あの丘でもう一度。

うたは

文字の大きさ
上 下
5 / 5
朱音と茜

茜のお話

しおりを挟む
この街に引っ越してきてから変なことが度々ある。例えば、近所の駄菓子屋。何故か場所も名前もすぐに分かった。

謎の記憶を頼りに行ってみると確かにそこには記憶の中の駄菓子屋があった。中に入ると店番のおばちゃんに「朱音ちゃん!?」と驚かれたっけ。この街は何故かみんな私を見ると私の名前を呼んでくる。

そんな時いつも言うのだ。「黒坂茜です。草かんむりに西って書きます。」ってね。どうやら私は、朱肉の朱に、音って書いて朱音と読む少女にそっくりらしい。

引っ越してきてすぐぐらいに出会った大学生のお兄さん達に聞いたんだ。そういえばその人たちは私の名前呼ばなかったなあ。びっくりはしてたけど。


そういえばこの前、下校中に通学路で知らないおばちゃんから声をかけられた。「朱音?」って聞かれたからそうだよって答えた。そしたら抱きしめられてびっくり。普通怖いとか気持ち悪いとか思うのになんか懐かしい感じがしたの。

「おばちゃん?」私がそう言ったらちょっと悲しそうな顔してた。だからいつもの自己紹介したんだ。おばちゃんは「あまりにも娘にそっくりだったからごめんね…」って言ってた。多分、朱音さんの母親なのかな。


この街の人たちは誰もはっきり言わないけど、朱音さんは多分亡くなってると思う。私の直感がそう言ってる。

世界には似た人間が3人いるって言うし、この街に私が引っ越してきたことで朱音さんの魂が少しだけ私に入っちゃったのかな?とか色々考えた。

そして、ふと思った。もしかして生まれ変わりだったりして、、?
前世の記憶がこの街にきたことで少しだけ取り戻せたのかもしれない。もし仮に、そうだとしたなら、わたしにできることって何なんだろう。

分からなくなって、大学生のお兄さん達に相談した。お兄さん達は、生まれ変わりなんていう突拍子もない話をきちんときいてくれたうえで、あると思うって言ってた。

でも、私は私なんだから、とも言ってくれてた。その後5時の鐘が鳴って、私はなにか大事な約束を忘れている気がした。はるか昔、幼稚園ぐらいだった頃の私が必死に何かを訴えかけるの。

正確には私じゃない私。私にそっくりだけど、彼女は私じゃないってそう感じた。幼稚園ぐらいの彼女が私に何かを訴える。

大事な約束…なんだっけ……。



思い出せないまま気付けば眠っていた。



___

夢の中で小さな私と小さな男の子が、見慣れた丘で何か話してる。

いや、あれは私じゃない…?女の子の声が一際大きく聞こえた。「ねえ、___くん大きくなったら、結婚しようね!」男の子も嬉しそうに「うん!僕、___と結婚する!」って答えている。肝心の名前部分がノイズが入ったように聞こえない。

あの子は一体誰なんだ…あの女の子は私?だとしたら、あの男の子は……。

分からない、思い出せない。夢の中で私にそっくりな女の子と知らない男の子が婚約している。分からない。私じゃない。あの子は誰???
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...