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祈り
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その日、あたしはノーヴァの家に用意された部屋で、窓際に向かって手を組んだ。
「太陽神様、今日も一日ありがとうございました――」
いつも、ここでアルが現れる。だけど、今日に限ってはアルの姿が無い。
「太陽神様……アルは……」
祈ったけど、アルが来る気配がない。これってどういうこと? 慌てて何度も祈ってみたけど、結果は同じだった。
「アル……? あたし……あなたに聞きたいことが……」
違う。
あたし、どんなことがあったってアルに会えるから耐えられるって思ってた。
アルの腕の中でアルの声を聞きたかったし、触れ合ってお互いを確かめられたらきっと明日も頑張れるって……。
「噓でしょ? アル……」
涙が湧き水みたいに溢れて来る。
アルがいない。アルと会えない。
あなたを、感じることができない。
ずっと泣いていたら辛くて堪らなくて、だけどこの事実をノーヴァにも教えなきゃって思った。
涙を拭いて、部屋を出る。すぐ近くのノーヴァの部屋の扉をノックした。
「はい……。どうかされましたか?」
驚いた顔で、ノーヴァが現れる。
「ノーヴァ……。アルが、アルが来てくれないの……」
事実を言った途端、涙がまた溢れて来た。
あたしが泣いていることに更に驚いたノーヴァは、あたしを部屋に入れて、あたしを抱きしめたままずっと背中をさすっていてくれた。
*
「あー……もう、ダメね。ごめんなさい。アルに会えると思っていたから、ショックで」
ノーヴァは落ち着いたあたしを椅子に座らせて、使用人にハーブティを用意させていた。
あたしはノーヴァにあやされるみたいに受け止められるなんて予想外で、今もまともにノーヴァの顔を見られないでいる。
「恐らく、アルバート王子に対する封印が強くなったのでしょう。今まで脱獄しようとしていたらしいということは、封印を弱くすることに成功していたのかもしれませんが、それもバレたのか通用しなくなったのか、そんなところだと思います」
ひとしきり泣いたからちょっとだけ落ち着いたけど、これから先、あたしは何を心の支えにしたらいいのか分からない。
「アルが処刑されることはないの?」
「さあ、どうでしょうね……されるならとっくにされていた気もしますが、分かりません」
滑稽なことに、アルを失ったらあたし、生きていく術なんかない。
添い遂げる誓いはしたけど、それもどちらかの命が尽きるまで。あの約束が、急に頼りのないものに思える。
「万が一、アルバート王子が処刑されたら……ずっとここに居てください」
「…………え?」
ノーヴァ、何言ってるの? あなた、婚期を逃しかねないわよ?
「気になさる必要はございません。妻に先立たれて、一生独りで生きるつもりだったので」
「先……亡くなってしまったの? ノーヴァの大切な人は……」
「もう、あっという間に3年前になってしまいましたが、子を宿して体調を崩し、そのまま帰らぬ人になりました」
聞いたことが無いわけじゃない。妊娠や出産は命懸けだって……。でもそれじゃ、ノーヴァは……。
「大切な命を、いっぺんに失ってしまったの? これから、家族が増えると思った矢先に、亡くしてしまったの……?」
どれだけ辛かったんだろう。きっと、奥様が亡くなる直前まで、ノーヴァは幸せいっぱいだったに違いない。
「もう……過去の話です……」
そんな訳がない。過去の話だったら、とっくに再婚して新しい人生を送ってる。あなたは……過去に自分を置いてきているのね。
「あたしじゃ、奥様の代わりにはなれないけど。でも、この広いおうちが寂しくないように、暫く騒がしくしてあげるわね」
「騒がしく、ですか」
「ええそうよ。アルに捻じ曲げられた根性を正してあげなきゃいけないし、あたしを鍛えてもらわなきゃならないし」
あたしがそう言うと、ノーヴァは本当に楽しそうに笑った。
ノーヴァの部屋に置かれた月の灯(ライト)は、クリオス社の製品の中でも、特に優しいオレンジの光を放つ特別なタイプのもので、部屋の中が柔らかく見える間接的な光を放っている。
いつかノーヴァが、この笑顔を普通に出せる日が来ればいいわねって思いながら、やっぱりあたしもアルを失ったら一生独身を貫きたくなるだろうなって、ノーヴァの選択には納得するしかなかった。
代わりの人、なんて、そんな簡単な話じゃない。
かけがえのない人を失うのは誰にでも起こりうることなんだって、頭では分かっているけれど。
