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第2章 それぞれの向き合い方
カイの予感
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ハウザー騎士団がルリアーナ王女の護衛任務を終えてから、2ヶ月が経過していた。
ポテンシア王国の一部になった旧パースにいるカイは、ハンと共にユリウスの暴力から市民を守り、ブリステ公国にいるロキは、狂ったように仕事にのめり込み、同じくブリステ公国にいるシンは、結婚式の準備に追われていた。
それぞれが、別々の方法でレナの逝去を知り、自分たちの無力さに一度は打ちひしがれた。
それでも、日々を忙しく過ごしていると悲しみに暮れずに過ごすことができる。
若い騎士たちは、なるべく現実に起きた悲劇から目を背けるように必死になって働いた。
その頃、当のレナは行商の娘、エレナ・サントーロとしてポテンシアの町に滞在していた。
***
ある日、任務中のカイは旧ルリアーナとの国境付近に行くことがあった。
ルリアーナ付近の地であれば、ルイスの近況を知っている兵士がいるかもしれない。カイは、ふと、ルイスのことを尋ねてみたくなった。
ブライアンの元領地ではユリウス直属の兵士と争いになっているが、そもそもポテンシアの近衛兵自体は自衛と警備の業務についているだけの者が多い。
「ああ、ルイス様。勿論知ってますけど」
国境付近で何かの業務に当たっていた近衛兵を捕まえて、カイは話をする。
「そうですねえ……あの方は、結婚前に婚約者の王女様に先立たれましたからね。もう、見ていて痛々しいというか、ルリアーナを王女の忘れ形見として、とても一生懸命になられていますよ」
近衛兵の話を聞きながら、カイは無理もないかとルイスの状況を理解した。
「まあ、ルイス様はルリアーナ王女じゃなくても、女性には不自由しないはずなんですけどねえ……」
近衛兵は気まずそうに笑っていたが、カイはルイスがそこまで軽率ではないことくらい分かっている。すぐに別の婚約者を立てるほど、割り切ってはいないのだろう。
「そうか、業務中を邪魔したな」カイがそう言ってその場を離れようとすると、「あんた、カイ・ハウザーだろ? この間までルリアーナ王女の護衛に付いていた」と近衛兵に呼び止められるように尋ねられた。
近衛兵が何か思いつめたような顔をしているのが気になり、カイはなるべく近付く。
「ああ、そうだが?」
「実は……ちょっと聞いた話なんだ……」
近衛兵は、自分たちの仲間の間で噂になっていることをこっそりカイに打ち明けた。
カイが近衛兵から聞いた話は意外なものだった。
ポテンシアでは、ルイスのことが悲劇の王子として語られるようになったらしい。
それも、王女の呪いに憑りつかれたものとして、以前の放蕩息子とは全く別の姿になってしまったという噂だ。
カイはその話を聞いた時、今が本来のルイスだというだけだろうと特別気にしなかった。それが、ある一つの情報で一気に事態が変わる。
『ルイス様は王女の霊に会い、ルリアーナを託されたと言うんです』
それは王女の部屋で棺を前に集まっていた者の前で起きたという。
何人かの使用人がその一部始終を見ていたらしい。ただ、その場にいたルイス以外の人間には、王女の霊が全く見えなかったというのだ。
(あの時の、禁術そのものじゃないか…………)
レナは呪術師としての才があり、自分の姿を消すことができる。
ということは、姿が見えないだけでレナはどこかで生きているのかもしれない。
ルイスが見たというレナの霊は、レナが呪術で作り出した幻だとしか考えられないからだ。
(ただ、殿下に限って、ルイス王子だけに姿を見せたというのが引っかかる。もっと、色々な者の前に姿を見せそうなものだが……)
カイは頭の中で仮説を検証していく。
あの禁術を使うと、誰かの記憶から自分の記憶が消えてしまうのだと聞いた。だとすれば、術を使う相手を最小限に留めてルイスだけに使用した可能性も考えられる。
(仮に霊になってしまった殿下が現れるなら、俺のところに来てもおかしくない気がするんだが……まあ、現実を認めたくないルイス殿下が、幻を見た可能性も否定できない……)
もし、レナが本当に生きているなら、これからを生きていく術がない。
王女として育った彼女は世間を知らなすぎる上に、そもそも家事も平民の生活も知らない。
『もしも、本当に王女がこの世に生きているのならば、
何かの犯罪に巻き込まれたり、衣食住に困ったりしているのではないか』
生きている確証などどこにもないが、カイはレナが焼死したという事実はあり得ないと考えていた。
レナは火や水を操る呪術を身に着けている。ルリアーナを発つ前の日に、カイと共に過ごした時にも、レナは自在に火を扱っていた。火がレナに牙を剥くものだとは、考えがたい。
カイは、何故かレナがどこかで生きている気がした。
ただ、それが無事だということではないかもしれない。レナの姿を思い出す度、カイの心は大きく揺らいだ。
不安気な顔をして、どこかで泣いているのではないのだろうか。本当は、すぐにでも探しに行かなければならないのではないか。
そう思うだけで、カイの心は穏やかでなかった。こんなところにいても良いのか、すぐに探しに行ってやらねばならいのではないか。
そう思いながらも、既にブライアンに雇われて任務に就いているカイは、目の前の日々を全うするしかなかった。
ポテンシア王国の一部になった旧パースにいるカイは、ハンと共にユリウスの暴力から市民を守り、ブリステ公国にいるロキは、狂ったように仕事にのめり込み、同じくブリステ公国にいるシンは、結婚式の準備に追われていた。
それぞれが、別々の方法でレナの逝去を知り、自分たちの無力さに一度は打ちひしがれた。
それでも、日々を忙しく過ごしていると悲しみに暮れずに過ごすことができる。
若い騎士たちは、なるべく現実に起きた悲劇から目を背けるように必死になって働いた。
その頃、当のレナは行商の娘、エレナ・サントーロとしてポテンシアの町に滞在していた。
***
ある日、任務中のカイは旧ルリアーナとの国境付近に行くことがあった。
ルリアーナ付近の地であれば、ルイスの近況を知っている兵士がいるかもしれない。カイは、ふと、ルイスのことを尋ねてみたくなった。
ブライアンの元領地ではユリウス直属の兵士と争いになっているが、そもそもポテンシアの近衛兵自体は自衛と警備の業務についているだけの者が多い。
「ああ、ルイス様。勿論知ってますけど」
国境付近で何かの業務に当たっていた近衛兵を捕まえて、カイは話をする。
「そうですねえ……あの方は、結婚前に婚約者の王女様に先立たれましたからね。もう、見ていて痛々しいというか、ルリアーナを王女の忘れ形見として、とても一生懸命になられていますよ」
近衛兵の話を聞きながら、カイは無理もないかとルイスの状況を理解した。
「まあ、ルイス様はルリアーナ王女じゃなくても、女性には不自由しないはずなんですけどねえ……」
近衛兵は気まずそうに笑っていたが、カイはルイスがそこまで軽率ではないことくらい分かっている。すぐに別の婚約者を立てるほど、割り切ってはいないのだろう。
「そうか、業務中を邪魔したな」カイがそう言ってその場を離れようとすると、「あんた、カイ・ハウザーだろ? この間までルリアーナ王女の護衛に付いていた」と近衛兵に呼び止められるように尋ねられた。
近衛兵が何か思いつめたような顔をしているのが気になり、カイはなるべく近付く。
「ああ、そうだが?」
「実は……ちょっと聞いた話なんだ……」
近衛兵は、自分たちの仲間の間で噂になっていることをこっそりカイに打ち明けた。
カイが近衛兵から聞いた話は意外なものだった。
ポテンシアでは、ルイスのことが悲劇の王子として語られるようになったらしい。
それも、王女の呪いに憑りつかれたものとして、以前の放蕩息子とは全く別の姿になってしまったという噂だ。
カイはその話を聞いた時、今が本来のルイスだというだけだろうと特別気にしなかった。それが、ある一つの情報で一気に事態が変わる。
『ルイス様は王女の霊に会い、ルリアーナを託されたと言うんです』
それは王女の部屋で棺を前に集まっていた者の前で起きたという。
何人かの使用人がその一部始終を見ていたらしい。ただ、その場にいたルイス以外の人間には、王女の霊が全く見えなかったというのだ。
(あの時の、禁術そのものじゃないか…………)
レナは呪術師としての才があり、自分の姿を消すことができる。
ということは、姿が見えないだけでレナはどこかで生きているのかもしれない。
ルイスが見たというレナの霊は、レナが呪術で作り出した幻だとしか考えられないからだ。
(ただ、殿下に限って、ルイス王子だけに姿を見せたというのが引っかかる。もっと、色々な者の前に姿を見せそうなものだが……)
カイは頭の中で仮説を検証していく。
あの禁術を使うと、誰かの記憶から自分の記憶が消えてしまうのだと聞いた。だとすれば、術を使う相手を最小限に留めてルイスだけに使用した可能性も考えられる。
(仮に霊になってしまった殿下が現れるなら、俺のところに来てもおかしくない気がするんだが……まあ、現実を認めたくないルイス殿下が、幻を見た可能性も否定できない……)
もし、レナが本当に生きているなら、これからを生きていく術がない。
王女として育った彼女は世間を知らなすぎる上に、そもそも家事も平民の生活も知らない。
『もしも、本当に王女がこの世に生きているのならば、
何かの犯罪に巻き込まれたり、衣食住に困ったりしているのではないか』
生きている確証などどこにもないが、カイはレナが焼死したという事実はあり得ないと考えていた。
レナは火や水を操る呪術を身に着けている。ルリアーナを発つ前の日に、カイと共に過ごした時にも、レナは自在に火を扱っていた。火がレナに牙を剥くものだとは、考えがたい。
カイは、何故かレナがどこかで生きている気がした。
ただ、それが無事だということではないかもしれない。レナの姿を思い出す度、カイの心は大きく揺らいだ。
不安気な顔をして、どこかで泣いているのではないのだろうか。本当は、すぐにでも探しに行かなければならないのではないか。
そう思うだけで、カイの心は穏やかでなかった。こんなところにいても良いのか、すぐに探しに行ってやらねばならいのではないか。
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