遺品の思い出探します 鑑定士紅柄

碧井夢夏

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立ち合い

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 初夏の日、空き家の前で羽田早紀はねださき紅柄耀べんがらようは待ち合わせをしていた。

「お待たせしました――」

 何度か聞いた緩い声がした。早紀は辺りを見回す。向こうからゆっくり走って来る白い軽トラックの、運転席に紅柄耀が座っている。

「ああ、お車でいらしたんですね?」
「いやあ、この仕事、移動はだいたいコレなんです――」

 それもそうかもしれない、と早紀は思った。そういえば祖母の家にも駐車場がある。昔、まだ祖父が存命だった頃は、駐車場にも車が停まっていたのだ。

「どうぞ、こちらの駐車場、使って下さい」
「はい。ありがとうございます――」

 紅柄の危なっかしい車庫入れを見ながら、早紀は急に不安になってきた。何度か門にぶつかりかけている。よく見ると、軽トラックには凹みが多い。
 この目の前の紅柄という男は、信用できるのだろうか。旧友から勧められたからといって、信用のおける人物かは分からない。

「いやあ、駐車場狭いですね――」
「すいません……そういえば、軽しか持ってませんでした」
「僕の愛車も軽です、軽トラック」

 どう反応したら良いの? と早紀は思わず真顔で耀をじっと見つめる。まだ早紀は耀のペースが分からない。

「さて、羽田様、本日はざっと中を拝見させていただきます。作業時間の目安や費用の概算などをお伝えできる範囲で差し上げますね――」
「はい、よろしくお願いします」
「念のための確認ですが、立ち入られたくない場所や、触られたくない場所などはございませんか?」
「すいません、家人ではないので、そういったこともよく分からないんです」
「ああ、そういうケースの方、よくいらっしゃいますよ――」

 またそれか、と、早紀は何度か聞いた言葉に肩を落としかける。何のフォローにもなっていない。

「じゃあ、一緒に中を見て参りましょうか。羽田様は、軍手とスリッパ、口を覆うものはお持ちですか?」
「い、いえ……」
「それでは、こちらをどうぞ。べんがらセットです」
「べんがらセット……」
「ちなみに、このポーチの色が、『紅柄(べんがら)』なんですよ。日本の伝統色です」

 渡された不織布のポーチには、携帯スリッパとマスク、そして軍手が入っていた。

「べんがら、って色の名前なんですね」
「いや、僕の苗字なんですけど。あ、店名のべんがらは僕の苗字で。僕の苗字のべんがらは、鳥居なんかにも使われる伝統色です」
「ややこしいです……べんがらさんの名前は、この色と同じってことなんですね」
「そうです、それです」

 早紀は、なんとなく紅柄耀という男のことが分かり始めて来た。悪意はないが、独特なのだ。受け取った「べんがらセット」とやらを持ちながら、早紀は玄関の扉を開けた。

「こちらです」

 開けた途端、埃とカビの混じった匂いがする。

「ああ、羽田様、マスクを着用された方がよろしいかもしれませんね。空き家というのは痛みが激しくなるので……埃や塵が舞います」

 そう言った耀は既にマスクを着用していた。慌てて早紀も「べんがらセット」からマスクとスリッパを取り出す。

「さて、じゃあ、お邪魔しますね」

 耀は電気の点かない日本家屋に足を踏み入れると、玄関をぐるりと見回した。
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