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the 21st day 王子様の到着
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ルイスは全身を白い正装に包み、大勢の護衛を連れてルリアーナ城に入城した。城門はルイスのために大きく開かれ、馬車ごとポテンシアの一行が迎えられる。
カイを先頭に、王女の護衛は跪いてルイスが歩いてくるのを待った。
「やあ、ブラッドに王女の護衛諸君、ご苦労様。顔を上げたまえよ」
ルイスの言葉に、護衛の4人が顔を上げると、ルイスは楽しそうに笑った。
「ブラッドは、随分こちらの任務が楽しそうだったね。それでは、王女の所に案内してもらおうか」
ルイスの言葉に、カイとブラッドが先導してレナの待つ応接に向かう。ルリアーナ城の全ての使用人が、その華やかな行列を敬意と畏怖をもって迎えた。
ルイスは応接に案内されると、扉が開かれ、中で頭を下げているレナの姿を視界に入れ、
「顔を上げてくれませんか、美しい人」
と柔らかい声をかける。レナはゆっくりと頭を上げた。髪には真珠が飾られ、下ろされた髪は内巻きに緩やかに巻かれていた。紫色で肩を露出させたドレスは、レナをいつもよりも大人びて見せる。
「本日は、わざわざこちらまで足をお運びいただき……」
レナがそう言ってまた頭を下げようとしたので、
「もう、頭は下げないことだ。あなたの顔が隠れてしまう」
とルイスは挨拶を制してレナに駆け寄り、手を取って甲に口付けた。
「2週間ぶりだというのに相変わらず綺麗だとお伝えしたいが、剪定のおかげだと返されてしまうかな。」
ルイスはそう言ってくすりと笑うと、レナを席に着かせて自分も座る。
「本日のドレスは、まるでリラの花ですね。そして、その色をしたリラの花言葉は、『愛の芽生え』というのをご存じですか?」
ルイスがそう言ってレナを見つめると、レナは、
「ルイス様は、リラの木がお好きなのかしら。まさかドレスの色まで、花に例えられるなんて思いませんでした。花言葉には詳しくないので、初耳です」
と恥ずかしがることもなく返す。
「……あなたを例える木を好きな木にしないわけがないと、分かった上で聞いておいでですか?」
ルイスは更にそう続けると、先日とは少し様子が違うレナの態度に気付いた。
(今迄のやり取りに比べ、堂々としているな。これが本性なのか……)
ルイスは興味深くレナを観察している。もう少し初心な印象が強かったが、何があったのだろうかと違和感がある。
「それは、失礼しました。花や木に例えられたのは初めてでしたので、真意を汲み切れなかったようです」
レナはそう言うとルイスに紅茶を勧めた。
「こちらは、私がブレンドに関わって作った紅茶なんですが……東洋の花が使われているんです。良ければどうぞ」
ルイスは運ばれてきた紅茶の香りを嗅ぐと、
「これは珍しい香りだ。……菊ですか?」
とレナに尋ねた。
「よくご存じですね。花の名前を当てられたのは、ルイス様が初めてです」
レナは、まさか香りだけで花の名前を当てられるとは思わず、心から驚いていた。
「ええ。この花は東洋で特に重宝される食用花ですね。花言葉は『高貴』ですから王女にも合う」
ルイスはそう言うと紅茶を一口含んで、長い息を吐いた。暫くルイスが黙っていたので、
「お口に合わなかったかしら」
と声を掛ける。どんなお世辞も軽々と言う王子が無言なのは珍しい。ルイスは頭を振って、
「リラの花もあなたに合いますが、確かに菊も、とてもあなたらしいと思っただけです」
と穏やかに言った。
その後、レナとルイスは庭を散歩し、庭木の様子を見ながら剪定が済んだばかりの木はこれではないか、などと話して和やかに過ごした。周りにはルイスの護衛とレナの護衛がついていたので2人きりとは程遠い環境だというのに、ルイスはレナの手を取ったり時折肩を抱いたりしてレナを困らせた。
