86 / 229
第7章 争いの種はやがて全てを巻き込んで行く
使命に向かう決意
しおりを挟む
一日の終わり、すっかりルーティンのようになっている部屋で過ごす時間に、カイはブリステ公王から届いた書簡の内容をレナに告げた。
ポテンシアの情勢のこと、このままでは周辺国も戦火に巻き込まれていく可能性が高いこと、自分はブリステ公国のために兵士として前線に立つことになるだろうこと。
ひと通り話し終わって、カイは気まずそうにレナを見た。
泣かれるか、嫌がられるか、絶望される覚悟をしていた。
レナは、じっと話を聞いて、内容をゆっくり理解していた。
「思ったより早かったなあ、って言ったら……変かしら」
そう言うと、カイをじっと見て、「私も、行く」とハッキリと言い切った。カイが久しぶりに見た、王女の目をしている。
「何処にだ……」
カイは、予想外の言葉に目を見開いて聞き返すことしかできない。
何の決心をしているのか、元王女らしい覚悟が、瞳に灯っているのをハッキリと見て取れる。
「まずは、ブリステ公王のところからね。賓客として、というわけにはいかないけれど」
レナの言葉に、カイは嫌な予感しかしない。
「身分を、明かすつもりか……?」
カイは、そんなことをしたら……という己の都合を飲み込む。
先日のささやかな将来の約束が、目の前から音を立てて崩れていくようだ。
「そうしないと、陛下は話を聞いてくれないんじゃないかしら?」
「何を、話すつもりだ……」
「それを相談したかったんだけど」
レナが堂々と口にする内容が、まるで現実ではないような、遠くで聞こえる話のようにカイの耳を掠める。
どうして、この元王女は自分を簡単に犠牲にしようとするのか、カイは理解などしたくなかった。
「それ以外の方法はないと思うか?」
カイは、レナが自分を犠牲にしない方法を探りたい。逝去した王女が生きていた証明など、どうするかも全く想像がつかない。
「ルイス様と、話をした方がいいでしょ?」
レナが当たり前のように言う。
「いや……何を言ってるんだ……?」
今更ルイスの前に出て行って、何を伝えるつもりなのか。
仮にもルイスはレナの元婚約者で、カイにとっては都合の良い相手ではない。
国王に対する恨みの度合いを考えてみても、あの王子がレナに対する未練を抱えていることは確かだった。
「私にできることを、するのよ」
そう言ってレナはカイの手の上に自分の手を重ねる。
以前その行為をしたのは、ルリアーナ城でカイが人を殺めた日のことだった。
この強い手は、もう戦う覚悟をしているのだ。カイはその事実に絶句する。
カイはこんな運命に立ち向かわせるために、レナを見つけたのではない。
それがどうしてか、自分が好きになったレナ・ルリアーナという人物は、もともとこういう気質だったではないかと思い知る。
「俺は……レナを分かったつもりになっていたのかもしれない」
「きっと、あなたは私のこと、私よりよく分かってるわ」
もう、レナを説得することは無理なのだろうと、カイはソファで隣り合ったレナの肩を抱く。
「考えが甘かったな……。ずっと、こうしているつもりだった……」
「そんなの……私だってそうよ?」
ごく普通の恋人同士のように、2人は寄り添いながら明後日のことを考える。
「私ね……この数日間、毎日夢みたいだった。あなたのお陰で。私、好きな人と一緒に生きていきたかったから」
「諦めたのか……もう」
2人は指を絡め、ぽつりぽつりとこの数日間に思い描いた将来について話し始めた。
「あなたに似た黒い髪の子どもが、あのブランコで遊んでいる夢を見たの。私は、その子が怪我をしないかハラハラしながら、でも、信じて見ていなきゃって、手を出さないように近くにいて……」
「具体的な夢だな」
カイが笑う。
「あなたも、隣にいたのよ」
「俺は放任主義だと思うんだが」
「いいえ、随分と心配性だったわ」
レナの語った夢は、数日前であれば現実的な夢だった。
2日後、ブリステ公王の前で身分を明かしてしまった後では、レナはもうこの屋敷に来ることすら叶わなくなるかもしれない。
「その夢だが、妄想にしては具体的すぎるな。叶えてみたくなった」
カイは絡めた手の指を動かし、繋いだレナの手を確認するようにしながら、小さな声で言った。
「あなたひとりじゃ、叶えられないわよ?」
レナはその指が自分の手を温かく包むのを感じながら、ゆっくりカイの身体に体重を預ける。
