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第9章 知ってしまったから
受け入れがたい結果
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その時は、突然やってきた。
カイとマルセルは前だけを見て、じっと相手の出方を窺っていた。また呪術が来るのか、兵が現れるのか、そして矢が降って来るのか・・。
息を呑んで、兵を止めて静かな地に佇む。ブリステ兵はそれ以上先に進む判断は止めて、迎え撃てる兵が来たら対応しよう、と決めて待った。
敵は、なかなか現れない。
誰もが気を抜いていたその時だ。
兵の上に、矢が降った。決して多くない量だった。それも何故か、自国兵の後方からだ。
「どうした!?」
マルセルとカイは矢が放たれた後方に馬を向ける。何が起きているのかまだ分からない。
自国兵が何人も矢に倒れ始めているのが見えると、カイは焦った。レナは後方支援部隊のどこかにいる。
止めるマルセルの声などまるで耳に入れず、カイは矢が降って来ている後方へ向かう。
レナが危ない。
矢の雨が降る中を、クロノスを走らせた。こういう時にカイは何故か矢を浴びたことがない。戦いに選ばれていたのか、単に運が良いのか、矢が自分に当たるという感覚を、カイはあまり持っていなかった。
「レナ!!」
絶叫に近い声で名前を叫ぶ。
「カイ!!」
10メートルほど先、荷台の中でしゃがんで、身を小さくしていたレナを見つけた。ほっと安堵してそちらに向かおうとした時、レナが立ち上がる。その後方で弓を構えている自国兵の姿を捉えた。
(危ない――!)
言葉にもならなかった。真っ直ぐに放たれた矢を見て、カイは咄嗟に『気』の風を起こそうとした。レナに当たらないよう、軌道をずらすのには充分間に合うはずだった。
「?!」
術が、発動しない。カイは何が起きているのか分からずに、レナにそのまま向かっていた。
『気』の風が発生していれば、レナに向かっていた矢が軌道を逸れたはずだ。
矢は真っ直ぐレナを捉え、カイのすぐ目の前で彼女の身体を貫通した。
「――――!!」
カイは声にならない絶叫を上げる。
レナの身体は荷台に崩れるように沈み込み、その脇腹に刺さった矢の場所からじわじわと生成りのドレスが紅く染まって行く。
「ハウザー団長、捕らえた方が・・!」
カイは周りの声など耳に入っていない。
レナの倒れている荷台を通り過ぎると、矢を放った兵士の首に槍を突き立てていた。
*
カイは一心不乱にクロノスを走らせていた。脇にレナを抱え、駐屯地に急ぐ。ふと目を落とすと、服がどんどん色を変えている。その血の量に、顔を歪めた。
カイはずっと血が苦手だった。色も、匂いも、何度戦場に立っても慣れない。そのせいで、常に返り血を浴びないような戦い方をしてきた。
その苦手な血が、レナの身体から流れ出ている。
レナを抱える手に、どろりとした生暖かい感触が絶えず注がれていた。
血液の脂特有のぬめりが手にまとわりつくのを感じると、カイは悔しさにうめき声をあげる。
なぜ、術が発動しなかったのか、なぜ、彼女が撃たれなければならなかったのか――。
徐々にレナの息が上がって来た。心なしか、額に汗が浮かんできている。
早く対処しなければ命に関わるかもしれない。
馬の背が揺れる度、抱えている小さな身体が大きく揺れた。
(間に合ってくれ、どうか――)
最後にカイが槍を突きたてた兵は、間違いなくブリステ公国人兵だった。
(ポテンシア国王が・・長年かけて潜伏させたか・・)
ルイスの手の者ではないだろう。戦場で何度も一緒になった兵だった。今まで、ずっとブリステ公国人として共に働いていた優秀な兵士だった。
「くそ・・」
カイは行き場所のない悔しさに怒りが収まらない。
レナを抱えている手から滴り落ちる血の量は、一向に減らなかった。
「レナ・・逝くな・・こんな・・」
既に言葉を発せないレナの荒い呼吸に、一秒でも早く対処しなければと心ばかりが焦る。
