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第12章 騎士はその地で

近づくたび、離れていく

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ルリアーナ王国が復活して、5ヶ月。
国の中枢では女王を配してあらゆることが動いている。
政治に市民が参加するようになり、商業も発展し始めた。

女王は、権力を王族から切り離すために日々奔走中のようで……。

「ねえ、カイを見なかった?」

レナは部屋で文書に目を通していたが、ふと気になって自分の護衛に就いている兵士に尋ねた。

カイの部下は「存じ上げません」とだけ返事をすると、表情も変えずに静かに立っている。

「最近、なかなか護衛にも就いてくれないんだもの、総督ったらつれないわね」

レナはそれまで側で護衛をしていたカイの姿を探し、寂しそうに息を漏らす。

カイはブリステ公国とルリアーナ王国の同盟を橋渡しし、ブリステ公国から派遣された立場でルリアーナ国内の軍隊の総指揮を執っている。
そのせいで、最近は一緒に過ごす時間も減っていた。

「まあ、順調に位も上がっていらっしゃいますし、婚姻の日も近いのではないですか?」

サーヤが落ち込むレナの横を通り過ぎてベッドメイクを始めていた。

「でも、アロイス陛下からの許可が取れるかどうか」
「ああ、まあ、それは……」

サーヤは男女とはなかなか難しいのだなと笑う。ブリステ公王のアロイスが何を考えているのかが、これまでの流れから何となく分かっていた。

 *

「……あの、クソ親父が!」

カイは屋外の訓練を見ていた最中だった。
速達で届いた書簡を両手で引っ張り真っ二つに破ると、厚手の紙が予想外の破れ方をしたのを見て、部下の数名が震え上がる。

上司の機嫌が悪いときは訓練の強度が上がるのだ。

カイはアロイスから届いた書簡を細かくして空中に破り捨てる。白い紙吹雪が空に舞っていった。その程度では落ち着かず、ぶつけどころのない怒りで身体中の血が沸騰しそうになっている。

『ルリアーナ女王、ヘレナ・ルリアーナとの婚姻は認められない。理由はお前がよく知っている通りだ。以上。』

まさかこんな展開が待っているとは思わなかった。
カイは懸命に働き、地位もルリアーナ王国内に駐在する総督として軍隊を任されている。その功績から自国では伯爵位を与えられていた。

カイはもう下級貴族ではない。レナと並んでも身分差で責められるような立場ではなくなった。
本来であれば、あらゆる障害は乗り越えたはずだ。

(最後の最後に、下らない嫉妬に妨害されるとは――)

この結果をレナに伝えるのだと思った途端、カイは溜息が出る。

ルリアーナで軍隊の総指揮を執るようになってから、カイはほとんどレナの側にいられなくなっていた。

せめて一日の最後くらいは、と、カイは眠る前のレナを訪ねていたが、未婚の女王の寝室を訪ねる男がいるのは見栄えが良くないと苦言を呈され、それもままならなくなっている。

会いに行ける時間がほとんどなくなったことで、明らかにレナは不満そうだった。
それに加えて婚姻の承認が下りなかったと伝えるのは心苦しい。

カイはルリアーナ城から離れた場所に軍隊の訓練所を設置していた。
平和な国に軍事施設を設けるのは気が進まなかったが、一から軍隊を作って行く過程でどうしても必要だという結論に至ったのだ。

カイの仕事場が城内から離れると、レナと会う時間は大幅に減った。

(護衛に就くと約束しておきながら、どんどんレナから離れていく)

カイは優秀な部下を育て、レナの護衛を任せられる兵士も増やした。
時折ブリステ公国からシンを呼んだりもしていたが、リリスに子どもが産まれてからはそれも控えている。

カイは部下の訓練を横目で見ながら、腰の辺りで掌を上にかざした。ルリアーナ城の方向に向かって、ふっと柔らかい風を起こす。

(そこまで距離も離れていない。立場も近付いた。きっと、この風はそちらと繋がっている)

願うように、遠くにぼんやりと見える城を見つめる。
側にいられた日々が、懐かしくないわけがなかった。
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