これなるは旅の一座にございます。煮ても焼いても食えません

春巧@金曜更新予定

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第9話の2 雨の中

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 ぽつり、ぽつりと雨粒が落ちてきた。
 やがてそれは連続し、大きな雨音となって地面をたたいた。
 わあわあと、人々は傘をさし、チケットを持っているものは大慌てで受付にそれを見せてテントの中に駆け込んでいく。
 そうして人の姿は少なくなっていった。
 そんな中でも少女は、両手でぼろぼろのスカートを握りしめそこに立っていた。
 服には雨がしみこみ、もう濡れていない部分がないような状態であった。
 馬車の御者はチラ…と見はするものの、雨除けにと御者台にあげてやるようなこともせず、のんびりとたばこをふかしていた。
「なんということか!」
 大きな声が広場に響き渡った。
 ルクルが立っていた。
 彼は自分の外套を素早く脱ぎ、少女にがばっとかぶせた。
「お嬢さん、俺は怪しいものではない。俺はルクルと言う。悪いようにしないから、ここは俺に任せてもらえないだろうか!」
 ルクルの剣幕にずぶ濡れの少女は目を丸くしながらもこくこくとうなずいた。
 そうしてルクルはまるでガラス細工を持ち上げるかのごとく、そうっと外套にくるんだ少女を抱き上げると、自らは濡れるのも構わず、ずんずんと進んでいった。
 あとには、どうしたものかおろおろしているだけの御者が取り残されていた。

 屋根付きの受付にたどりつくと「団長殿はおられるか。俺はルクルという。貸していただいた金を返しにきたといえばわかるはずだ」と告げた。
 受付の中から女性が一人あわてたように飛び出していき、テントに向かった。
 その間ルクルはチケットを持ってくる客の邪魔にならないようわきによけ、何かしらかいがいしく少女に声をかけていた。
 仮面の男が女性に導かれあわてたようにやってきた。
「おやあ、旦那」
「突然ですまない! 金のことより先に、この少女を何とかしてやってくれないだろうか。重ね重ねの非礼をお詫びする」
 仮面の男はずぶ濡れの少女を見て大体の状況を悟ったようで、団員を呼び寄せ少女を連れていかせた。
「旦那も、こちらを」
「やあ、すまないな」
 差し出された布でルクルは体をごしごしと拭いた。
 テントの裏に案内されていた。
「あの少女がこの土砂降りの中ずっと立たされていたのだ。放ってはおけなくてな。だがそちらに迷惑をかける形になってしまったことは申し訳なかった」
 ルクルが頭を下げた。
 仮面の男は「とんでもないですよ」と手を振った。
「困ったときはお互い様というではありませんか」
「む、そういってもらえると助かるぞ」
 そこに少女が戻ってきた。団員の服をきせてもらったのか、少し大きいようであったが、髪の毛もきれいに整えられ、先ほどまで真っ青だった頬も少し赤みがさしていた。
「ささ、体が冷えてはいけません」
 木のコップに入れられた温かいミルクをしばし二人はふーふーと冷ましながら飲んだ。
「してお嬢さん、あなたはどうしてあそこに立たされていたのかうかがっても?」
 仮面の男が尋ねた。
 少女はびくり、とコップを取り落とし(ルクルが寸前で受け止めた)、ガタガタと震えだした。
「あの…私……家ではやっかいものといわれてて……あの…家族はショーを見にきたのですが…、あの……私はあそこで待つようにと…」
「なんということだ!」
 またもルクルが声を張り上げた。
 びっくりしたように数名団員が顔をのぞかせてきたが、仮面の男がなんでもないというように手を振ってみせると戻っていった。

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