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祖母の思い出 2
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早紀の目の前に広がっていた風景が変わった。
先ほどまで、近所に挨拶に回る祖母を見ていたはずが、いつの間にか小学校にいる。
「それで……早紀は、学校ではどうでしょうか?」
「ええ、まさしく優等生という感じで。クラスでもみんなを引っ張って行く頼もしい存在ですよ。勉強もよくできて、運動も得意で、みんなにも人気です」
祖母が着物を着て話をしていた相手は、小学校3年生の時の担任だ。
(えー……名前なんだっけ……小学校の先生とか、うろ覚えだなあ)
恐らく、これは保護者面談というやつなのだろう。母親が仕事先から駆け付けることもなく、保護者が参加しなければならないイベントは全て祖母が来てくれていたのを思い出した。
(今思えば……おばあちゃん、きっと大変だったよね。孫の保護者として学校にも来てたんだ)
早紀は、教室で担任と向かい合っている祖母を見た。
最後に会った時の祖母より随分若いが、それでも小学生の親に比べればひと世代も違う。
あの着物は、祖母なりに気合を入れたい時に着ていたのかもしれない。いわば戦闘服のようなものだったのだろうか。だから、着物を捨てた後も、この着物だけは箪笥の中に残していたのかもしれない。
(そういえば、おばあちゃんに迷惑かけたくなくて、私、優等生になろうって必死だったんだ)
早紀は、まだ背骨が曲がっていない祖母の姿を見ながら、当時の自分を思い出した。
親がいないから……とは言われたくなかった。祖母のためにも、優秀であり続けようとした。
子どもながらに、早紀は母親と自分が合わないことを分かっていた。祖母のために優秀であろうとした過去は、決して気負っていたわけでも、つらかったわけでもない。
ただ、早紀は祖母に喜んで欲しかったのだ。祖母が悲しまないようにしたかっただけだ。
「ああ、良かったです。あの子、頑張り屋なのは分かっていましたが、もともとがこの町の子ではないし、馴染めているか心配で……」
祖母がほっと胸を撫でおろしているのを見て、早紀は心から安堵した。
自分の知らないところで、祖母がどれだけ気苦労を抱えていたか、大人になった早紀には分かる。
(ありがとうね、おばあちゃん。きっと、いっぱい迷惑かけたよね)
改めて昔の祖母を見て、早紀の中に感謝の気持ちが沸いてきた。
祖母に愛されていた小さな自分と、その祖母のために頑張っていた幼い自分。
(これが、思い出のチカラ)
どうやら、今の早紀は祖母には見えていないらしい。思い出の中にいるのなら、それは理にかなっている。
(おばあちゃん、私、大きくなってからも……もっとおばあちゃんと話せばよかった)
改めて昔の祖母を見ると、自然と自分の至らなかったことに気付く。
早紀は高校入学を機に祖母の元を離れてから、あまり連絡も取らなくなっていた。
新しい生活に必死だったのだ。合わない母との共同生活、一刻も早く自立したいという想い。
アルバイトをしながら高校を卒業し、親元を離れて大学に行った。そこからもアルバイトと大学生活の日々。
(ごめんね……いっぱいいっぱいで、大事なことを忘れてた。私……)
思えば、祖母に一本電話を入れる位の時間は作れたはずだ。
でも、気持ちに余裕がなかった。優等生でなくなった自分を、祖母に見せるのが辛かった。
「ごめん、ごめんね……」
祖母と担任が早紀のことを話しているのを横目に、早紀は涙が止まらなかった。
どんなに後悔して取り戻したいと願っても、祖母はもう、この世にはいない――。
先ほどまで、近所に挨拶に回る祖母を見ていたはずが、いつの間にか小学校にいる。
「それで……早紀は、学校ではどうでしょうか?」
「ええ、まさしく優等生という感じで。クラスでもみんなを引っ張って行く頼もしい存在ですよ。勉強もよくできて、運動も得意で、みんなにも人気です」
祖母が着物を着て話をしていた相手は、小学校3年生の時の担任だ。
(えー……名前なんだっけ……小学校の先生とか、うろ覚えだなあ)
恐らく、これは保護者面談というやつなのだろう。母親が仕事先から駆け付けることもなく、保護者が参加しなければならないイベントは全て祖母が来てくれていたのを思い出した。
(今思えば……おばあちゃん、きっと大変だったよね。孫の保護者として学校にも来てたんだ)
早紀は、教室で担任と向かい合っている祖母を見た。
最後に会った時の祖母より随分若いが、それでも小学生の親に比べればひと世代も違う。
あの着物は、祖母なりに気合を入れたい時に着ていたのかもしれない。いわば戦闘服のようなものだったのだろうか。だから、着物を捨てた後も、この着物だけは箪笥の中に残していたのかもしれない。
(そういえば、おばあちゃんに迷惑かけたくなくて、私、優等生になろうって必死だったんだ)
早紀は、まだ背骨が曲がっていない祖母の姿を見ながら、当時の自分を思い出した。
親がいないから……とは言われたくなかった。祖母のためにも、優秀であり続けようとした。
子どもながらに、早紀は母親と自分が合わないことを分かっていた。祖母のために優秀であろうとした過去は、決して気負っていたわけでも、つらかったわけでもない。
ただ、早紀は祖母に喜んで欲しかったのだ。祖母が悲しまないようにしたかっただけだ。
「ああ、良かったです。あの子、頑張り屋なのは分かっていましたが、もともとがこの町の子ではないし、馴染めているか心配で……」
祖母がほっと胸を撫でおろしているのを見て、早紀は心から安堵した。
自分の知らないところで、祖母がどれだけ気苦労を抱えていたか、大人になった早紀には分かる。
(ありがとうね、おばあちゃん。きっと、いっぱい迷惑かけたよね)
改めて昔の祖母を見て、早紀の中に感謝の気持ちが沸いてきた。
祖母に愛されていた小さな自分と、その祖母のために頑張っていた幼い自分。
(これが、思い出のチカラ)
どうやら、今の早紀は祖母には見えていないらしい。思い出の中にいるのなら、それは理にかなっている。
(おばあちゃん、私、大きくなってからも……もっとおばあちゃんと話せばよかった)
改めて昔の祖母を見ると、自然と自分の至らなかったことに気付く。
早紀は高校入学を機に祖母の元を離れてから、あまり連絡も取らなくなっていた。
新しい生活に必死だったのだ。合わない母との共同生活、一刻も早く自立したいという想い。
アルバイトをしながら高校を卒業し、親元を離れて大学に行った。そこからもアルバイトと大学生活の日々。
(ごめんね……いっぱいいっぱいで、大事なことを忘れてた。私……)
思えば、祖母に一本電話を入れる位の時間は作れたはずだ。
でも、気持ちに余裕がなかった。優等生でなくなった自分を、祖母に見せるのが辛かった。
「ごめん、ごめんね……」
祖母と担任が早紀のことを話しているのを横目に、早紀は涙が止まらなかった。
どんなに後悔して取り戻したいと願っても、祖母はもう、この世にはいない――。
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