それをすんなり受け入れられるほど、大切な人の存在は小さくないから。
「太陽神様、今日も一日ありがとうございました――」
いつも、ここでアルが現れる。だけど、今日に限ってはアルの姿が無い。
「太陽神様……アルは……」
祈ったけど、アルが来る気配がない。これってどういうこと? 慌てて何度も祈ってみたけど、結果は同じだった。
「アル……? あたし……あなたに聞きたいことが……」
違う。
あたし、どんなことがあったってアルに会えるから耐えられるって思ってた。
アルの腕の中でアルの声を聞きたかったし、触れ合ってお互いを確かめられたらきっと明日も頑張れるって……。
「噓でしょ? アル……」
涙が湧き水みたいに溢れて来る。
アルがいない。アルと会えない。
あなたを、感じることができない。
ずっと泣いていたら辛くて堪らなくて、だけどこの事実をノーヴァにも教えなきゃって思った。
涙を拭いて、部屋を出る。すぐ近くのノーヴァの部屋の扉をノックした。
「はい……。どうかされましたか?」
驚いた顔で、ノーヴァが現れる。
「ノーヴァ……。アルが、アルが来てくれないの……」
事実を言った途端、涙がまた溢れて来た。
あたしが泣いていることに更に驚いたノーヴァは、あたしを部屋に入れて、あたしを抱きしめたままずっと背中をさすっていてくれた。
*
「あー……もう、ダメね。ごめんなさい。アルに会えると思っていたから、ショックで」
ノーヴァは落ち着いたあたしを椅子に座らせて、使用人にハーブティを用意させていた。
あたしはノーヴァにあやされるみたいに受け止められるなんて予想外で、今もまともにノーヴァの顔を見られないでいる。
「恐らく、アルバート王子に対する封印が強くなったのでしょう。今まで脱獄しようとしていたらしいということは、封印を弱くすることに成功していたのかもしれませんが、それもバレたのか通用しなくなったのか、そんなところだと思います」
ひとしきり泣いたからちょっとだけ落ち着いたけど、これから先、あたしは何を心の支えにしたらいいのか分からない。
「アルが処刑されることはないの?」
「さあ、どうでしょうね……されるならとっくにされていた気もしますが、分かりません」
滑稽なことに、アルを失ったらあたし、生きていく術なんかない。
添い遂げる誓いはしたけど、それもどちらかの命が尽きるまで。あの約束が、急に頼りのないものに思える。
「万が一、アルバート王子が処刑されたら……ずっとここに居てください」
「…………え?」
ノーヴァ、何言ってるの? あなた、婚期を逃しかねないわよ?
「気になさる必要はございません。妻に先立たれて、一生独りで生きるつもりだったので」
「先……亡くなってしまったの? ノーヴァの大切な人は……」
「もう、あっという間に3年前になってしまいましたが、子を宿して体調を崩し、そのまま帰らぬ人になりました」
聞いたことが無いわけじゃない。妊娠や出産は命懸けだって……。でもそれじゃ、ノーヴァは……。
「大切な命を、いっぺんに失ってしまったの? これから、家族が増えると思った矢先に、亡くしてしまったの……?」
どれだけ辛かったんだろう。きっと、奥様が亡くなる直前まで、ノーヴァは幸せいっぱいだったに違いない。
「もう……過去の話です……」
そんな訳がない。過去の話だったら、とっくに再婚して新しい人生を送ってる。あなたは……過去に自分を置いてきているのね。
「あたしじゃ、奥様の代わりにはなれないけど。でも、この広いおうちが寂しくないように、暫く騒がしくしてあげるわね」
「騒がしく、ですか」
「ええそうよ。アルに捻じ曲げられた根性を正してあげなきゃいけないし、あたしを鍛えてもらわなきゃならないし」
あたしがそう言うと、ノーヴァは本当に楽しそうに笑った。
ノーヴァの部屋に置かれた月の灯(ライト)は、クリオス社の製品の中でも、特に優しいオレンジの光を放つ特別なタイプのもので、部屋の中が柔らかく見える間接的な光を放っている。
いつかノーヴァが、この笑顔を普通に出せる日が来ればいいわねって思いながら、やっぱりあたしもアルを失ったら一生独身を貫きたくなるだろうなって、ノーヴァの選択には納得するしかなかった。
代わりの人、なんて、そんな簡単な話じゃない。
かけがえのない人を失うのは誰にでも起こりうることなんだって、頭では分かっているけれど。
それをすんなり受け入れられるほど、大切な人の存在は小さくないから。
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