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第3章 それが日常になっていく

ステージに立つ4人娘

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 ポテンシア王国とブリステ公国の国境近く、あまり大きくない町にあるアウルという名前のバールでは、その日も4人の女性によるステージ演出が行われた。
 多くの客の目当てはセンターに立つエレナという美しい女性で、悲恋や恋人を恋しく歌う曲を披露している。
 対して、残りの3名はコミカルな楽しい曲をよく歌っていた。


「ほーんと、エレナの恋の歌に疑似恋愛している男の多いこと」

 その日のステージが終わって楽屋に戻ると、恰幅の良いミミが言った。

「そりゃそうじゃない? 独り身で出稼ぎに来ている男の来る店なんだから。エレナは孤独な男に夢を見せているのよ」

 中肉中背のマーシャは特に関心も無さそうに言ったが、「ところで、例のエレナの恋人ってどんな人なの?」と細身で長身のマリヤが尋ねたので、3人はエレナをじっと見つめた。

「え……えっと……。見た目は、美男? かしらね」

 エレナは半年前に離れてしまったカイを思い出す。

「他は?」

 ミミがいつになく興味津々でエレナに詰め寄っている。

「口調は冷たいけど、本当は根が優しくて……私を甘やかすのが上手い人」

 エレナは、たった1ヶ月のカイとの日々を懐かしく思い出していた。

「うわあ。リアルね。甘やかすのが上手いって、ちょっと……」

 ミミは目を丸くして驚いている。
 他の2人はニヤニヤしながら詳しいことを聞こうとエレナの顔を嬉しそうに見ていた。

「その人とは、どこまで行ってたの?」

 マーシャは、純情そうなエレナがどんな恋愛をしていたのか気になったらしい。

「どこまで……?」

 エレナは自分が何を聞かれているのか、さっぱり分かっていなかった。

「ダメだわ、この子。その分だと、せいぜいお子様キス程度の関係ね」

 マリヤがからかうようにエレナをなじると、エレナは真っ赤になっている。

「そ、そうよ」

 エレナがそう言って赤くなりながらも少し泣きそうな顔をしていたのを、3人はしっかりと見てしまう。

「次に会う約束でも、してたんだ?」

 マーシャはエレナと腕を組んで指を絡める。

「それが、国際情勢のせいでこうなっているってことね? 相手の男は今頃、あなたを想って発狂しているでしょうね」

 マリヤもエレナの頭をゆっくり撫でていた。

「離れている間に相手が浮気していたとしても、それは許してあげなさいよ」

 ミミがしんみりと言ったので、マーシャとマリヤはミミの頭をはたいた。

「こんなことがなければ、エレナとその人は、今頃、幸せに暮らしていたのかもしれないのにね」

 マーシャがそう言うと、「それはそれでね、あんまり自信なかったの」とエレナは寂しそうに言った。

 『エレナ』は、今どこで任務に当たっているかも分からないカイを想う。
 訃報の流れた自分のことなどとっくに忘れているに違いない。

 このまま、会えずに年月が経って行くのだろうか。時間が経ってしまったせいか、一緒にいた頃にカイにどんな顔で揶揄われていたのか、ついに思い出せなくなっていた。
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