亡国の王女は世界を歌う ―アメイジング・ナイト2—

碧井夢夏

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第12章 騎士はその地で

騎士団本部にて 3

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「いくらルリアーナの仕事が忙しいからと、こちらに来られるのがこんな頻度では不満も溜まっているのではないかと思ってな……」

カイはシンとたまたまそこにいた団員たちに話をした。
総督の立場でルリアーナを離れるのが難しい以上、騎士団はどこかに経営を委託して運営をシンに任せることにしようかと思い始めていたのだ。

「むしろ、毎日こちらに来られる方が団員にとっては不満が溜まるかと……」

シンの率直な物言いに、カイは一瞬で白けた。

「まるで疫病神だな」

団員に好かれている自覚はなかったが、そこまでの扱いだとは考えが及ばなかった。

むしろこの状況の方がうまく行くようなら、団長など辞めた方がいいのかもしれない。

「いえ、疫病神と言うか……」

団員のひとりが、話しづらそうに口を開く。シンが「いいよ、続けて」とその先を促した。

「団長は特別なんです。怖いのも半分ありますが、どちらかというと憧れに近いというか」

若手が肩を緊張させながら懸命に話すと、カイは瞬きをした。

「憧れ? だと?」
「そりゃそうですよ、パースでは英雄扱いをされていた『騎士団長様』で、ブリステでは『泣く子も黙るハウザー団長』ですからね」

シンは当然でしょうと得意気に言ったが、カイはいまいちよく分かっていない。

「ここに入って来る人間は、もともと団長の下で働きたいってやつばっかりですよ。たとえ今、ルリアーナの仕事でこちらに来られなくなっているのだとしても、みんな団長の下で働いているつもりでいます」

「いや、だが……」

カイは喉の奥に何かがつかえたような違和感がした。
このような名ばかりの団長では、他人の人生を背負うことなど無責任だろうと気になっていたのだ。

「現場は、俺がなんとかします。幸いリリスも数字をちゃんと見張っていてくれてますし、経営は今のところ順調です。でも、いつ何があるか分かりませんし、国の情勢次第で仕事の在り方だとか任務なんかは変わるかもしれません」

シンがそう言ってその場にいた若手を後ろから抱え込む。

「だけど、こんな頼もしい未来ある若者が集まってくるんですから、当面はルリアーナにいていただいて大丈夫ですよ。何かあった時には、必ず助けてください」

シンとそこにいた5人の若者の穏やかな笑顔を見て、カイは小さく笑う。

「知らないうちに、随分と偉そうじゃないか副団長」
「団長が相当偉いんで、ちょっと真似してみてるんですよ」

シンは若手を解放するとカイの前に立つ。

「団長が暫く不在にするくらい、なんでもありません」

カイは無言で拳を付き出し、シンの胸の直前で止めた。
シンの身体に風圧がかかり、身体がぶれないようにシンはその衝撃に耐える。

カイは直前で止めた拳を柔らかくシンの胸に当てた。

「頼りにしている。初めてシンに会った時に心から頼れる人物を見つけたと思ったが、俺の目は節穴ではなかったらしい」

カイが口角を上げると、シンは小さく吹き出した。

「いつだって、団長は俺を買い被りすぎです。でも、期待には応えたいんで頑張りますよ」
「いい心がけだ。今日くらいは訓練に付き合ってやろうか。たまには実践が要るだろう」
「お手柔らかにお願いします」

そう言ってカイとシンが部屋を連れ立って出ようと鍵を開けて扉を開く。
すると、扉のすぐ横には目に涙を溜めたリリスがいた。

「……心臓に悪い」

カイがずっと廊下にいたらしいリリスに怪訝な表情を浮かべていると、リリスは隣にいるシンの腕にしがみつく。

「私だって、カイが団長なのは不満なんかないわよ! シンを見つけて来てくれたのは、本当にあなた冴えてると思った!」
「全く……相変わらずやかましいな」

カイは苦々しい顔を見せた後に軽く表情を崩してそのまま歩いて行く。
シンはその後に続き、しがみついていたリリスは引っ張られるように巻き込まれていった。

その様子を部屋でなんとなく見ていた若手団員たちは、それぞれに肩をすくめて小さく笑う。
カイが実践に付き合う様子を見なければと気付き、慌てて後に続いた。
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