈黙し……

 やがて、こう投げかけた。


「──じゃあさ……名前を、呼んでくれない?」


 エリスとクレアが、「名前……?」と同時に聞き返す。


「そう。ずっとずっと昔のことだけれど……人間きみたちは僕ら一人ひとりに名前をつけて、呼んでくれていたんだ。そうすると、力が湧いてくる。ここにいてもいいんだって、人間きみたちにちゃんと必要とされているんだって……その事実が、僕らの力になるんだ。ここから出るには、ちょっと力がいりそうだから……どうか、名前を呼んでほしい」


 そこで、エリスとクレアは思い出す。
 見せられた記憶の一番最初……青年が、精霊を名前で呼んでいたことを。
 あの時代の名残りと、精霊が力を発揮する原理が根底にあるからこそ、現代でも魔法を使う時には精霊の名を呼ぶのかもしれない。

「……わかったわ。けど、さっきも言った通り、現代では誰も"風の精霊あなたたち"を知らないから、呪文で使うための呼び名がないの。だから……ちょっと懐かしい名前でも、いいかな」
「懐かしい、名前?」

 エリスは、静かに目を閉じると……
 記憶の中で見た、青年と精霊の姿を瞼の裏に浮かべ、


「……"リーナ"。もう、大丈夫だよ。こんなところから出て……自由な風になろう」


 あの青年が口にしたのと同じ名で、呼んだ。

 刹那、目の前が強く光り──
 エリスとクレアの意識が、その場から消えた。


 
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