レナは、もしルイスのことを少しでも好きになっていれば、この穏やかな時間をもう少し大切な時間として過ごせたのだろうかと何度かそんなことがよぎる。
ルイスは、レナが以前とは違うことにハッキリと気付いていた。婚約を進める決心が王女を変えたのかもしれないと思いながら、それでもレナの気持ちが自分に向いていないことを確信していた。
昼食はレナの部屋にあるテーブルで取ることになり、それぞれ護衛を3名ずつ付けて2人は向かい合って座った。
食事前に炭酸水で割ったレモネードが配られ、ルイスは、
「これは、あの時のレモネードですね」
と嬉しそうにレナに言って飲み干す。レナは「ええ」と返事をして、炭酸の泡が静かに弾けるのを眺めていた。
「どうも、心ここにあらずといった様子ですが、あなたの身に何か起きたのでしょうか」
ルイスに指摘されてレナは思い切り焦る。
「いえ、ここ最近どうも睡眠不足で、体調が万全でないものですから」
レナはそう言って何とか誤魔化そうとしたが、そこまでハッキリ分かるものなのかとルイスの鋭さに困っていた。
「申し訳ございません、ルイス様。今朝、早朝から私の訓練に殿下を付き合わせました。体調については、恐らく私のせいです」
その時、レナをフォローしたのは黒髪の特徴的な護衛だ。
「へえ……? 王女が、雇われの護衛に付き合って、早朝からわざわざ起きていたと? 私が来ると分かっている日にか」
ルイスは疑っていたのか、カイを問い詰めるためなのか、どちらとも取れる言い方で聞き返したので、その場に緊張が走る。
「ルイス様、訓練に参加したのは、私の意志です。あなたのいらっしゃる日にも早朝から予定を入れてしまったのは私の不手際です」
レナはそう言って頭を下げた。ルイスはバツが悪そうにレナを見ながら、
「あなたを責める気はありません。ただ……未来のパートナーとして私はレナ様を理解したいのだが、あなたはどこか他人事のようで、私のことなど見えていないのではと疑ってしまう」
と少し困ったように言う。ルイスの指摘はあまりにも的確で、レナは謝ることしかできなかった。
カイを先頭に、王女の護衛は跪いてルイスが歩いてくるのを待った。
「やあ、ブラッドに王女の護衛諸君、ご苦労様。顔を上げたまえよ」
ルイスの言葉に、護衛の4人が顔を上げると、ルイスは楽しそうに笑った。
「ブラッドは、随分こちらの任務が楽しそうだったね。それでは、王女の所に案内してもらおうか」
ルイスの言葉に、カイとブラッドが先導してレナの待つ応接に向かう。ルリアーナ城の全ての使用人が、その華やかな行列を敬意と畏怖をもって迎えた。
ルイスは応接に案内されると、扉が開かれ、中で頭を下げているレナの姿を視界に入れ、
「顔を上げてくれませんか、美しい人」
と柔らかい声をかける。レナはゆっくりと頭を上げた。髪には真珠が飾られ、下ろされた髪は内巻きに緩やかに巻かれていた。紫色で肩を露出させたドレスは、レナをいつもよりも大人びて見せる。
「本日は、わざわざこちらまで足をお運びいただき……」
レナがそう言ってまた頭を下げようとしたので、
「もう、頭は下げないことだ。あなたの顔が隠れてしまう」
とルイスは挨拶を制してレナに駆け寄り、手を取って甲に口付けた。
「2週間ぶりだというのに相変わらず綺麗だとお伝えしたいが、剪定のおかげだと返されてしまうかな。」
ルイスはそう言ってくすりと笑うと、レナを席に着かせて自分も座る。
「本日のドレスは、まるでリラの花ですね。そして、その色をしたリラの花言葉は、『愛の芽生え』というのをご存じですか?」
ルイスがそう言ってレナを見つめると、レナは、
「ルイス様は、リラの木がお好きなのかしら。まさかドレスの色まで、花に例えられるなんて思いませんでした。花言葉には詳しくないので、初耳です」
と恥ずかしがることもなく返す。
