怪夢

カンザシ屋小噺支店

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『赤い御殿と自由』

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その男は空のギターケースを背負い、原色の森を歩む、男の黒い髪と黒い衣服は背景に溶ける事無く光を嫌う、目指すはあの真っ赤な御殿、眼が覚めるような赤は夢でありながらも深く記憶に存在を知らしめた、『あの御殿にはが欠ける。』そう知っていた。

男は見上げた、真っ赤な御殿は煌びやかに艶々と光を好み、今造られたかのような違和感を育む、金の装飾は純金よりも輝き虹彩を焼き瞳孔を貫く。
男は濡羽色の目を細め御殿を見据え歩み寄る、周囲に人は見えなかった、(正面突破だ!)身の丈に合わない扉に触れる、その瞬間、真後ろ、揶揄するように男が落ちる、赤が目を瞑る、一瞬の静寂、桃色の羽織を着た天女のような者々が男に群がった。
(あぁ、成る程?自由に欠けるとは…)

天女は男に興味を示さなかった、(俺もそれに関し何も思わない)
落ちた男は天女を見上げ、己を嘲笑する、死を選ぶ自由さえ無いとその目は鮮やか過ぎる快晴を映した。
(不穏だ、実に不穏だ、このまま歩めとは自身に言い切れない)
御殿は男を呼ぶように自慢の艶をちらちら揺らす、それを目に写した男、この場を諂笑で切り抜ける事を心に決める。
(自由無き場所に宝が有ると?そんな馬鹿な、有るとすれば既にこの蛋白質はそれを求め脊髄反射で駆け出すさ)

くるりと左足を軸に回れ右、落ちた男の横を抜け森へ、森の奥にはせせらぎの音がある、『その先には自由がある』と嘘を聞いた。
(気の毒に、あの男はあんな虚言に唆されたのか)
真っ青な怪晴、陰知らぬ原色の森、偽物の光沢を帯びる御殿。
(正に真っ赤な噓という訳か)
男は街を目指した、あの場所には朝陽が無い、男を溶かす薄暗闇、多くは其処に在る。
(日輪は目玉に恨みでもあるのだろうか)
水素のような思考をし、鉛の身を事務的に動かした。
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