「必ず助けてやる。まだ何も成し遂げず、こんなところでくたばってどうする・・」
カイは既に、ある決意をしていた。
カイとマルセルは前だけを見て、じっと相手の出方を窺っていた。また呪術が来るのか、兵が現れるのか、そして矢が降って来るのか・・。
息を呑んで、兵を止めて静かな地に佇む。ブリステ兵はそれ以上先に進む判断は止めて、迎え撃てる兵が来たら対応しよう、と決めて待った。
敵は、なかなか現れない。
誰もが気を抜いていたその時だ。
兵の上に、矢が降った。決して多くない量だった。それも何故か、自国兵の後方からだ。
「どうした!?」
マルセルとカイは矢が放たれた後方に馬を向ける。何が起きているのかまだ分からない。
自国兵が何人も矢に倒れ始めているのが見えると、カイは焦った。レナは後方支援部隊のどこかにいる。
止めるマルセルの声などまるで耳に入れず、カイは矢が降って来ている後方へ向かう。
レナが危ない。
矢の雨が降る中を、クロノスを走らせた。こういう時にカイは何故か矢を浴びたことがない。戦いに選ばれていたのか、単に運が良いのか、矢が自分に当たるという感覚を、カイはあまり持っていなかった。
「レナ!!」
絶叫に近い声で名前を叫ぶ。
「カイ!!」
10メートルほど先、荷台の中でしゃがんで、身を小さくしていたレナを見つけた。ほっと安堵してそちらに向かおうとした時、レナが立ち上がる。その後方で弓を構えている自国兵の姿を捉えた。
(危ない――!)
言葉にもならなかった。真っ直ぐに放たれた矢を見て、カイは咄嗟に『気』の風を起こそうとした。レナに当たらないよう、軌道をずらすのには充分間に合うはずだった。
「?!」
術が、発動しない。カイは何が起きているのか分からずに、レナにそのまま向かっていた。
『気』の風が発生していれば、レナに向かっていた矢が軌道を逸れたはずだ。
矢は真っ直ぐレナを捉え、カイのすぐ目の前で彼女の身体を貫通した。
「――――!!」
カイは声にならない絶叫を上げる。
レナの身体は荷台に崩れるように沈み込み、その脇腹に刺さった矢の場所からじわじわと生成りのドレスが紅く染まって行く。
「ハウザー団長、捕らえた方が・・!」
カイは周りの声など耳に入っていない。
レナの倒れている荷台を通り過ぎると、矢を放った兵士の首に槍を突き立てていた。
*
カイは一心不乱にクロノスを走らせていた。脇にレナを抱え、駐屯地に急ぐ。ふと目を落とすと、服がどんどん色を変えている。その血の量に、顔を歪めた。
カイはずっと血が苦手だった。色も、匂いも、何度戦場に立っても慣れない。そのせいで、常に返り血を浴びないような戦い方をしてきた。
その苦手な血が、レナの身体から流れ出ている。
レナを抱える手に、どろりとした生暖かい感触が絶えず注がれていた。
血液の脂特有のぬめりが手にまとわりつくのを感じると、カイは悔しさにうめき声をあげる。
なぜ、術が発動しなかったのか、なぜ、彼女が撃たれなければならなかったのか――。
徐々にレナの息が上がって来た。心なしか、額に汗が浮かんできている。
早く対処しなければ命に関わるかもしれない。
馬の背が揺れる度、抱えている小さな身体が大きく揺れた。
(間に合ってくれ、どうか――)
最後にカイが槍を突きたてた兵は、間違いなくブリステ公国人兵だった。
(ポテンシア国王が・・長年かけて潜伏させたか・・)
ルイスの手の者ではないだろう。戦場で何度も一緒になった兵だった。今まで、ずっとブリステ公国人として共に働いていた優秀な兵士だった。
「くそ・・」
カイは行き場所のない悔しさに怒りが収まらない。
レナを抱えている手から滴り落ちる血の量は、一向に減らなかった。
「レナ・・逝くな・・こんな・・」
既に言葉を発せないレナの荒い呼吸に、一秒でも早く対処しなければと心ばかりが焦る。
「必ず助けてやる。まだ何も成し遂げず、こんなところでくたばってどうする・・」
カイは既に、ある決意をしていた。
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