「……あなたを例える木を好きな木にしないわけがないと、分かった上で聞いておいでですか?」
ルイスは更にそう続けると、先日とは少し様子が違うレナの態度に気付いた。
(今迄のやり取りに比べ、堂々としているな。これが本性なのか……)
ルイスは興味深くレナを観察している。もう少し初心な印象が強かったが、何があったのだろうかと違和感がある。
「それは、失礼しました。花や木に例えられたのは初めてでしたので、真意を汲み切れなかったようです」
レナはそう言うとルイスに紅茶を勧めた。
「こちらは、私がブレンドに関わって作った紅茶なんですが……東洋の花が使われているんです。良ければどうぞ」
ルイスは運ばれてきた紅茶の香りを嗅ぐと、
「これは珍しい香りだ。……菊ですか?」
とレナに尋ねた。
「よくご存じですね。花の名前を当てられたのは、ルイス様が初めてです」
レナは、まさか香りだけで花の名前を当てられるとは思わず、心から驚いていた。
「ええ。この花は東洋で特に重宝される食用花ですね。花言葉は『高貴』ですから王女にも合う」
ルイスはそう言うと紅茶を一口含んで、長い息を吐いた。暫くルイスが黙っていたので、
「お口に合わなかったかしら」
と声を掛ける。どんなお世辞も軽々と言う王子が無言なのは珍しい。ルイスは頭を振って、
「リラの花もあなたに合いますが、確かに菊も、とてもあなたらしいと思っただけです」
と穏やかに言った。
その後、レナとルイスは庭を散歩し、庭木の様子を見ながら剪定が済んだばかりの木はこれではないか、などと話して和やかに過ごした。周りにはルイスの護衛とレナの護衛がついていたので2人きりとは程遠い環境だというのに、ルイスはレナの手を取ったり時折肩を抱いたりしてレナを困らせた。
レナは、もしルイスのことを少しでも好きになっていれば、この穏やかな時間をもう少し大切な時間として過ごせたのだろうかと何度かそんなことがよぎる。
ルイスは、レナが以前とは違うことにハッキリと気付いていた。婚約を進める決心が王女を変えたのかもしれないと思いながら、それでもレナの気持ちが自分に向いていないことを確信していた。
昼食はレナの部屋にあるテーブルで取ることになり、それぞれ護衛を3名ずつ付けて2人は向かい合って座った。
食事前に炭酸水で割ったレモネードが配られ、ルイスは、
「これは、あの時のレモネードですね」
と嬉しそうにレナに言って飲み干す。レナは「ええ」と返事をして、炭酸の泡が静かに弾けるのを眺めていた。
「どうも、心ここにあらずといった様子ですが、あなたの身に何か起きたのでしょうか」
ルイスに指摘されてレナは思い切り焦る。
「いえ、ここ最近どうも睡眠不足で、体調が万全でないものですから」
レナはそう言って何とか誤魔化そうとしたが、そこまでハッキリ分かるものなのかとルイスの鋭さに困っていた。
「申し訳ございません、ルイス様。今朝、早朝から私の訓練に殿下を付き合わせました。体調については、恐らく私のせいです」
その時、レナをフォローしたのは黒髪の特徴的な護衛だ。
「へえ……? 王女が、雇われの護衛に付き合って、早朝からわざわざ起きていたと? 私が来ると分かっている日にか」
ルイスは疑っていたのか、カイを問い詰めるためなのか、どちらとも取れる言い方で聞き返したので、その場に緊張が走る。
「ルイス様、訓練に参加したのは、私の意志です。あなたのいらっしゃる日にも早朝から予定を入れてしまったのは私の不手際です」
レナはそう言って頭を下げた。ルイスはバツが悪そうにレナを見ながら、
「あなたを責める気はありません。ただ……未来のパートナーとして私はレナ様を理解したいのだが、あなたはどこか他人事のようで、私のことなど見えていないのではと疑ってしまう」
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