一歩先の未来が暗闇に包まれていても、自分はそこに進むしかないのだと覚悟を決めていた。
ポテンシアの情勢のこと、このままでは周辺国も戦火に巻き込まれていく可能性が高いこと、自分はブリステ公国のために兵士として前線に立つことになるだろうこと。
ひと通り話し終わって、カイは気まずそうにレナを見た。
泣かれるか、嫌がられるか、絶望される覚悟をしていた。
レナは、じっと話を聞いて、内容をゆっくり理解していた。
「思ったより早かったなあ、って言ったら……変かしら」
そう言うと、カイをじっと見て、「私も、行く」とハッキリと言い切った。カイが久しぶりに見た、王女の目をしている。
「何処にだ……」
カイは、予想外の言葉に目を見開いて聞き返すことしかできない。
何の決心をしているのか、元王女らしい覚悟が、瞳に灯っているのをハッキリと見て取れる。
「まずは、ブリステ公王のところからね。賓客として、というわけにはいかないけれど」
レナの言葉に、カイは嫌な予感しかしない。
「身分を、明かすつもりか……?」
カイは、そんなことをしたら……という己の都合を飲み込む。
先日のささやかな将来の約束が、目の前から音を立てて崩れていくようだ。
「そうしないと、陛下は話を聞いてくれないんじゃないかしら?」
「何を、話すつもりだ……」
「それを相談したかったんだけど」
レナが堂々と口にする内容が、まるで現実ではないような、遠くで聞こえる話のようにカイの耳を掠める。
どうして、この元王女は自分を簡単に犠牲にしようとするのか、カイは理解などしたくなかった。
「それ以外の方法はないと思うか?」
カイは、レナが自分を犠牲にしない方法を探りたい。逝去した王女が生きていた証明など、どうするかも全く想像がつかない。
「ルイス様と、話をした方がいいでしょ?」
レナが当たり前のように言う。
「いや……何を言ってるんだ……?」
今更ルイスの前に出て行って、何を伝えるつもりなのか。
仮にもルイスはレナの元婚約者で、カイにとっては都合の良い相手ではない。
国王に対する恨みの度合いを考えてみても、あの王子がレナに対する未練を抱えていることは確かだった。
「私にできることを、するのよ」
そう言ってレナはカイの手の上に自分の手を重ねる。
以前その行為をしたのは、ルリアーナ城でカイが人を殺めた日のことだった。
この強い手は、もう戦う覚悟をしているのだ。カイはその事実に絶句する。
カイはこんな運命に立ち向かわせるために、レナを見つけたのではない。
それがどうしてか、自分が好きになったレナ・ルリアーナという人物は、もともとこういう気質だったではないかと思い知る。
「俺は……レナを分かったつもりになっていたのかもしれない」
「きっと、あなたは私のこと、私よりよく分かってるわ」
もう、レナを説得することは無理なのだろうと、カイはソファで隣り合ったレナの肩を抱く。
「考えが甘かったな……。ずっと、こうしているつもりだった……」
「そんなの……私だってそうよ?」
ごく普通の恋人同士のように、2人は寄り添いながら明後日のことを考える。
「私ね……この数日間、毎日夢みたいだった。あなたのお陰で。私、好きな人と一緒に生きていきたかったから」
「諦めたのか……もう」
2人は指を絡め、ぽつりぽつりとこの数日間に思い描いた将来について話し始めた。
「あなたに似た黒い髪の子どもが、あのブランコで遊んでいる夢を見たの。私は、その子が怪我をしないかハラハラしながら、でも、信じて見ていなきゃって、手を出さないように近くにいて……」
「具体的な夢だな」
カイが笑う。
「あなたも、隣にいたのよ」
「俺は放任主義だと思うんだが」
「いいえ、随分と心配性だったわ」
レナの語った夢は、数日前であれば現実的な夢だった。
2日後、ブリステ公王の前で身分を明かしてしまった後では、レナはもうこの屋敷に来ることすら叶わなくなるかもしれない。
「その夢だが、妄想にしては具体的すぎるな。叶えてみたくなった」
カイは絡めた手の指を動かし、繋いだレナの手を確認するようにしながら、小さな声で言った。
「あなたひとりじゃ、叶えられないわよ?」
レナはその指が自分の手を温かく包むのを感じながら、ゆっくりカイの身体に体重を預ける。
一歩先の未来が暗闇に包まれていても、自分はそこに進むしかないのだと覚悟を決めていた。
0
あなたにおすすめの小説
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる