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第10章 新しい力

少数道中嫉心と共に

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夜が明け、まだ日が昇りきる前に4人は出発の準備を終えた。兵士の中に紛れていた間諜をあぶりだしたことで、マルセルもカイの交渉に折れて4人の出発を見送っている。

「この争いを侵略以外の形で終わらせてみたい。何が正解かは、分からないが」
「そうか。まあ、健闘を祈るよ」

カイはマルセルと軽い会話を交わすと、お互い口元だけで笑った。カイはすぐにレナを乗せて愛馬のクロノスで旅立ち、マルセルはカイに背を向けて自分のテントに戻って行く。

「行くぞ」

カイが声を掛けるとシンとロキもカイに続く。カイはまだ身体が万全ではなかった。


「どこまで行くの?」
「情報を取りながら進む。ルリアーナを目指しながら」
「力はまだ入りきらないんでしょ? 大丈夫?」
「普通だったら難しいが、クロノスとは意思疎通が図れる」

カイとレナが密着してそんな話をしている間、その様子を後ろで見ているロキが苦々しい目を2人に向けていた。

「どうした、まさかあの姿が想像できなかったのか?」
「想像できてたんだけど、実際見ると想像以上にむかつくんだよ」

シンとロキはそんな話をしながらカイ達の後ろに続いていたが、この先の事を考えると気持ちが沈む。

「彼女をルイス王子のところに行かせるのは……やっぱり反対だよ」
「まあ、これまでの流れからして穏やかじゃないよな」
「情報も集まって来てるけど、ルイス王子はかなり合理的な判断をする人みたいだよ。死んだ人間が現れたなんてこちらから情報を渡してでもしたら、たちの悪い悪戯だって切り捨てられそうな雰囲気だ」

ロキの言葉に、シンは確かになと短い息を吐いた。
自分がルイスだったとしたら……そんな悪戯が存在すると思っただけでおぞましいのは間違いない。

「ブリステに間諜を入れて内側から争いを起こさせるなんて、そんなことをしそうな人に見えなかったもんな……前に、ルリアーナで見たルイス様は」
「そうだね……人って、何面性もあるものだから分からないけど」

2人はそんな話をしながら、ポテンシア王国内を進んだ。最初に滞在するのはポテンシアのとある町にあるロキの資本が入った宿になる。

「宿で一旦情報を整理しよう。そこにポテンシア内の情報が集まるように指示してあるから」
「流石だなあ……」

シンはロキに羨望の眼差しを送る。
元々ポテンシア王国内にはロキの会社が出資している事業がいくつかある。そのネットワークを活かした「生きた情報」が今回は重要になって来るのだ。

「でしょ? こんなに有能でお金も持ってて顔も悪くないのにさ、なんであんな男の方がいいんだろうね……」

ロキはそう言って溜息をつく。シンは苦笑いしかできない。

「まあ、人には好みってものがあるからさ」
「ああいう真面目で堅い男が良かったのかなあ……」
「本人に聞けよ」
「本当に魅力なのは中身だって言ってたよ。優しくて可愛いんだって」

思い出してロキは不機嫌になった。
カイ・ハウザーを優しくて可愛いと思うくらいに、カイがレナに対して人には見せない顔を見せていることは分かる。
それを想像すると嫉妬心がこみ上げて来た。

「優しくて可愛い……それはまた、団長に一番似合わない形容詞で来たな」

シンは吹き出している。

「確かにおかしいけど、俺は全然面白くないんだよ」
「どう考えても転がされてんだろ、あの団長が」
「畜生……転がされたいな……」

ロキが悔しそうにそう言うのを、シンは既にこの状況がレナに転がされた結果ではないだろうかと首を傾げる。

目の前で堂々とベタベタとしながら周りが見えていない雰囲気の前方カップルについては、とりあえず言及しないことにした。
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