亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第9章 知ってしまったから

生への執着

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レナはひと通りの説明をロキにすると、横になっているカイの頬に手を当てた。相変わらずヒヤリと冷たく、人の体温とは思えない。

「団長は・・あんたの傷を治すためにこうなったのか」
「ええ・・そんなこと、私は望んでなかったのにね」

レナがまた泣きそうな顔になっているのを、ロキはじっと見つめている。

「さっきまでは失望してたけど、そういう事情か」

ロキはそう言うと横になったままのカイをじっと見つめた。

「ねえ、団長・・。あんたがこのまま目を覚まさなかったら、俺はこの人を無理矢理にでも自分のものにするよ? それ、団長には耐えられるのかな・・? 嫌なら、ホラ、早く起きなよ・・」

ロキが語り掛けた内容に、レナは静かに涙を流した。スウの言った『生への執着』は、ロキの言うような内容で生まれるのだろうか。少なくとも、レナには考えも及ばなかった。

「カイは、身体がとても冷たいの。呼吸も弱いし、このままどんどん身体が冷たくなって行ったら・・、息が止まったらどうしようって、不安で・・」
「うん、分かるよ・・。俺もね、今迄目の前で何人もの大切な人を看取って来たから」

ロキは悲しい顔で笑うと、レナの涙をそっと指で拭う。

「でも、折角救ったあんたが倒れるようなことは、団長だって望んでいない。テントの前は、俺と、連れて来た護衛が見張ってるから・・今日は団長と一緒に寝てあげてよ。何かあったら、テントの前にいるから声を掛けて欲しい。不安だろうけど・・」

レナは無言で頷いた。すると、ロキは早速テントを出て行く。

「ありがとう・・ロキ」

背中にレナの声が掛けられる。ロキはそれをふっと柔らかく笑って聞くと、
「あんたのために何かできるなら、お安い御用だよ」
と振り返って嬉しそうに微笑んだ。


ロキがテントの前で見張っていてくれていると思っただけで、先程まで怯えていたレナはなんだか眠れそうな気がしてきた。

夕食の時間にマルセルに言われたこともあり、レナは周りの兵士にすら警戒しなければならないのだと知って眠れそうになかったのだ。

カイの隣で横になると、いつも自分を包む温かな体温が無いことに寂しさが襲う。

「ねえ、カイ・・。あなたもしかして、本当は私と一緒になる気なんてなかったでしょう? だから、こんなひどいことが出来るんだわ・・。あなただってお父様を失ってずっと辛かったはずなのに、それと同じことを私にもしようとするなんて・・」

レナは返事のないカイに向かってそう言うと、怒りすら沸いてきた。
どうしてこんなひどいことが出来るのだ、とカイを責めたい気持ちが溢れて来る。

「こんなにあなたのことが好きなのに、私たち、ちゃんとキスすらしてないわ。ねえ、なんでいつもあんな風に避けていたの? それでこれって、私が納得できると思う?」

レナは反応のないカイを責めた。頬を膨らませて目を閉じたカイを睨む。

「私、怒ってるのよ。許して欲しければ、目を覚まして・・」

レナはそう言ってカイの身体にしがみつくと、疲労の溜まった身体を休めるために静かに目を閉じた。
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