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第6章 新生活は、甘めに
諦めないよ
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レナが肉屋から出てロキに付いて行くと、すぐ傍に馬車が停まっていた。
一瞬だけ現れたロキの姿を目に入れた通行人の女性が驚いて悲鳴に近い声を上げる。
そのロキは、肉屋の娘を後ろに連れて、すぐに馬車の中に消えていった。
「なに……あれ?」
一瞬の出来事に、通行人は固まっていた。
「本当に有名人なのね?」
レナは周りの反応が思った以上で、目の前に居るのは自分の知るロキなのだろうかと信じられない。
そのレナを馬車の狭い空間で真っ直ぐ見つめるロキは、「有名だったらあんたが見直してくれるんじゃなけりゃ、あんまり関係ないけどね」と真剣な目をして言った。
「この先に、会社で持ってるレストランがあるんだ。そこなら個室で周りの目も気にせずに話ができると思う。あんたも俺も……ちょっと訳ありだからね」
けだるそうにそう言うロキは、レナが知っているロキのようにも見えるし、全く知らない男性のようにも見えた。
「あれからさ……ずっとまともに眠れなかったよ。あの日に任務を外れた後悔と、何もできなかった無念さに、毎日向き合ってた」
「そう……。ごめんなさい」
「任務終了の時は、もう、残りの問題はルイス様がなんとかしてくれるって、割り切ってたんだけどね」
「…………」
ぽつりぽつりとロキの本音が漏れるのを、レナは静かに聞いていた。
まさか、ロキは1年近くの時間、生きているかも分からないレナを想っていたのだろうか。レナはすっかり別人のようなロキのことが信じられない。
「詳しいことは、お店で色々聞かせてもらうつもりだけど……今、カイ・ハウザーと出来てるの?」
「出来てるって……?」
「……付き合ってるのか、ってことだよ」
「……付き合ってないわ……」
「ふうん……」
狭い空間は、気まずい雰囲気が漂う。
レナはレナで、自分はカイの何者でもない存在なのだと改めて口に出すのは辛かった。
この際、自分の気持ちはカイにあるのだとロキに言うべきか迷っていると、馬車が停車した。
「着いたか……」
ロキはそう言って馬車から降りると、降りるレナに手を差し伸べた。
レナはその手を取って馬車から降りたが、そのままロキに引き寄せられ、身体を包まれてしまう。
「生きてるって……一刻も早く知りたかったよ」
ロキは小さな声で振り絞るように言った。
それは、これまでの苦しさを吐き出すようでもあれば、久しぶりに会えた愛しい人に愛を囁いているようでもある。
「ごめんなさい。でも、私……」
レナはそのロキの腕から逃れようと抵抗し、身体を離そうとする。
「分かってるよ。好きなんだよね、カイ・ハウザーが」
ロキはそう言いながら、レナを抱きしめる腕に力を込めて言った。
「でも、あんたがもう王女様じゃなくなったんなら……諦めるつもりはないから」
一瞬だけ現れたロキの姿を目に入れた通行人の女性が驚いて悲鳴に近い声を上げる。
そのロキは、肉屋の娘を後ろに連れて、すぐに馬車の中に消えていった。
「なに……あれ?」
一瞬の出来事に、通行人は固まっていた。
「本当に有名人なのね?」
レナは周りの反応が思った以上で、目の前に居るのは自分の知るロキなのだろうかと信じられない。
そのレナを馬車の狭い空間で真っ直ぐ見つめるロキは、「有名だったらあんたが見直してくれるんじゃなけりゃ、あんまり関係ないけどね」と真剣な目をして言った。
「この先に、会社で持ってるレストランがあるんだ。そこなら個室で周りの目も気にせずに話ができると思う。あんたも俺も……ちょっと訳ありだからね」
けだるそうにそう言うロキは、レナが知っているロキのようにも見えるし、全く知らない男性のようにも見えた。
「あれからさ……ずっとまともに眠れなかったよ。あの日に任務を外れた後悔と、何もできなかった無念さに、毎日向き合ってた」
「そう……。ごめんなさい」
「任務終了の時は、もう、残りの問題はルイス様がなんとかしてくれるって、割り切ってたんだけどね」
「…………」
ぽつりぽつりとロキの本音が漏れるのを、レナは静かに聞いていた。
まさか、ロキは1年近くの時間、生きているかも分からないレナを想っていたのだろうか。レナはすっかり別人のようなロキのことが信じられない。
「詳しいことは、お店で色々聞かせてもらうつもりだけど……今、カイ・ハウザーと出来てるの?」
「出来てるって……?」
「……付き合ってるのか、ってことだよ」
「……付き合ってないわ……」
「ふうん……」
狭い空間は、気まずい雰囲気が漂う。
レナはレナで、自分はカイの何者でもない存在なのだと改めて口に出すのは辛かった。
この際、自分の気持ちはカイにあるのだとロキに言うべきか迷っていると、馬車が停車した。
「着いたか……」
ロキはそう言って馬車から降りると、降りるレナに手を差し伸べた。
レナはその手を取って馬車から降りたが、そのままロキに引き寄せられ、身体を包まれてしまう。
「生きてるって……一刻も早く知りたかったよ」
ロキは小さな声で振り絞るように言った。
それは、これまでの苦しさを吐き出すようでもあれば、久しぶりに会えた愛しい人に愛を囁いているようでもある。
「ごめんなさい。でも、私……」
レナはそのロキの腕から逃れようと抵抗し、身体を離そうとする。
「分かってるよ。好きなんだよね、カイ・ハウザーが」
ロキはそう言いながら、レナを抱きしめる腕に力を込めて言った。
「でも、あんたがもう王女様じゃなくなったんなら……諦めるつもりはないから」
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