亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第6章 新生活は、甘めに

肉屋の看板娘

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 レナが肉屋で働くようになってから数日が経過した。
 町の肉屋シャルキュトリは生ハムや手作りのハムが人気で、レナのほかには店主の妹が店頭に立っている。
 レナは肉屋の取引先の飲食店に、決められた量のハムや肉を配達する仕事を主に担当していた。

「おはようございます」

 レナは台車を引きながら配達に回る。

「おはよう、今日も元気だね!」

 レナが配達をする先の飲食店は、誰もが親切で優しかった。
 レナが領主であるカイの関係者だと思われているからかもしれなかったが、仕事はとても楽しくできている。

 レナの顔を見に、肉屋に立ち寄ってくれる常連客も現れた。
 そのうち肉屋の店主を経由して、オーディスからカイにその話が入るとカイはレナらしいなと言って笑っていた。
 そのカイの様子があまりに普段と違うので、オーディスはレナがカイの特別な女性に違いないと確信するに至る。


 レナは店主の妹と店頭に立っている時、世間話をしていることが多い。
 店主の妹は25歳くらいの女性で、身体と声が大きめの女性だった。彼女は既婚者で近くに夫と住んでいるらしい。
 レナはよく、カイが家ではどんな様子なのかなどを聞かれた。

 レナは最近のカイの様子を思い出しては、「案外あれで優しいわ」と言っては惚気のろけだろうとからかわれた。

「私、この間までポテンシアにいたからブリステのことって詳しくないの」

 レナがそう言ってブリステ国内のことを店主の妹に聞いていた。
 すると、ハウザー騎士団が若者更生施設のごとく、行き詰った若者を雇って教育を施したり、仕事を与えているのだと教えられる。

 レナがその話を家で嬉しそうに報告すると、それは人手のためだとカイは謙遜した。


「レナは、ブリステで知っていることと言えばどんなこと?」

 店主の妹に聞かれて、何気なくレナは、「ロキのことは、知っているわ。カイの部下だから」と話に出した。
 『プリンセス・ルリアーナ』の紅茶のことなど、ロキについてはまだ気になっていることが多い。

「知っているって、どの程度?」

 店主の妹に聞かれて、レナは実業家をしながらカイの下で騎士として働いていることは知っていると伝えると、「ゴシップ的なものは、何も聞いたこと無いの?」と当然のように尋ねられたので、何も知らないと何気なく答えた。

「ライト様はね、ゴシップのネタとして人気なのよ。最後に噂になっていたのは人気女優だったり、その時に不倫報道が出たり。彼の周りには個人記者が張っていて、すぐに彼のゴシップは色んなところに知れ渡るの」

 店主の妹はごくごく一般的なロキの噂話として楽しそうにレナに話した。

「そ、そうなの……? すごいわね。で、今は、どんな人と付き合っているの?」

 レナは思わず聞いてしまった。知ったところで、どうなるわけでもない。
 ただ、ごくごく自然に話の流れで気になっていたことを聞いたまでだった。

「さあ、それが最近あんまり噂になっていないんだけど。でも、彼の社長秘書は元女優で、本命は彼女なんじゃないかって、みんな言ってるわ」
「へえ、そうなのね」

 離れた場所に住む肉屋の店員ですらロキの付き合ってきた女性を知っているということは、それだけ注目されているという証拠なのだろう。

 友人関係をロキから提案されてあれ程嬉しかったのに、預けられた髪が燃えてしまって連絡が取れなかったことは心残りで、一言、生きているとだけ伝えておきたかった。
 それもカイがロキのことを話しに出すまでは、なんとなくロキの話をするのは止めておこうと思っていた。ていた。
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